モトリーフール米国本社、2023年6月6日 投稿記事より

主なポイント

・アップルが発表した複合現実(MR)デバイスのVision Proは、2024年発売、価格は3,499ドル
・ウォルト・ディズニーやユニティ・ソフトウェアといった複数の重要パートナーが、コンテンツパイプラインの拡充を支援
・価格が法外なため、Vision Proをきっかけにメタバースが再び話題の中心になることはないだろうが、それでもアップルファミリーには大きな利益をもたらす可能性

アップルがバーチャル3D業界に参入。メタ・プラットフォームズ(META)の「Quest」ヘッドセットの競合となるか?

アップルの次の新製品が、2014年に発表されたアップル・ウォッチ以来の新型デバイスであることは、秘密でも何でもありませんでした。同社が、いわゆるメタバース、つまりインターネットの3Dレンダリング(画像変換プロセス)の世界にユーザーを引き込むための手段として、仮想現実(VR)または複合現実(MR)のヘッドセットを開発しているとの噂は、既に十分に広まっていました。噂は現実となり、ついに「Vision Pro」が発表されました。

唯一の問題は、手に入れるのに2024年まで待たなければならず、3,499ドルという高額な値札が付いていることです。Facebookの親会社であるメタ・プラットフォームズも新型ヘッドセット「Quest 3」を発表しましたが、これは2023年後半に発売され、価格は499ドルであることから、メタ側はそれほど脅威に感じていないと思われます。

とはいえ、これまでのメタ・プラットフォームズの取り組みにも関わらず、メタバースの普及は進んでいません。アップルのVRヘッドセットをきっかけに、メタバースの話題は再燃するでしょうか。

アップルのVision Proへの長い道のり

アップル製品のファンにとって、待ちに待った新型デバイスです。ビーツ・エレクトロニクスとビーツ・ミュージックが買収され、アップル・ウォッチがデビューしてから8年以上が経っています。

この間、優れた投資先としてのアップルの力は衰えていませんが、売上高の伸びは確実に鈍化しています。

従ってVision Proの登場は絶好のタイミングでした。それは単に、アップルが成長を促進するために新たな製品を必要としているという理由だけではありません。ここ数年で世界は劇的に変化し、デジタルワークとデジタルプレイは今や、日常生活のあらゆる所で見られるようになりました。また、1日中スクリーンからスクリーンへと渡り歩くのではなく、現実世界を模倣した3Dデジタル体験を提供するメタバースへの要望が(一部のユーザーから)高まっています。

しかし、新型コロナウイルスのパンデミックの後、メタバースや、デジタル体験に完全に没入することへの反発が起きています。メタの試みが広く受け入れられなかったこともあり、アップルは2007年にスマートフォン業界で行ったように、VRを次のレベルに押し上げようとしています。例えば、Vision Proでは、周囲をカメラで撮影した画像にアプリが補完した空間や、好きな設定を完全にバーチャルで描いた空間など、ユーザーは「没入」の程度を自ら選択することができます。

パートナーからの支援

VRへの入口として、ビデオゲームやエンターテインメントが利用されることがありますが、アップルも同様のアプローチを取っています。同社は、Vision Proを通じてまるで大画面テレビのように、写真や動画、テレビ番組や映画を見ることができる点をアピールしました。また、Vision Pro専用の新しいAppストアも用意される予定です。

ウォルト・ディズニー(DIS)のボブ・アイガーCEOもこの新製品発表のイベントに参加していました。Vision Proでは、ディズニープラスを見ることができるほか、クラシックなディズニーアニメから、スターウォーズ、マーベルのスーパーヒーローといった、ウォルト・ディズニーの膨大なIP(知的財産)ライブラリを使って作られた、双方向コンテンツも提供される予定です。

ビデオゲームの分野では、Vision Proの開発者は、ユニティ・ソフトウェア(U)が提供するビデオゲームや3Dコンテンツの作成プラットフォームを利用することができます。今回の発表を受けて、ユニティ・ソフトウェアの株価は20%以上跳ね上がりました。ここ数年ユニティ・ソフトウェアは複数の問題を抱えていたため、アップルとの提携は好材料と受け止められました。

アップルは他にも、マイクロソフト(MSFT)のOfficeシリーズ、アドビ(ADBE)のクリエイティブ、デザイン、コンテンツ編集用ソフトなど、複数の企業がVision Pro向けにプレイ用やワーク用3Dアプリを開発していることを明らかにしました。

アップルの優位性

Vision Proに搭載されている機能の多くは、必ずしも目新しいものではありません。メタは、アップルのヘッドセットに搭載されているほとんどの機能と同種のものを、既にリリースしています。また、Vision Proは1日中コンセントにつないでおく必要があるとか、バッテリーでの使用は2時間しか持たないなど、短所を指摘する声もあります。メタ・プラットフォームズの現世代ヘッドセットであるQuest 2のバッテリー持続時間は2~3時間とされています(Quest 3のバッテリー持続時間の詳細はまだ発表されていません)。

とはいえ、メタ・プラットフォームズはソーシャルメディアアプリ(Facebook、Instagram、WhatsApp)を通じて38億人を超える月間アクティブユーザーを抱えているにも関わらず、ヘッドセットの販売拡大には結びついていません。一方で、アップルは、世界全体で20億台以上のデバイスがインストールベースで稼働しています。

そこにこそ、アップルの真の優位性があると思われます。アップルのユーザーはファンであり、PCやスマートフォン、イヤホン、腕時計におよぶ既存デバイスの巨大なエコシステムに閉じ込められていて、定期的に新しいデバイスに買い替えています。アップルのハードウェアを採用する企業も増加しています。こうした熱烈なファンや企業のほんの一部がVision Proを購入するだけで、アップルの新製品セグメントにとっては好調なスタートと言えるのです。1台で3,499ドルもすることを考えれば、なおさらです。

定価で考えると、Vision Proが190万台売れれば、2023年第1四半期のiPad売上高に匹敵します。アップルの報告によれば、第1四半期にiPadは約1,080万台出荷され、売上高は66億7000万ドルとされています。

それにしても、Vision Proはメタバースの話題を再燃させるでしょうか。おそらく、これほどの高価格では難しいと思われます。Vision Proは、アップルファミリーに大きな利益をもたらし、株主に報いることができるかもしれませんが、MRデバイスが世界の主流として広く普及するには、まだ何年もかかると思われます。今のところ、これはiPhoneが発売された時のような画期的な出来事というよりも、一部の新しい物好きのバーチャル体験となりそうです。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。フェイスブックの元市場開発担当ディレクター兼スポークスマンであり、メタ・プラットフォームズのMark Zuckerberg CEOの姉であるRandi Zuckerbergは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。元記事の筆者Nicholas Rossolilloと同氏の顧客は、アップル、メタ・プラットフォームズ、ユニティ・ソフトウェア、ウォルト・ディズニーの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はアドビ、アップル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、ユニティ・ソフトウェア、ウォルト・ディズニーの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社は、以下のオプションを推奨しています。ウォルト・ディズニーの2024年1月満期の145ドルコールのロング、アドビの2024年1月満期の420ドルコールのロング、ウォルト・ディズニーの2024年1月満期の155ドルコールのショート、アドビの2024年1月満期の430ドルコールのショート。モトリーフールは情報開示方針を定めています。