◆今日は米国の独立記念日(インディペンデンス・デイ)。アメリカでは単に「7月4日」(Fourth of July)と言われることも多い。オリバー・ストーン監督の映画『7月4日に生まれて』は、ベトナム戦争に従軍し負傷して帰国した主人公の過酷で皮肉な運命を描いた反戦映画である。1989年のアカデミー賞で監督・編集の2部門を受賞した。
◆トム・クルーズが演じた主人公は愛国心の塊のような青年だった。しかし、戦地での体験と帰国後の米国社会が彼を反政府主義へと変えていった。<独立記念日生まれ>という彼のプロファイルが「愛国主義」を象徴するメタファーであり、十字架である。その十字架を捨てざるを得なかった主人公の悲哀と苦悩が観る者の胸を打つ。
◆日本は70年近く前の太平洋戦争で終戦を迎えて以来、「戦争」をしていない。憲法で戦争を放棄したからである。アメリカはそれ以降も、朝鮮、ベトナム、アフガン、イラクとずっと「戦争」を続けている。この間に想像もつかないほど莫大な数の兵士を戦地に送っている。国家としての徴兵制度がない米国がなぜそれだけの兵力を維持し得るのか。それは貧困が根底にあると、『貧困大国 アメリカ』の著者、堤未果さんは言う。ワーキングプアの若者は、生活のために軍隊に入り戦地に送られるのである。裏返せば、それだけ膨大な兵力を供給できるくらいに「食い詰めた」若者があふれている社会 - それが米国なのである。
◆『貧困大国 アメリカ』のあとがきに印象的な一節がある。戦争にブレーキをかけるために中将への昇進を目前にして軍を除隊したある米軍元少将は言う。「問題は、何に忠誠を尽くすか、なのだ。それは大統領という個人でも国家でもなく、アメリカ憲法に書かれた理念に対してでなければいけない」 昨日の小欄(第33回 もうひとつのROE)では集団的自衛権に関する憲法解釈変更の閣議決定を取り上げた。米国の独立記念日に、改めて日本の憲法の重みを考える。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆