未だ「急減速」の兆しがない米景気

米景気は、2023年7~9月期の実質GDP伸び率(前期比年率)が5%近い異例の高成長となったところから、さすがに減速に向かうと見られている。ただ、これまでのところ「急減速」と言えるほどの兆しは確認できない状況が続いている。

例えば、この7~9月期の異例の高成長を予測的中させたことで注目されたアトランタ連銀の経済予測モデルであるGDPナウの2023年10~12月期の最新予想(1月10日更新)は2.2%。これでは「緩やかな減速」といった評価が妥当だろう。

米長期金利の10年債利回りは、2023年10月に約16年ぶりで5%まで上昇したが、同12月には一時3.8%を割れるまで約2ヶ月で1%以上と大きく低下した。しかし、その後は4%まで反発するなど下げ渋りが続いた(図表1参照)。これは米景気について、「急減速」の兆しが確認できない影響が大きいだろう。

【図表1】米10年債利回りの推移(2023年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

では、そもそも米景気の「急減速」は幻想かと言うと、必ずしもそうではないようだ。例えば、2023年12月FOMC(米連邦公開市場委員会)で公表されたメンバーの経済見通し「ドット・チャート」では、実質GDP伸び率の予想は2023年末の2.6%から2024年末には1.4%へ減速するとの予想となっていた。因みに、2024年末の実質GDP伸び率について最も弱気の予想は0.8%だった。

この「ドット・チャート」で最も注目されたのが政策金利のFFレートについて、2024年中に0.25%×3回の引き下げを予想していることを示唆した点だった。3回利下げしてなお、2024年末の実質GDP成長が1%程度にとどまるとの予想になっているということは、2024年中の途中の四半期ではマイナス成長への転落を予想している可能性も十分ありそうだ。ところが、そうした米景気の急減速、更には後退の兆しが中々確認できない状況が続いている。

米国景気・金利に連動する米ドル/円という構図

米ドル/円は2023年12月には140円割れ寸前まで急落したが、これは基本的には日米金利差米ドル優位縮小と連動したものだった(図表2参照)。そして、金利差米ドル優位縮小は基本的には日米ともに金利が低下する中で起こった。つまり、日本の金利より米金利が大きく低下したことで、「金利差米ドル優位縮小=米ドル安・円高」となったわけだ。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2023年11月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これまで見てきたように、米金利は米景気の「急減速」の兆しが確認できない中で下げ渋り、これを受けて「金利差米ドル優位拡大=米ドル高・円安」となったのが、年明け以降の基本的な構図だろう。米ドル高・円安への戻りがまだ続くか、米ドル安・円高再燃に向かうかは、米景気について「急減速」の兆しが出てくるかが最大の焦点ということではないか。