先週、ベネズエラでデノミが実施されました。そもそもデノミとは何か、どんな効果を期待されているのか等、今ひとつ、ピンとこないという方もいらっしゃるでしょう。

デノミというのは、デノミネーション(denomination)の略で、本来の英語の意味は通貨単位そのものを指しますが、日本語では「通貨単位を切り下げること(切り上げることもある)」として使われています。
ハイパーインフレのような急激なインフレが起こった時、例えば昨日まで100円で買えたキャベツが翌日には10,000円になる、といったような状況になると、ちょっとした買い物にも大量の紙幣を持ち歩かねばならず、計算も記帳も煩雑になってしまいます。市民生活のみならず、経済上も支障をきたすため、解決のために行う、これまでの100円を新1円にします、といった政策をデノミというのです。
新しく貨幣を発行し、旧貨幣と交換というのが一般的な方法で、今回のベネズエラにもそうですが、例え事前告知されていたとしても、多くの場合は社会が混乱に陥ります。

そもそもハイパーインフレという事態はどういうことなのでしょう。
需要と供給のバランスが崩れ、短期間のうちに物価が急激に上昇する現象ですが、その結果、通貨の価値が急落してしまいます。こうした事態は敗戦や革命、政府の混乱時といった時に起こりやすく、近年ではアルゼンチン、ブラジル、ユーゴスラビア、ジンバブエなどの例があります。前述した、記帳が煩雑というレベルの問題ではなく、国家の通貨価値が暴落するということは国際経済の中で立ち行かなくなっていくことを意味します。輸入価格の暴騰はもとより、国際機関や他国からの借金が膨大になり国家として破綻し、デフォルト(債務不履行)となってしまいます。

日本が戦後の急激なインフレ対応として新円発行、預金封鎖、預金引出制限を行い、そのために一気に財産を失った人が多かったことを見聞きして、赤字国債で財政赤字の日本が近い将来、国債暴落、ハイパーインフレ、通貨危機となり、同様の政策が行われるのではないかと不安を感じている方もいるようです。現状ではインフレ目標を必要としているほどですし、日本国債の保有者の90%以上が日本銀行や民間金融機関、地方自治体であり、海外に対する借金ではありません。金融機関などを通じた国民に対しての借金であることは事実ですし、財政赤字に危機感を持たなくてよいというわけでは、もちろんありませんが、実際にハイパーインフレや、デフォルトになった諸国とは状況が異なります。

冒頭のデノミですが、本当に効果はあるのか、といえば混乱に陥るに過ぎないケースの方が多いのが事実です。数少ない成功例として、第一次世界大戦後のドイツで急速にインフレを終息させた「レンテンマルクの奇跡」と呼ばれたデノミがあります。デノミはそれほどまでに失敗例が多い政策であり、当事国のみならず周辺国に波及、世界経済にも影響を及ぼす可能性の高いものです。特に近隣諸国や政治、財政状況が似ている国は投資家からもリスクが高いと判断されます。新興国に投資する時の要注意点の一つが、こうした連鎖反応です。地球の裏側に起こっている混乱と思わず、投資への影響について考える機会にしましょう。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員