メキシコペソの上昇が止まりません。対円でのペソ高だけではなく、対米ドルでもペソが強くなっています。2022年3月から米国の猛烈な政策金利引き上げで、主要国通貨に対して米ドルが大きく上昇しましたが(米ドル/円相場も115円台~151円台まで急上昇)最強通貨であった米ドルに対してもペソは上昇を続けています。なぜメキシコペソは強いのでしょうか?

メキシコペソは圧倒的高金利通貨である

メキシコ中央銀行は、米国に先んじて2021年6月に政策金利の引き上げをスタートしました。利上げ開始前の政策金利は4.0%でしたが、断続的な利上げによって現在メキシコの政策金利は11.25%まで引き上げられています。

この利上げが効いてメキシコのインフレ率は2022年9月の前年比+8.7%をピークに鈍化に転じており、4月は+6.25%にまで低下しています。この流れを受けメキシコ中央銀行は5月の会合で利上げを見送り、政策金利を据え置いています。

しかし、メキシコのインフレターゲットは2~4%です。メキシコ中央銀行はインフレ率が目標レンジにまで低下するのは2024年10―12月期との見通しを示しています。足元ではインフレの鈍化が顕著となっているとはいえ、ターゲットからはまだまだ乖離しており、政策金利は高金利のまま持続させることが予想されます。

利上げによってメキシコ経済は冷え込んでいるかというと、そうでもありません。メキシコの2023年第1四半期GDP速報値は前期比+1.1%となり、22年第4四半期前期比+0.5%から加速しました。これもメキシコペソ買いの支援材料でしょう。

米ドル売りペソ買いの背景にある「メキシコへの郷里送金」

メキシコは米国に隣接する国です。よって米国経済にも大きく左右される側面があります。米国のトランプ元大統領は、不法移民流入を許さないとしてメキシコとの間に壁を作りましたが、バイデン米政権下では移民に寛容である政策になるとの期待からメキシコから米国への越境者が急増しています。

彼ら出稼ぎ労働者の稼ぎはメキシコ本国へ送金されるケースが多いのですが、2022年1~12月の外国からメキシコへの郷里送金額は584億9743万600ドルで、年間合計額としては過去最高を記録しました。2021年の郷里送金額は515億8586万7,100ドルでしたので、2022年はそれを13.4%も上回ったことになります。

その背景には、米国の最低賃金引き上げによる賃金上昇や人手不足からの雇用環境の安定があります。米国の景気はあれだけ拙速な利上げでも底堅く、移民が仕事を確保しやすい環境にあります。2022年のメキシコへの海外からの送金の95.5%が米国からのものでした。この米ドル売りペソ買いの圧力が、ペソ上昇の柱となっていると考えられるのです。

これは逆に考えると、米国景気が後退すると移民の失業者が増加し、メキシコへの郷里送金額が低下、米ドル売りペソ買いの圧力が低下することでペソの上昇の勢いが削がれる可能性がある、ということでもあります。米国景気後退はメキシコ経済にもダメージとなりますので、メキシコペソへの投資は米国の雇用や賃金の指標をよく見ておく必要がありそうです。