米ドル/円「CPI本位制」の変化

今週は、CPI(消費者物価指数)など10月の米経済指標の発表が相次ぐ予定となっている。11月14日がCPI、そして15日はPPI(生産者物価指数)、小売売上高といった具合だ。これまではCPIを筆頭に、米インフレ指標の発表を受けて米ドル/円も大きく動く状況が続いてきたが、徐々にそれが変わり始めてきた可能性がある。インフレ指標より、景気指標の結果に米ドル/円なども大きく反応するようになってきたのではないか。

背景にありそうなのは、金融市場が注目するテーマの変化だ。これまでは、約40年ぶりのインフレ、その対策としての大幅利上げが相場を大きく変動させる要因となってきたが、インフレも徐々に是正されてきた。一方で、2023年7~9月期の米実質GDP・速報値が前期比年率で5%近い異例の高い伸びとなるなど、「強すぎる米景気」への注目が高くなった。こうした中で、金融市場の変動要因の主役は、インフレ動向から「強すぎる米景気」の行方に変わり始めた可能性があるのではないか。

図表は、2022年7月以降の米CPI発表と米ドル/円の関係を調べたもの。これを見ると、2023年1月にかけて、米CPIが予想より強い結果だと3円以上の米ドル高、逆に予想より弱い結果だと3円以上の米ドル急落といった具合に、米CPIの結果に対して米ドル/円が大きく反応する状況が続いていたことが分かるだろう。この頃の金融市場は、ほとんど「CPI本位制」という構図だったかもしれない。

【図表】米CPI発表と米ドル/円の反応(2022年7月~)
※黄色は結果が予想以上で米ドル高となったケース、青色は結果が予想以下で米ドル安になったケース
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

ところが、2023年2月以降は、CPI発表を受けた米ドル/円の最大変動幅は2円前後に縮小し、更にこの9、10月は同変動幅が1円未満にとどまった。米CPIの結果に対する米ドル/円の反応が限られるようになってきたわけだ。

注目はインフレ指標から景気指標へ。そして景気減速の見極めを

一方で、代表的な景気指標の1つである雇用統計が2023年11月3日に発表され、NFP(非農業部門雇用者数)などが予想より弱い結果となると、米ドル/円は150円台前半から149円割れ近くまで1円以上の急落となった。

こうしたインフレ指標と景気指標に対する米ドル/円の反応の変化は、すでに述べたように金融市場が注目するテーマがインフレから景気へ変わってきたと考えることで辻褄が合いそうだ。

さて、そんな米景気指標、11月第1週に発表されたISM(米供給管理協会)の製造業及び非製造業景気指数、そして上述の雇用統計など予想より弱い結果が相次いだ。今週発表予定の小売売上高、鉱工業生産なども、前回実績より弱い予想が多くなっている。2023年7~9月期の「異例の高成長」からの減速の程度の見極めが、当面の米金利や米ドル相場へ大きく影響する可能性がありそうだ。