バイデン政権、銀行危機でバフェットと接触
3月19日付のブルームバーグの記事「ウォーレン・バフェットとバイデン政権が銀行危機で接触-関係者」によると、米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻など米地銀の危機連鎖を背景に、バイデン政権高官が、バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)を率いる著名投資家ウォーレン・バフェット氏と接触していることが、事情に詳しい複数の関係者の話で分かったという。
SVBやシグネチャー銀行、シルバーゲート・キャピタルの破綻を受け、同政権の経済チームとバフェット氏が過去1週間に複数回の対話の機会を持った。一連の話し合いでは、バフェット氏が米地銀セクターに何らかの方法で投資する可能性が議論の中心となっているとのことで、同氏は現在の混乱全般について勧告や助言を行っていると伝えられている。
バフェット氏には過去の危機的場面において金融機関に投資を行い、大成功した経験がある。2008年の世界金融危機の際、ゴールドマン・サックス(GS)に50億ドルを出資した。また、バンク・オブ・アメリカ(BAC)は2011年にサブプライム住宅ローン絡みの損失での株価が急落した後、バフェット氏から資本注入を受けた。
具体的な話し合いの内容については不明だが、バークシャーは銀行を救済するのに十分な資金を有しているのは間違いない。2022年末時点の現金ポジションは1280億ドルと、日本円で16兆円を超え(1ドル=130円で換算)、3ヶ月前(2022年9月末)から200億ドル近く増加していた。
銀行株の保有株数を減らしていたバフェット
図表2は2月14日にバークシャーがSEC(米証券取引委員会)に提出したフォーム13Fを元に 2022年12月末時点の上場株式の保有状況を2022年9月末時点と比較したものである。
公開された時点では、世界最大のファウンドリー台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)(TSM)のポジションを9割減らしていたことが注目されたが、同時にUSバンコープ(USB)株の保有株数を約91%、さらにはバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK)についても約6割落としており、金融株へのアロケーションを減らしていた。
バークシャーの12月末時点の上場株式の保有ポジション上位10社(評価額)を確認してみよう。最大のポジションはアップルで(AAPL)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、シェブロン(CVX)、コカコーラ(KO)、アメリカン・エキスプレス(AXP)と続いている。またエネルギー株のオクシデンタル・ペトロリアム(OXY)も上位に入っている。
バークシャーのポートフォリオは、アップルと銀行株(バンク・オブ・アメリカ)、エネルギー株(シェブロンとオクシデンタル)が大半を占めており、この3つに集中投資していると言える。ここから浮かび上がってくるのは、世界情勢の不透明感が高まる中、「オマハの賢人」といえども、相場がどう動いていくのかをなかなか見極めることができないということなのかもしれない。
今後、地政学リスクが高まり、インフレが加速した場合、エネルギー株を保有するバフェット氏にとっては有利である。一方、ディスインフレになり、金利が低下した場合はハイテク株有利となる。アップルを持っているバフェット氏にとっては大きなプラスだ。もし大暴落が起きるようなことがあれば、それに対する備えとして現金も豊富に持っている。どのような状況になったとしてもバランスが取れるポートフォリオになっている。
オクシデンタル株の保有割合を23%まで上昇
そのバークシャーが、米石油・ガス大手オクシデンタル・ペトロリアムの株式を追加購入し、保有比率を約23.1%まで引き上げたことが、SEC(米国証券取引委員会)へ提出された書類から明らかになった。それによると、3月13日から15日にかけて4億6668万ドルで790株を取得した。バークシャーによるオクシデンタル保有株数は約2億804万株で、3月16日の同社株価終値(58.48ドル)で換算すると121億6600万ドル程度となる。
「オマハの賢人」と言われるバフェット氏の投資先を選ぶ基準は極めてシンプルだ。それはキャッシュフローに始まりキャッシュフローに終わると言っても過言ではない。もう1つ同様に重要なのは、購入する際に「安全域」にこだわること。もし、普通株の価値がその価格よりわずかに高い程度なら買わない。この原理こそがベン・グレアムが投資成功の礎石として強調していたことだ。
キャッシュフロー・マトリックスは縦軸に投資キャッシュフロー、横軸に営業キャッシュフローをとったものである。投資キャッシュフローは将来のキャッシュを生み出すために使われる先行投資である。企業が成長している時期にはキャッシュが設備投資等に使われるためキャッシュが出ていき、基本的にはマイナスとなる。投資が進み、キャッシュが稼げるようになると、リターンが生み出され営業キャッシュフローがプラスとなる。
多くの企業は営業キャッシュフローがプラスで投資キャッシュフローがマイナスであることから、図表4の右下の領域に入る。その中で、稼ぎよりも投資の方が多い場合には「投資期①」に入り、投資より稼ぎのほうが大きければ「安定期②」 となる。
企業に投資先がなく、それまでに投資してきたものを売却するようになると投資キャッシュフローはプラスに転じ「停滞期③」となる。投資をしなければ自ずと稼ぎも減ってくるため、営業キャッシュフローが減少する「低迷期④」に入り、さらに稼ぎが減少すると「後退期⑤」となる。そして営業キャッシュフローがマイナスになると「破たん期⑥」となる。
オクシデンタルのキャッシュフロー・マトリックスを確認しよう。2019年にアナダルコ買収に伴う投資キャッシュフローがかさんだが、それ以外の年度はいずれも安定期にプロットされている。2022年度は営業キャッシュフローが増え、さらに安定度が高まっている。
バフェット、オクシデンタル買収となるか
バフェット氏が最初にオクシデンタルに投資したのは2019年、同業のアナダルコ買収を巡り、シェブロン(CVX)と入札合戦を繰り広げていた時だ。オクシデンタルのビッキー・ホルブCEOはバフェット氏が住むネブラスカ州オマハに直接乗り込み、バフェット氏から100億ドルの出資を引き出すことに成功した。
当時、買収によってオクシデンタルのバランスシートには300億ドル以上の債務が積み上がり、アナダルコへの投資は大失敗だったと考えられていた。さらに原油価格の暴落が追い討ちをかけ、オクシデンタルの時価総額は一時90億ドル以下にまで落ち込んだ。(直近3月17日時点のオクシデンタルの時価総額は526億ドル)
オクシデンタルの業績は2021年以降大きく改善している。当時、バフェット氏はメディアのインタビューで「オクシデンタルへの投資は長期的な原油価格の上昇に対する自信の表れだ」と述べていた。それから3年が経ち、結果的にこの投資はバフェット氏にとって最高のバリュー投資の1つであることが証明された。
バフェット氏がオクシデンタル株の保有を積み増している背景には何があるのか。バフェット氏はかねてよりオクシデンタルのホルブCEOの経営手腕を公の場で称賛している。オクシデンタルはアナダルコの買収によって、米国最大の油田地帯であるパーミアン盆地においてトップ5に入る生産者の地位を獲得しており、原油価格が1バレル当たり40ドルを下回っても利益を維持できる体質になっている。
資源価格の高騰を追い風にオクシデンタルの業績は改善、債務を大幅に圧縮し手元に現金を厚く積み上げている。2022年度のフリーキャッシュフローは過去最高の100億900万ドルと、前年から約16.54%増加した。オクシデンタルへの投資を通じてバフェット氏はキャッシュを生み出す優れた資産を手に入れたことになる。
米国屈指の石油、シェールオイル生産地であるパーミアン盆地において優良な資産を保有していること、バランスシートの強化に加え株主還元も積極的に行なっていること、さらにはバークシャーの傘下企業でも一部取り組んでいるCO2排出削減へ向けた新技術への取り組み等、バフェット氏が投資先に求める要素の多くをオクシデンタルは満たしている。
3月16日付のバロンズの記事「Berkshire Just Bought More Occidental Stock. Will It Buy the Whole Thing?(バークシャーはオクシデンタル株を買い増した。このまま全部買うのか?)」によると、今回の買い付けはバークシャーがオクシデンタル会社全体の買収を視野に入れているのではないかという憶測を呼び起こすことになるだろうと指摘。オクシデンタルの残りを買収するには、1株75ドル程度と仮定して500億ドル以上の費用がかかると想定される。バークシャーの保有キャッシュを考慮すれば無理ではないが、さてどうなるだろうか。