◆マネックス証券に入社して以来、かなりの数のレポートを書いてきた。思い入れのある作品は少なくないが、3年前の七夕の日に書いた「デジタル・デバイドと米国株のPER」もそのひとつである。当時紹介されていた米国株のバリュエーション(株価評価尺度)が低下するという説に異を唱えるものであった。その説の主張者はウォール街の著名ストラテジスト。真向うから反対するのは勇気が要った。
◆当時13倍弱の米国株の予想 PERが10倍まで下がりうるとする見方を日経新聞が伝えた。その理由は、米国企業は今後、利益成長の鈍化が避けられないからというものであった。ところがどうだろう、PERは下がるどころか反対に16倍弱まで上昇した。13倍が16倍だから2割強の上昇だ。一方、株価のほうはS&P500でこの3年間に約5割の上昇だ。利益も2割伸びたのだ。利益が2割伸びてPERが2割強拡大すれば株価は5割上昇する。
◆「利益成長の鈍化でPER低下」という見立ては完全に外れたと言える。見逃せないのは金利が当時よりさらに低いという点だ。これがバリュエーション上昇要因として大きな部分を占める。そう考えると、この間の株価上昇は「マクロ的には低成長見通しのなか、ミクロの企業業績は実績として成長した」という極めて特異な状況に支えられたものだったと言える。今日の「新潮流」は経済レポートのような内容でスミマセン。
◆前掲のレポートが忘れられないもうひとつの理由は、引用させてもらった作家の諸田玲子さんの文章がとても素敵だからである。「現在の七夕は梅雨時なので、晴れる確率は4年に一夜ほど」である。「逢えるか逢えないか、気づかいながら空を見る。やさしい風習を忘れたくない」(日経新聞夕刊「明日への話題」)。僕らも倣いたいと思う。空を見るのも、その時の気持ちも。今夜は晴れますように。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆