◆ある大手出版社から依頼がきた。ROE(自己資本利益率)をテーマに書籍を執筆しないかという。まさに時宜を得たテーマであり、願ってもないことと二つ返事で引き受けて、早速資料の渉猟を開始した。文献などを探すにはインターネットが便利である。「ROE」と入力し検索すると、ROEにはもうひとつ意味があることを知った。Rules of Engagement(ルール・オブ・エンゲージメント)「交戦規定」である。すなわち、軍隊がいつどのような状況で交戦に及ぶのかを定める規定である。我が国では自衛隊の「部隊行動基準」がROEにあたる。
◆安倍政権が目指す2つのROE。きっと誰かが書くだろうと思っていたら案の定、先を越された。ウォールストリートジャーナルのジェイコブ・シュレジンガー記者が「安倍首相、経済と軍事でROE拡大目指す」という記事を書いている。コラム屋にとって他人のネタの後追いほど恥ずかしいことはないが、安倍政権と2つのROEという切り口は非常に重要な観点なので、ここで紹介した次第である。
◆集団的自衛権の憲法解釈変更が閣議決定された。これまで禁じてきた集団的自衛権の行使を容認する。それは憲法の解釈の変更であって、(当たり前だが)憲法そのもの改正ではない。閣議決定したからといって集団的自衛権が行使できるわけではない。今後法整備を進める過程で具体的な行使基準について緻密な議論が求められる。まさに「もうひとつのROE」をどう決めるのかという話である。自民党の高村副総裁は「法律ができて初めて自衛隊を動かし、集団的自衛権を行使する国家意思が確定する」と述べた。
◆この問題を語るとき、僕の筆は鈍くなる。重い筆がますます走らない。戦後に生まれ、経済的な豊かさと平和な社会のなかで育った世代である。それは安倍首相もマスコミで論陣を張る多くのジャーナリストもみな同じである。戦争を知らないものが憲法9条を語る。危ういなどと言う気は毛頭ない。ただ、逞しくも細心の「想像力」が必要であると強く思う。自戒を込めてそう思う。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆