株式分割実施で新しいNISA「成長投資枠」での投資対象となることを期待

2024年1月の新しいNISA(少額投資非課税制度)の開始を控え9月末に株式分割を実施する企業が多くなっている。市場関係者によると9月15日時点で28社が株式分割を予定している。

3月期決算企業は一般的に本決算の期末に実施するケースが多いとされ、28社は異例の多さと言える。

主力では東海旅客鉄道(JR東海)(9022)が1対5、デンソー(6902)、ローム(6963)、アドバンテスト(6857)が1対4、本田技研工業(ホンダ)(7267)、村田製作所(6981)、マツキヨココカラ&カンパニー(3088)、エービーシー・マート(2670)は1対3を実施する。パーソルホールディングス(2181)は1対10の分割を行う。

これらの中には株価が1万円以上の値がさ株が多く、株式分割を実施することで、新しいNISAの「成長投資枠」での投資対象になることを期待しているともみられる。なお、9月末の株式分割の権利付き最終日は9月27日で、28日から分割された株価で取引される。

株式分割が進む背景とは

東海旅客鉄道(JR東海)では株式分割実施発表時のリリースで株式分割の目的として、「投資単位当たりの金額を引き下げることにより、投資家の皆さまが投資しやすい環境を整え、投資家層の拡大を図ることを目的とする」としている。

また、東証は個人が投資しやすい環境を整備していくために、望ましい投資単位の水準を「5万円以上、50万円未満」と定めている。50万円以上の上場企業については投資単位の引き下げを検討するよう、要請を行ってきた経緯がある。

当初、従う企業は少なかったが、2022年10月に開催された金融審議会「市場制度ワーキンググループ」で最低投資単位引き下げを強く促したことで、2023年3月期末に株式分割を行う企業が増加した。

一方、2024年1月から開始される新しいNISAでは、個人投資家による個別株への投資枠が広がる。現状のNISAは5年間合計で600万円だが、これが成長投資枠という名称で1200万円と倍増される。つみたて枠を合わせると1800万円(年間最大360万円)に広がる。しかも無期限だ(現行NISAは5年間)。

配当金や売却益が非課税で、一旦売却しても翌年以降に売却分のNISA枠を利用できる(ただし、年間のNISA枠は再利用できない)。現状のNISAでは売却した時点で枠がなくなるが、大きく改善される。NISA枠で投資するのは比較的長期保有を目的とした投資家が多いとされ、こうした投資家の投資対象にするために、企業サイドが株式分割に踏み切るケースも多い。

株式分割を行った企業事例

半導体シリコンウエハや塩ビ樹脂で世界首位の信越化学工業(4063)は3月末に1対5の株式分割を実施した。当時の発表資料では「新NISA制度が発足することも踏まえ、株式分割によって個人投資家の皆さまに投資していただきやすい環境を整え、投資家層の拡大を図ることが目的」と明記している。

信越化学や東京エレクトロン(8035)と同様に法人間取引(B to B)の多いロームや村田製作所などは、個人には業務内容を知ってもらう機会が少ない。9月末基準の分割で最低投資金額を下げることで、投資対象として企業への理解を深めてもらうという狙いもありそうだ。

トヨタ自動車(7203)は2021年9月末割当で1対5の株式分割を実施した。分割前に1万円台だった株価は2,000円前後。最低投資金額は20万円前まで低下した。2023年3月末時点の株主数が98万9,548人となり、1年前に比べて17万人(22%)以上増加したことを明らかにしている。大幅な株式分割が個人投資家作りに有効であることを示した例と言える。

【図表1】9月末割当で株式分割を実施する予定の主な企業
銘柄 証券コード 分割の比率
東海旅客鉄道(JR東海) (9022) 1→5
デンソー (6902) 1→4
ローム (6963) 1→4
アドバンテスト (6857) 1→4
本田技研工業(ホンダ) (7267) 1→3
マツキヨココカラ&カンパニー (3088) 1→3
エービーシー・マート (2670) 1→3
SCREENホールディングス (7735) 1→2

出所:筆者作成

ここで、主な株式分割企業を5つピックアップする。

東海旅客鉄道(JR東海)(9022) 

1対5の株式分割後は最低投資金額が40万円前後に低下する見込み。東海道新幹線が圧倒的な「ドル箱」路線。インバウンドの増加や国内経済再開での出張、旅行需要増に期待感。

【図表2】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月21日時点)

デンソー(6902)

1対4の分割実施後の最低投資金額は20万円台半ばに低下する見込み。自動車部品で国内最大であり、世界でも2位。トヨタグループだが、それ以外のメーカーとも幅広く取引している。

【図表3】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月21日時点)

ローム(6963)

1対4の株式分割実施後の最低投資金額は30万円前後に低下する見込み。EVなどに使われるパワー半導体や産業向けアナログ半導体などに強み。次世代パワー半導体のSiCでは将来的に世界シェア首位を伺う。

【図表4】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月21日時点)

アドバンテスト(6857)

1対4の株式分割後の最低投資金額は40万円台前半となる見込み。半導体製造の最終工程に使われるテスターで世界大手。米画像半導体のエヌビディア[NVDA]が取引先。生成AI(人工知能)向けのビジネスに期待感。

【図表5】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月21日時点)

本田技研工業(ホンダ)(7267)

1対3の株式分割実施後の最低投資金額は18万円程度になる見込み。自動車の世界大手。2輪では世界首位。EVに注力。株式還元にも前向き。

【図表6】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年9月21日時点)