米シリコンバレー銀行の破綻に続き、スイスの名門銀行クレディ・スイスが同国の金融最大手UBSに救済合併されることとなりました。

当局の迅速な対応により金融パニックの発生は避けられていますが、世界的に銀行株はまだ不安定な状況です。日本の株式市場ではそのような動きは限定的ですが、これらを次なるリーマンショックの前哨戦と位置付ける見方も一部であり、先行きは予断を許しません。しばらくはしっかりと様子を見ながらの投資姿勢が重要になってくるものと考えています。

日銀新体制が直面する課題とは

さて、今回はそのような金融不安リスクを鑑み、「日銀新体制」をテーマに採り上げましょう。

先日、経済学者の植田和男氏を次期日本銀行総裁に起用する案及び2名の副総裁候補案が国会で同意され、4月より新体制が正式にスタートする運びとなりました。学者出身の日銀総裁は戦後の日本では過去に例がなく、その舵取りが市場から大きく注目されています。

実際のところ、問題は山積みです。まずは冒頭に掲げた金融不安の日本への飛び火を防ぐこと、そして昨今急速に進行するインフレへの対応が求められます。

しかし、インフレ退治のために金利を安易に引き上げると、ただでさえ足腰の弱い景気状況に一気に水を差し、スタグフレーションが発生しかねないリスクも伴います。金融不安が増大すれば、金融引締めは逆効果にもなりかねません。まさにブレーキとアクセルをうまくバランスさせる対応が求められることになります。

また、過去10年間に日銀が資産として積み上げた債券や株式(ほとんどがETF)を、今後どうやって整理・縮小させるのか、という問題もあります。

投資・投機マネーは世界的規模で駆け巡っていることから、市場への対話を間違えると、為替・金利・株式の各領域で価格が急速かつ劇的に変動しかねません。株式市場参加者は概して「うまくやってくれよ」という思いを持っていると想像しますが、海外の一部ファンドなどからはお手並み拝見という冷ややかな見方も確かにされているのです。

現行路線継続の日銀新体制、当面は安全運転の見込み

これまでのところ、植田新総裁からは上記問題点を認識しつつ、現行路線の継続を重視するコメントが報じられています。資本市場でも新体制発足後の大きな政策転換に備えるという動きはあまり見られていません。資本市場も政策の劇的な変化は想定しておらず、植田新体制の手腕は時間をかけて徐々に発揮されてくるのだろうという思惑で一致しているように感じます。

拙速な対応で市場からの信頼を失い、日本経済を壊してしまっては取り返しがつきません。舵取りが難しい局面だからこそ、植田新体制による慎重な動きは極めて理にかなったスタンスと言えるのかもしれません。

学者とは論理を優先するあまり、現実に起きる心理的摩擦や副反応には鈍感で「浮世離れ」した印象をもつこともあります。そういった点において、新体制による政策の継続性重視のスタンスは、資本市場にまずは安心感を与えているように思います。

特に直近は欧米銀行の不安定な状態が鮮明となる中、その影響が日本に飛び火するのではという懸念点もあります。植田日銀新体制は当面安全運転でこの危機局面を乗り越えようとするのではないでしょうか。もちろん今後のコメントなどを慎重に精査する必要はありますが、現時点においては日銀の新体制が株式市場に逆風となる政策転換に動く可能性は低いと考えています。

迫られる金融政策正常化の動き

ただし、植田新体制に課せられている「いつ、どうやって金融政策を正常化させるか」、という難題にはどこかで直面せざるを得ない時が来るでしょう。

金利をほぼゼロに抑え込み、株価も公的に買い支えを続けるという、これまでの状況は統制経済そのものであり、市場は調節機能を発揮できない状況に陥っているとも言えます。これは何らかの外的インパクトに対して、金融システムはかなり脆い状態に置かれているということです。

今回は安全運転で不安定な状況を乗り越えることができても、次回の成功が保証されるわけではありません。遠くない将来には金融政策の正常化に向けて舵を切るというのが自然と考えます。

当然、その場合は株式市場にとって逆風になると予想します。日銀としては少しずつ変化させていこうと考えるでしょうが、株式市場は敏感に政策変更の意図を汲み取り、一気にその変化を積極的に織り込み始めると考えるためです。

それでも日銀側がイニシアティブを取ってのことであれば、市場と対話しながらの対応でショックの制御・緩和も可能となるでしょうが、市場に促されての受け身の政策変更となれば、日銀対応は後手に回ることになり、市場が大きく混乱するリスクは急拡大することにもなりかねません。ちょうど、2022年前半の急激な円安のように、です。

植田新体制としては、市場に背中を押される前にアクションを始めたいところでしょう。仮にこの考えが正しいとすると、政策変更のタイミングはそれほど遠くないのかもしれません。