為替介入決定の暗示とは?

5月30日、財務省、日銀、金融庁の三者会合が開かれ、終了後の記者会見で神田財務官は、為替相場の動向について「過度な変動は好ましくない」と述べ「必要があれば適切に対応していく」と述べたと報道された。これは、まだこの段階では為替介入を行うことは決定されていない意味と考えられる。

この三者会合は、2022年9月22日に、為替介入が約10年ぶりで実現する少し前にも開かれた。この会合後の記者会見で、神田財務官は、「あらゆる措置を排除せず為替市場で必要な対応を取る準備がある」と述べていた。為替市場の動きをけん制するという意味では、今回と似たような表現だったものの、実際に間もなく為替介入を行うこととなったこの時は、「為替市場で必要な対応を取る」という表現が使われていた。「市場での必要な対応」とは、文字通り為替介入ということだろう。

ところで、2022年に円安が急ピッチで進む中、この三者会合が「円安を憂慮する」との共同声明を発表したのは6月のことだった。ただ上述のように、為替介入が実現したのは9月だったので、共同声明発表後もすぐに為替介入は行われなかった。要するに、共同声明は発表したものの、為替介入は決定されていなかったと見られたわけだ。しかし、この共同声明の中では、「為替市場の動向や経済・物価への影響を、一層の緊張感を持って注視していく」といった、為替介入を暗示していると見られる「為替市場での適切な対応をとる」という表現はなかった。

為替介入再開はあるか?

為替介入を決定した場合には、「為替市場での適切な対応をとる」といった表現を使用するというのは、日本国内に限らず、G7(主要7ヶ国財務相・中央銀行総裁会議)など国際会議でも「不文律」のようになっている可能性がありそうだ。

例えば、これまでのところで最後のG7協調介入が実現したのは、2000年9月のユーロ安阻止局面だったが、協調介入が実現した翌日、9月23日のプラハG7声明では、「為替市場において適切に協力していく」という、まさに為替介入の決定を暗示する表現が使われていた。

同じ2000年でも、1月に東京で開かれたG7では急速な円高への対応が焦点となっていたが、結果的に円高阻止のG7協調介入は実現しなかった。ではこの時、1月22日に発表されたG7声明はどうだったかと言うと、「我々は、日本の金融当局が、日本経済及び世界経済に対する円高の潜在的な影響について我々の共有する懸念を考慮しつつ、(中略)引き続き為替市場の動向を注視し、適切に協力していく」といった具合で、円といった個別の通貨を特定した点は注目されたものの、一方で「市場を注視し、適切に協力していく」という、為替介入を意味する「市場で適切に協力する」との表現は使われなかった。

G7協調介入の代表例の1つに、1995年4月の1米ドル=80円といったいわゆる「超円高」局面で行われたケースがあった。この時、4月25日にワシントンDCで行われたG7が発表した共同声明では、「為替市場において緊密な協力を継続することに合意した」といった具合に、もちろん「市場における協力」という協調的な為替介入決定を暗示する表現が使われていた。

以上のように、為替介入を決定した場合は、「為替市場で適切に対応する」といった表現で説明するのが、為替政策担当者の間では国際的に一種の不文律になっている可能性がありそうだ。では、冒頭に戻り、5月30日の神田財務官の発言は、未だ為替介入を決定しない意味と受け止められそうだったが、今回の円安局面では為替介入は行われないだろうか。

米ドル/円は140円まで上昇したところで、5年MA(移動平均線)を2割上回ってきた。1980年以降で米ドル/円が今回のように5年MA±2割以上に変動したのは5回あったが、そのうち4回は介入が行われた(図表1参照)。以上を踏まえると、このまま円安が一段と広がるようなら介入は再度実現する可能性がやはり高いのではないか。

【図表1】米ドル/円の5年MAかい離率(1990年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2022年に比べると、日本経済に対する円安の悪影響が低下したといった指摘もあるが、はたしてそうだろうか。日米の消費者物価で計算した購買力平価との関係を見ると、米ドル/円はそれを2022年に4割近くも上回った。足元でも3割近く上回った状況が続いている(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円の日米消費者物価購買力平価からのかい離率(1973年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

こんなふうに購買力平価との関係で見ると、かつてなかったという意味での「異常な円安」が続いている。それでも、足元で為替介入の再開を決定しないとしたら、あくまで円安は一過性で、介入しなくても止まる可能性があると考えているのではないか。逆に言えば、円安が一段と広がるようなら、介入が行われる可能性はあるのではないかと思われる。