2023年もまもなく終わろうとしています。2023年は、国内では日銀の金融政策に翻弄されたものの、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めのピークアウト期待から株式市場が上昇し、円安も相まって日本の個人投資家にとっては良い年だったと言えます。

「適温相場」で広がる楽観論

2024年の世界経済も景気が過熱も失速もせず、緩やかに経済成長し、金利低下への期待が広がる「適温相場」が続くというのが、大方の予想です。

インフレが抑制されて、金利が低下すれば株式相場には追い風が続くと、投資家の間では2024年に関しても楽観論が広がっています。

相場にも存在する「3つの坂」

しかし、市場が楽観論に包まれた時には、思わぬ落とし穴に気をつけるべきです。

よく、人生には「上り坂」「下り坂」、そして「まさか」 という3つの坂があると言われます。資産運用でも、相場変動に一喜一憂するだけではなく、この「まさか」の事態への備えが必要です。

例えば、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻や、2023年発生したイスラエルのパレスチナへの攻撃などを想定していた人は少なかったのではないでしょうか。紛争に限らず、自然災害も予想できない事態が発生することがあります。

大切なことは、何かが起きる、起きないかを予想することではありません。例え発生する確率が低いとしても、想定外のことが起きた時の対処法を考えておくべきです。

最悪のシナリオに対応する

例えば、日本の投資家であれば、次のような「まさか」の事態への対応を考えてみてはどうでしょうか。

想定1: 中国の台湾侵攻

米中対立の中、台湾の政治体制の隙を突いて中国が台湾に軍事侵攻する。そのリスクはゼロではありません。

毛沢東生誕130年で習近平氏は、台湾統一を必ず実現すると演説しました。台湾だけではなく、さらに中国が領有権を主張する沖縄の尖閣諸島まで巻き込まれることになれば、日本の政治経済にも極めて大きな影響が出てきます。中国リスクは想定すべき最悪シナリオの1つです。

想定2: 首都圏直下地震

天災も想定すべきリスクの1つになります。

1923年の関東大震災から100年が経過し、首都圏直下地震はいつ起こってもおかしくない状況です。また、南海トラフ地震の可能性もあります。地震やそれに伴う火災などによって都市圏が被害を受ければ、日本経済は大きな混乱に陥ることになるでしょう。

地震だけではありません。火山活動を休止している富士山が噴火すれば、周辺地域に甚大な影響が起こります。

天災の発生をコントロールすることはできませんが、災害に備えて準備しておくことで、その被害を抑えることができます。

想定3: ハイパーインフレーション

低金利下で日本政府の財政赤字問題は先送りされていますが、いずれ問題が顕在化する「しきい値」を超えれば、先送りできない時期がやってきます。

その際にマーケットの大きな変動が起こる可能性があります。貨幣価値の下落が発生すれば、インフレが進むことになります。円の相対的な価値が下落すれば、為替レートが想定以上に大きく変動することも考えられます。通貨防衛のための金利引き上げが実施されるかもしれません。

また、上記のような世の中の変化だけではなく、自分自身や家族に事故や病気が襲ってきて、想定外の対応をしなければならないこともあり得ます。

金利、株価、為替など、マーケットの価格変動にどう対応するのか。あるいは、様々な有事の際に財産をどのように保全するのか。さらに、もし資産を海外に持ち出す場合、どのように輸送・換金するのか。

それぞれの状況をシミュレーションして、それらに対応できる柔軟な体制を構築しておく必要があります。

賢人は最善を望みながら最悪を覚悟する

資産運用を続けるために大切な心構えは、「最善を望みながら最悪を覚悟する」という考え方です。

最初から投資に否定的になって、リスクを過剰に恐れるのではなく、まず資産形成について自分なりのベストなシナリオを考えましょう。

その上で、最悪を覚悟することで、万が一有事が起こっても焦らず対応することができます。平時に慢心することなく、有事の想定とそれに対する対応をシミュレーションしてみてください。