マネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集。それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』を連載しています。

マネックス証券が本当に伝えたいお金のこと、世界のこと…、親子で一緒に読んでほしい本音トークを繰り広げます。

第8回目のゲストは、農林中金バリューインベストメンツ株式会社・常務取締役(CIO)の奥野一成さん。日本における長期厳選投資の第一人者であり、近年は中高生に向けた金融経済教育の普及にも注力しています。今回は、高校1年生のアローンさんから届いた質問「政府も世の中も投資を薦めているようですが、なぜ暴落する可能性のあるものに投資したほうがよいのですか?」へのアンサーとともに、株式を持つ意味や投資哲学、若いうちに経験してほしいことなどについて奥野さんにお聞きしました。

投資は決して「ギャンブル」ではない

「暴落するリスクがあるのに、なぜ株式投資をするのか?」という質問は、中高生だけでなく幅広い世代の方からよく投げかけられる質問です。日本では、「投資」のことを「ギャンブル」だと思っている人が多いからですね。もしかしたら、おじいちゃんに「株にだけは手を出すな」と言われている人もいるかもしれません(笑)。株式などに投資する以上、買ったときに比べて価格が値下がりする可能性はもちろんありますが、「投資は決してギャンブルではない」ということから、まずは知っていただきたいと思います。

 

「株式を保有する」ということはどういうことなのか、改めて考えてみましょう。例えば、トヨタ自動車の株式を持つということは、トヨタの車が世界中で売れて、そこから得られる利益の所有権の一部を持てるということ。もっと分かりやすく言うなら、米ウォルト・ディズニーの株式を持てば、世界中のディズニーランドでミッキーマウスたちがあなたのために働いてくれるということ。つまり、株式は優秀なビジネスモデルを持つ企業の「オーナー」になれるチケットのようなものなのです。

株価は変動するので、相場はときに暴落することもあります。しかし、投資をして本当に素晴らしい企業のオーナーになれば、長期的にはその企業が成長して得られる利益を株主として享受できる。株主も一緒にハッピーになれるのです。

「投資家マインド」で資本主義社会に参加し、世界を変える

なぜ日本で「株式投資はギャンブルだ」という意識が根付いてしまったのか。原因のひとつは、第二次世界大戦の敗戦で日本人の「投資家マインド」がリセットされてしまったことにあるのではないかと考えています。

1945年、終戦を迎えて国土が焼け野原になってしまった日本では、国にも個人にもお金がなく、「売るもの」といえば安価な労働力だけでした。そこから、日本人は汗水たらして一生懸命働き、高度経済成長期を経て、戦後30年で先進国の仲間入りを果たしました。ただ、この間に日本人は「労働者」としての教育しか受けてこなかった。「投資家」としての教育を受ける機会がなかったため、投資に対する偏見が生まれてしまったのだと思います。そしてバブル経済が崩壊して30年。国民に投資家マインドが根付かないまま、日本は停滞を続けています。

 

日本人が持っている約2000兆円の個人金融資産のうち、半分が預貯金です。「投資するより、現金で持っているほうが安泰じゃないか」と思われるかもしれませんが、皆さんが安全だと思われている「円」はここ数年、ものすごい勢いで価値が下がっています。海外旅行に行ったとき、今まで100万円で買えていたものが130万円出さないと買えなくなっているんですね。さらに、最近は「物価が上がっている」というニュースをよく見ますが、日本だけでなく、世界中でインフレが起こっています。現金を銀行に預けているだけでは、その価値はどんどん目減りしていくということです。

このままでは、日本は世界の成長に取り残され、「貧しい国」になってしまう可能性があります。一方で、何も生み出さずに銀行で眠っている1000兆円ものお金が世の中を良くする製品やサービスに投資されたら、日本はもっと成長していけるでしょう。自分が投資した企業が成長し、利益が還元されることはワクワクすることです。同時に、投資を通じて資本主義社会に参加することは、世界を変えることにもつながるという事実を、ぜひ知っておいてほしいのです。

投資は脳に汗する「知の総合格闘技」

中高生の皆さんにお伝えしたいのは、「投資は知の総合格闘技」だということです。決して「ラクして儲かる」ものではありません。ありとあらゆる知識を総動員し、自ら思考することが求められます。学生のうちは「なぜ、勉強しなくちゃいけないのか」と面倒に思うこともあるかもしれませんが、投資家としてはもちろん、ビジネスパーソンとしても、学生時代の勉強は何ひとつ無駄にはなりません。社会に出る前の「地力」をつける期間が学生時代なのです。

なかでも株式投資をする際に必要になるのは、会計や財務の知識です。「イメージがいいから」「個人的に好きだから」「よく行くレストランチェーンの食事がおいしいから」といった印象だけで投資をしていては、投資家=その企業のオーナーは儲かりません。そのサービスやモノが「利益」にどのようにつながっているのかどうか判断するのが大切。そのために必要な会計や財務の土台となるのが「数学」です。今のうちにしっかりと身に付けておきましょう。

奥野さんの必須アイテムである手帳。アイデアや目標など「書く」ことで整理されていくそう

ほかにも必須となるのが「英語」。例えば、米ウォルト・ディズニーの株を買いたいと思っても、英語ができないと決算書は読めませんよね。あとは見過ごされがちですが、「歴史」も重要です。「年号を丸暗記する」といったことではなく、世界の文明の成り立ちから資本主義の発展、自国だけではなく、世界の歴史を大局的に捉えておくことが、大人になった自分自身を形づくるための教養となります。

はみ出すことを恐れず「自分自身のオーナーになれ」

 

投資について、全国の中学・高校などで講演をする機会も多いのですが、そこで皆さんにお伝えしているのは、「まずは自分自身のオーナーになろう」ということです。「いい大学に入って、いい会社に就職できれば、その後の人生は安泰」。大人だって、そういうふうに思い込んでいる人も多いでしょう。でも、親の期待通り、社会の期待通りに生きることが本当に幸せなのか? それは安全な人生かもしれないけれど、はたして自分自身にとってハッピーな人生なのかどうか、考えてみてほしいと思います。

本当に自分が好きなこと、追求したいことは何でしょうか?勉強でも、部活でも習い事でも何でもいいのです。学生時代になにか1つ自分が熱中できるものを見つけたら、それを徹底的に追求してみてください。本当に好きなことに打ち込んでいると「どうやったら、このボールをうまく打てるようになるんだろう」など自分で考え、どんどん深堀し、工夫していきます。そうする中で「思考力」が自然に鍛えられていきます。そして「自分で考える」癖をつけることが、自立につながる。この思考力こそが、投資にもビジネスにも必要不可欠なものなのです。

日本人はとかくはみ出すことを恐れがちですが、失敗できるのは若いうちだけ。50歳を過ぎて失敗すると壊滅的な打撃を受けますからね(笑)。だからこそ、学生時代はトライ&エラーを繰り返して、自分が好きなこと、追求したいものを発見する期間にしてほしい。夢中になれるものが見つかれば、スマートフォンをいじっている暇はなくなるはずです。

みなさんは、「誰か」の人生」を生きるのではなく、「自分の人生」のオーナーになってください。他人も過去も変えられないけれど、自分と未来は変えられます。学校生活を素晴らしいチャンスだと捉えて、自立した大人になるための布石としていただければと思います。