直近のJ-REIT価格動向
4月のJ-REIT価格は安定的な動きとなっている。東証REIT指数は概ね1,800ポイント台、前日比の騰落率は1%以下での値動きで推移だ。
株式市場と比較した場合、2022年末と比較して(※1)日経平均株価が9%近く上昇しているのに対し、東証REIT指数は2%下落となっている。ただし、3月末を時点とすると日経平均の1%程度上昇に対し、東証REIT指数は4%弱の上昇となっており、株式市場の上昇に対する出遅れ感も少し解消している。
また、前回のコラムでも記載した通り、オフィス系銘柄の価格低迷が東証REIT指数上昇の妨げになっている。
前述の通り、東証REIT指数は3月末から4%程度の上昇となっているが、時価総額が最も大きいオフィス系の日本ビルファンド投資法人(8951)の価格は1%弱しか上昇していない。物流系で時価総額が最も大きい日本プロロジスリート投資法人(3283)は9%弱上昇しており、投資用途によって価格の濃淡が出ている状況となっている。
J-REIT市場でも投資家との緊張関係を歓迎できる理由とは
株式市場では、株主総会で株主提案議案が付議されることが増加し、投資家との緊張関係が増している。いわゆるアクティビストと呼ばれる投資家の動きによって、配当性向を向上させ増配となる事例も多い。
J-REIT市場は、配当性向が実質的に100%近いことや投資主総会は原則として2年に1度の開催となっている。さらに賛否を明確にしない場合には、議案について賛成したとする「みなし賛成制度」が採られているため、投資家との緊張関係は生じにくい状態となっている。
これまでJ-REIT市場でも投資家と投資法人側との緊張関係が生じる場合はあった。ただし、買収(合併)などの提案が主な目的であり、投資家全体(※2)への恩恵は少ないものが多かったが、2022年からは別の緊張関係も生じている、
例えば、エスコンジャパンリート投資法人(2971)(以下SJR)では、個人投資家1名が、投資法人に対して資産運用会社の責任追求を提起するよう請求を行い、2022年12月に資産運用会社が666百万円の賠償金を支払うことになった。SJRは賠償金の支払を受けて、2023年1月16日に23年1月期の業績予想を修正し、分配金を3,201円から5,225円とした。
直近でも、いちごオフィスリート投資法人(8975)(以下IOR)で、投資家により資産運用報酬の変更の提案が提起されている。
IORの場合はSJRとは異なり、さくら総合リート投資法人の合併を行ったスターアジア不動産投資法人(3468)側の投資家であり、執行役員や監督役員(※3)の増員も求めているため、将来的な合併も視野に入れている可能性もあるが、投資家側による資産運用報酬体系の変更提案は初めての事例となっている。
IOR側の投資家も執行役員と監督役員の増員以外の提案には反対意見の表明も行っていないため、6月に開催予定の臨時投資主総会で資産運用報酬体系が変更となる可能性が高い。
投資家に分配金を支払うための「箱」である投資法人に対し、投資家側からの提案が多くなることは、投資法人のスポンサーに対する牽制機能が増すことにもなる。従って、SJRのように分配金が大きく増加しなくても歓迎すべき動きと考えられる。
※1 本コラムでは価格騰落に関して4月26日終値ベースでの比較。
※2 合併に反対する投資家にとっては恩恵がない。
※3 一般企業とは異なり、業務の大半を外部委託する投資法人では従業員を雇用せず、執行役員と監督役員(一般企業での取締役と監査役に該当)だけで投資法人が構成されている。