ユーロ/米ドル=トレンドはユーロ高・米ドル安、ユーロ高値更新へ?
ユーロ/米ドルは、2022年10月に0.95米ドルで底を打つと、2023年7月にかけて1.12米ドルまで上昇したが、その後は1.04米ドルまで反落となった(図表1参照)。この一因は金融政策見通しの変化だった。
7月にかけてユーロが上昇したのは、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げが終盤に差し掛かる中で、ECB(欧州中央銀行)の利上げはFRBの利上げより長く続くという見方の影響が大きかった。ただ、それが7月頃を境に変わった。
ユーロ圏のインフレ懸念は根強いものの、一方で景気への懸念も強くなった。物価高と景気後退が同時進行することをスタグフレーションと呼ぶが、そんなスタグフレーションへの懸念も浮上する中でユーロは下落に転じたということだろう。
このようなユーロ圏のスタグフレーション懸念に一役買ったのは原油価格の急騰だったのではないか。原油価格は7月以降大きく上昇に向かった。そして、やがてイスラエルとイスラム組織のハマスの紛争が拡大する中で、WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)は一時90米ドルを大きく上回る一段高となった。
WTIの動きを軸反転してユーロ/米ドルと重ねると、両者は一定程度連動していたことが確認できる(図表2参照)。以上からすると、7月以降の原油価格急騰がユーロ圏の景気悪化要因としてスタグフレーション懸念も浮上させたことで、ユーロ反落が広がったということではないか。
原油価格は、中東情勢の緊迫した状況が続くことを尻目に、10月以降は反落に転じた。原油価格の下落に連れる形で、ユーロ/ドルも反発に転じたということだろう。
こうした中で、ユーロ/米ドルは52週MA(移動平均線)を約2ヶ月と長く下回ったものの、大幅に下回るには至らず、最近にかけて52週MAを回復してきた(図表3参照)。このようなプライスアクションは、ユーロの反落はあくまで一時的な動きであり、基本的には2022年10月の0.95米ドルからのユーロ高トレンドが継続している可能性を示すものと言える。要するに、ユーロ高・米ドル安トレンドは、7月の1.12米ドルでまだ終わったわけではなさそうだ。
7月以降のユーロ安・米ドル高の背景には、7~9月期の米実質GDPが約5%といった異例の高い伸びとなった「強すぎる米景気」を受けた米ドル高の面も大きかった。シェール原油により、今や「世界一の産油国」となった米国では、原油高は景気にプラスに働くことがあり、それも「強すぎる米景気」が実現した一因だったかもしれない。
しかし、そんな原油価格の急騰は反落に転じた。米景気についても、この先は減速に向かう可能性が注目されてきた。こうした中でFRB利上げは終了し、2024年は利下げへの転換も注目されることになりそうだ。米ドル安要因も影響することで、ユーロ高・米ドル安トレンドが展開するというのが、2024年のメイン・シナリオになるのではないか。予想レンジは1.05~1.2米ドル中心で想定したい。
ユーロ/円、英ポンド/円=限界圏に達し、「逆コース」向かう可能性
ユーロ/米ドルは足元で5年MAを小幅に下回っている(図表4参照)。5年MAとの関係からすると、「上がり過ぎ」でも「下がり過ぎ」でもなく、ほぼニュートラルな状況にあるようだ。その意味では、2024年にユーロ高・米ドル安が続くなら、5年MAとの関係からすると「上がり過ぎ」拡大に向かうことになるだろう。
この5年MAとの関係が、ユーロ/円では大きく異なる。ユーロ/円は足元でも5年MAを2割以上上回っており、経験的には循環的なユーロ高・円安の限界圏に達している可能性が高そうだ(図表5参照)。
以上を参考にすると、2024年のユーロは、米ドルに対しては上昇トレンドが展開するものの、円に対しては下落に向かう可能性が高いのではないか。2023年に130円台から160円を大きく超えて上昇したユーロ/円だったが、2024年は基本的にはその「逆コース」に向かう可能性が高いのではないか。2024年のユーロ/円は、140~170円中心で想定したい。
英ポンド/円についても、基本的な考え方はユーロ/円に近いのではないか。5年MAかい離率はプラス20%以上に拡大、ユーロ/円と同様に経験的には英ポンド高の限界圏に達している可能性がある(図表6参照)。その意味では、2024年は2023年と「逆コース」で、英ポンド/円も下落に向かう可能性が高いのではないか。予想レンジは、165~195円中心で想定したい。
【図表6】英ポンド/円の5年MAかい離率(1995年~)