米ドル安・円高トレンドへの転換

2023年に、米ドル/円は2022年に続き2年連続で150円以上まで上昇した。これを米ドル/円の過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)との関係で見ると、5年MAを3割近く上回ったことになる(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の5年MAかい離率(1980年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

同じように、5年MAを米ドル/円が3割前後上回ったのは、1980年以降では1998年、2015年、そして2022年の3回しかなかったが、いずれも循環的な米ドル高・円安トレンドから米ドル安・円高トレンドへの転換点となった(図表2参照)。これを参考にすると、2024年は米ドル安・円高トレンドへ転換する可能性が高そうだ。

【図表2】米ドル/円の推移(1980年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

上述の1998年、2015年を含め、循環的な米ドル高・円安トレンドが転換すると、基本的には1年以内に2割程度の米ドル下落が起こった。その意味では、仮に2024年中に150円台前半から米ドルが2割下落するなら、120~125円程度まで米ドル安・円高に向かうといった見通しになる。では、米ドル安・円高へ転換する手掛かりは何か。

日本の金融緩和見直し、米国の利下げへの転換が材料に

まず考えられるのは、日本の金融緩和見直し、マイナス金利解除になる。この大前提は、デフレからの脱却だが、それを見極めて2024年春にマイナス金利解除が実現するとの見通しが今のところ基本になっている。そして、それに続く米ドル安・円高材料は、米国の利下げへの転換だろう。

1990年以降で、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げから利下げへの転換は5回あった。このうち「最後の利上げ」から「最初の利下げ」の間隔は、最短で5ヶ月、最長で18ヶ月、平均10.8ヶ月だった(図表3参照)。

【図表3】FRBの金融政策転換パターン(1990年~) 
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
※注1:黄色は利上げ
※注2:青色は最後の利上げから最初の利下げの間隔

これまでのところの「最後の利上げ」は2023年7月。仮に、それから10.8ヶ月後に「最初の利下げ」が行われるなら2024年6月頃といった計算になる。そして、遅くとも「最後の利上げ」から1年半程度で「最初の利下げ」が行われるなら、2024年中にそれが実現する計算になる。

以上のように見ると、2024年は、春にかけての日銀の金融緩和見直し、そして年後半はFRBの金融緩和への転換が注目される。前者は円金利上昇要因であり、後者は米金利低下要因なので、2024年を通じて日米金利差縮小への思惑が広がる可能性がありそうだ。そうした中で、米ドル安・円高が広がるのではないか。

米大統領選挙アノマリー

これまで見てきたことから、2024年に米ドル安・円高へ向かう可能性はやはり高そうだ。ただ、それが展開するペースには、少し注意する必要があるかもしれない。第1の理由は、2024年は米大統領選挙年だということだ。

アノマリーが機能すれば、米大統領選挙までは米ドル/円は小動きに

4年に1度の米大統領選挙年の米ドル/円には、選挙までは小動きが続き、選挙の結果を受けて一方向に大きく動き出すという「アノマリー」があった。これは、「世界のリーダー」といった存在の米大統領が決まるまでは、米ドル/円も動きにくいということだったかもしれない。この「アノマリー」が2024年も機能するなら、米ドル安・円高への動きもしばらくは限られる可能性があるだろう。

そもそも日米の金融政策の転換が米ドル安・円高を後押ししそうな見通しの2024年ではあるが、日本の金利上昇、そして米金利の低下とも、今のところはそれが大幅に起こる感じはないのが正直なところだろう。その結果、日米金利差縮小が当面緩やかな動きにとどまり、それを受けて米ドル安・円高も、あくまで緩やかなペースにとどまる可能性はあるだろう。

最近と同じように、米ドル/円が5年MAを3割程度上回ったところで天井を打って下落トレンドに転換したのは、1998年、2015年、2022年の3回だった。ただ、この3回の米ドル/円の下落への転換ペースは異なるものだった。

1998年の場合は、米ドル安・円高へ転換すると、すぐに米ドルは急落に向かった。これに対して、2015年の場合は、米ドル安・円高の動きは鈍く、一般的にトレンドの転換が認識されるまでは半年以上とかなり時間がかかった。2022年の場合は、トレンド転換直後こそ米ドル安・円高へ大きく動いたものの、すぐにそれが一巡すると米ドル高・円安が再燃するところとなった。

ショック相場が起こらなければ、ドル安/円高の加速は米大統領選挙後か

上記の3つのケースについて、分かりやすい違いとなったのは「ショック相場」の有無ではなかったか。1998年の場合は、米ドル安・円高へトレンド転換してすぐに「LTCMショック」と呼ばれたヘッジファンド危機が起こり、それが米ドル急落を後押しするところとなった。これに対して、2015年の場合は、「チャイナ・ショック」、「Brexit(英国のEU離脱)ショック」などが起こったが、それは米ドル安・円高へトレンド転換して少し経過してからだった。更に、2022年の場合は、米ドル安・円高に転換した後も、目立った「××ショック」が起こらない中で米ドル高・円安再燃となった。

そもそも大幅な米ドル高・円安の背景には、大幅な日米金利差がある。「××ショック」が起こるとそれは急変する可能性があるが、そうでなければ大幅な金利差を受けた根強い米ドル買い・円売りも顕著な変化はないだろう。

以上を踏まえると、2024年の米ドル/円は、米ドル高・円安から米ドル安・円高へのトレンド転換が起こるとして、予想レンジは125~152円中心で想定する。ただし、「××ショック」が起こらないようなら、米ドル安・円高の加速は、11月の米大統領選挙前後以降になる可能性もあるだろう。