今後、宇宙関連の経済規模は2040年までに1兆ドルに到達する見通し

米航空宇宙局(NASA)は月面探査・開発を目指す「アルテミス計画」を主導しています。第1段階(アルテミス1)として2022年11~12月に月の周回軌道に無人宇宙船を投入するミッションに成功しており、2024年11月以降に実施する第2段階(アルテミス2)では月の周回軌道に有人の宇宙船を投入する予定です。

また、第3段階(アルテミス3)では宇宙飛行士の月面着陸を目指します。早ければ2025年にも実行する予定で、女性や有色人種の飛行士が選ばれる見通しです。これまでに月面に降り立ったのはすべて白人男性で、実現すれば女性や有色人種が月面に立つ初めてのケースとなります。

ちなみにアルテミスはギリシャ神話に登場する女神の名で、アポロの双子の姉です。1960~70年代に米国が推し進め、人類を月に降り立たせるという成果を挙げた「アポロ計画」から半世紀以上。双子の姉の名をつけた月面探査・開発計画が本格的に稼働しているのです。

アルテミス計画では、月や火星の探査・開発に向けた中継基地となる月周回有人拠点(ゲートウェイ)を設ける予定で、完成時期の目標は2028年です。国際宇宙ステーション(ISS)のように米国を中心に多国間で協力する事業になる見通しで、月面基地の建設や月での資源探査・開発という将来のプロジェクトに向けて足場を築くのが狙いです。

米国の宇宙ビジネスでは、アルテミス計画など政府主導のプロジェクトが基盤になっており、NASAから業務を受注するケースが多いようですが、通信衛星や気象衛星の打ち上げなど民間の宇宙ビジネスも活発化しています。

米国の非営利団体である宇宙財団 (Space Foundation)が2023年7月に発表したリポートによると、世界の宇宙関連の経済規模は2022年に前年比8%増の5460億ドルに達しました。内訳は国防費を含む米国政府予算が695億ドル、他の国の政府予算が合計で491億ドルです。

商業セクターの経済規模は8%増の4276億ドルで、全体の78%を占めています。需要の増加を背景に衛星ブロードバンドサービスの規模が17%増、人工衛星の製造事業(ビジネス向け)の規模が35%増と拡大しています。

宇宙ビジネスの民間企業としてはテスラ[TSLA]の最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏が率いるスペースXやアマゾン・ドットコム[AMZN]のジェフ・ベゾス会長が設立したブルー・オリジンなどの注目度が高いのですが、残念ながら両社とも未上場です。

ただ、宇宙財団によると、宇宙関連の経済規模は2040年までに1兆ドルに到達する見通しで、一段の成長が見込まれています。スペースXやブルー・オリジンを除いても米国の産業基盤はぶ厚く、多彩な企業が競い合っています。

宇宙という極限とも言える環境で培った技術や知見は地球上でのビジネスにも生かすことができそうです。そこで、今回は宇宙開発セクターの上場企業をご紹介します。

宇宙開発セクターでの活躍が目立つ注目の5銘柄

ロケット・ラブ[RKLB]、スペースXのライバルか

ロケット・ラブは小型人工衛星の打ち上げサービスや宇宙船の開発・製造、関連部品の製造などを手掛けています。低価格の打ち上げ費用に定評があり、スペースXに挑む存在と目されることもあるようです。

創業者はニュージーランド出身のピーター・ベックCEOで、ロケットの発射場もニュージーランドにあります。本来は米国の発射技術や宇宙船関連の技術を使って米国外で打ち上げることは認められないそうですが、ロケット・ラブの場合は米国・ニュージーランド両政府が結んだ条約に基づき許可されています。

地上から500~2,000キロメートル程度の高度(地球低軌道)を周回する人工衛星の打ち上げサービスが主力事業でしたが、最近では人工衛星の基本機能を正常に動作させるための衛星バス「フォトン」をはじめ、関連部品の設計や開発を手掛ける宇宙システム部門が急速に成長しています。

NASAが主導するアルテミス計画でもフォトンが衛星バスとして利用されました。2022年2月に行われたNASAの小型衛星「CAPSTONE」を月の周回軌道に投入するミッションでは、ロケット・ラブのロケット「エレクトン」で打ち上げ、地球の軌道に入った後はフォトンで軌道修正を繰り返しました。フォトンはその後、地球の軌道を脱して月の周回軌道に向かい、CAPSTONEを切り離しています。

一方、打ち上げ事業では重量300キログラムを上限に地球低軌道に衛星などを打ち上げるエレクトンを運用していますが、中型ロケット「ニュートロン」の開発に取り組んでいます。スペースXの中型ロケット「ファルコン9」と規模が近く、スペースXのライバルになり得るとの見方も出ているようです。

2023年1~9月期の売上高は打ち上げサービス部門が前年同期比30.3%増の6300万ドル、宇宙システム部門が9.6%増の1億2100万ドルです。全体の売上高に占める比率は各々34%、66%です。

【図表1】ロケット・ラブ[RKLB]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表2】ロケット・ラブ[RKLB]:株価チャート
出所:トレードステーション

ボーイング[BA]、宇宙ビジネスで豊富な実績

ボーイングは宇宙分野のビジネスで長い伝統を持つ企業です。1960~70年代のアポロ計画にも参加しており、宇宙船の打ち上げに使った多段式ロケットの第1段の部分はボーイングの工場で製造されています。

1980年代にNASAが始めたスペースシャトル計画でも単独または共同出資会社を通じて参画。約30年に及ぶスペースシャトルの運用期間に数多くの契約を獲得しています。特にロッキード・マーチン[LMT]と折半出資した共同出資会社のユナイテッド・スペース・アライアンスはNASAと運航契約を結ぶなどスペースシャトル計画で重要な役割を担いました。

ロッキード・マーチンとは、スペースシャトル計画が終盤を迎えた2006年に共同出資会社のユナイテッド・ローンチ・アライアンスを稼働させています。宇宙船や人工衛星を打ち上げるサービスを手掛けており、NASAや米国防総省などが顧客です。イーロン・マスク氏が率いるスペースXとはライバル関係にあります。

ボーイングはまた、大型ロケットのスペース・ローンチ・システムをNASAと共同で開発しています。地球から比較的距離が近い低軌道に人工衛星などを飛ばすロケットとは異なり、有人月探査やその先の火星探査を視野に入れて開発されています。

実際、NASAが主導するアルテミス計画の第1段階(2022年11~12月)では月の周回軌道に無人宇宙船を投入するミッションにスペース・ローンチ・システムが使われ、打ち上げに成功しています。

ボーイングはロケットだけでなく、宇宙船のスターライナー(CST-100 Starliner)も開発しています。NASAのコマーシャルクループログラム(商業乗員輸送計画)に基づき開発が始まったカプセル型の有人宇宙船で、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を輸送する役割を担います。すでに無人の飛行試験に成功しており、有人の試験や実際の運用に向けた準備を進めている段階です。

NASAや国防総省との契約で培った技術を民生用にも活用しています。民間用の人工衛星の開発に加え、衛星通信サービスなども提供しています。

ただ、業績面では宇宙ビジネスの全容がはっきりしません。セグメント上で宇宙ビジネスは防衛・宇宙・セキュリティー部門に分類されていますが、国防というデリケートな分野を含むからなのか、詳細は明らかになっていません。

2023年1~9月期決算では防衛・宇宙・セキュリティー部門の売上高が前年同期比7.1%増の181億8700万ドル、営業損失が16億6300万ドル(前年同期は36億5600万ドルの営業損失)でした。防衛にしろ宇宙開発にしろ米国政府などと結ぶ長期契約が多いため、個別案件の売上高の計上時期などは契約の進捗状況の影響を受けると見られます。

【図表3】ボーイング[BA]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表4】ボーイング[BA]:株価チャート
出所:トレードステーション

ロッキード・マーチン[LMT]、「米国版はやぶさ」を開発

ロッキード・マーチンは宇宙開発ビジネスで米国を代表する企業の1つです。ボーイングは旅客機の開発・製造なども手掛けていますが、ロッキード・マーチンは軍用機など防衛分野の比重が大きいのが特徴です。

宇宙関連ビジネスの実績も豊富で、前述のようにボーイングとの共同出資会社のユナイテッド・スペース・アライアンスはスペースシャトル計画で重要な役割を担いました。宇宙船や人工衛星を打ち上げるユナイテッド・ローンチ・アライアンスもボーイングとの共同出資事業として展開しています。

NASAとも緊密に協力しており、共同で開発した探査機には「米国版はやぶさ」とも呼ばれる「オサイリス・レックス」があります。オサイリス・レックスは、小惑星のベンヌを探査して土砂などの試料を採取し、地球に投下する任務を与えられました。2016年9月に打ち上げられ、7年後の2023年9月に試料が入っていたと見られるカプセルを米国内に投下しています。

もちろんアルテミス計画でも重要な役割を担っています。計画で使われる宇宙船「オリオン」を開発しており、2022年11~12月には月周回軌道に投入する無人飛行(アルテミス1)が行われました。早ければ2024年に実施されるアルテミス2では有人飛行に使われる予定です。

さらに有人月面着陸に挑む「アルテミス3」以降で使用する月面探査車の開発もロッキード・マーチンが手掛けています。自動車大手のゼネラルモーターズ[GM]と共同で開発に乗り出しています。

この他にも全地球測位システム(GPS)に使われる人工衛星や気象衛星の「GOES-R」シリーズを開発するなど多角的に宇宙関連事業を手掛けています。

ロッキード・マーチンは決算報告書で、航空部門、ミサイル・武器制御部門、ロータリー・ミッション・システム部門、宇宙部門に事業を分類しています。2023年1~9月期決算の宇宙部門の売上高は前年比11.6%増の92億2600万ドル、営業利益は3.4%増の8億5100万ドルでした。売上高全体の約19%、営業利益の16%を占めています。

【図表5】ロッキード・マーチン[LMT]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表6】ロッキード・マーチン[LMT]:株価チャート
出所:トレードステーション

ノースロップ・グラマン[NOC]、アポロの月面着陸船を製造

ノースロップ・グラマンは米国の宇宙探査事業への貢献度で、ロッキード・マーチンやボーイングとともに御三家と言えるかもしれません。合併前のグラマンはアポロ計画にも参画しており、アポロ11号で初めて人類が月に降り立った時の月面着陸船「イーグル」を製造しています。4本足の特徴ある月面着陸船です。

防衛分野の比重が高い企業だけに宇宙空間のミサイル防衛システムや監視衛星、通信衛星などの開発や製造といった事業も手掛けています。もちろんNASAとの契約も多く、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ補給船「シグナス」を開発・製造しています。また、シグナスの打ち上げに使う中型ロケット「アンタレス」もノースロップ・グラマンが開発し、運用しています。

アルテミス計画では月の周回軌道に無人宇宙船を投入する第1段階のミッションで、スペース・ローンチ・システムのロケットが使われましたが、打ち上げ時にはノースロップ・グラマンの固体燃料ロケット・ブースターで推進力を加えました。さらにロッキード・マーチンが開発した宇宙船「オリオン」の緊急脱出システムに組み込む固体燃料ロケットエンジンも製造しています。

国防総省やNASAなどとの取引で培った技術を生かし、商用の通信衛星なども開発しています。2023年1~9月期決算では宇宙システム部門の売上高が前年同期比15.0%増の103億4400万ドル、営業利益は5.5%増の9億800万ドルでした。全体に占める割合はそれぞれ34%、27%です。

【図表7】ノースロップ・グラマン[NOC]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表8】ノースロップ・グラマン[NOC]:株価チャート
出所:トレードステーション

ヴァージン・ギャラクティック・ホールディングス[SPCE]、宇宙旅行事業を展開

ヴァージン・ギャラクティック・ホールディングスはヴァージン・グループの創業者である英国の実業家、リチャード・ブランソン氏が立ち上げた宇宙旅行の会社です。ブランソン氏も2021年に打ち上げ実験で宇宙に行っています。

ヴァージン・ギャラクティック・ホールディングスの宇宙旅行は宇宙船をロケットで地上から打ち上げるのではなく、母船となる双胴機で宇宙船を4万5,000フィート(約1万3,500メートル)の上空まで運び、切り離します。その後に宇宙船がエンジンを噴射し、宇宙に向かうという段取りです。

旅行は日帰りでフライト時間は60~70分程度です。2023年6月に初の商用の宇宙飛行に成功。その後は約1ヶ月に1回のペースで実施し、2023年11月初めまでに計6回の商業飛行を行っています。

旅行基本料金は45万ドル(約6500万円)です。1時間強のフライトに要する費用として高いのか安いのか判断は人によって各々だと思いますが、2022年末時点で800人分の予約が入り、差し入れられた保証金は1億300万ドルに上っています。

【図表9】ヴァージン・ギャラクティック・ホールディングス[SPCE]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表10】ヴァージン・ギャラクティック・ホールディングス[SPCE]:株価チャート
出所:トレードステーション