先週、S&P500は4.55%下落、ナスダック100は3.75%の下落となりました。

先週の米国株式市場の注目は、カリフォルニア州のシリコンバレーにある40年の歴史をもつ地銀のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻でした。4,700を超える銀行がある米国では、銀行の破綻はそれほど珍しいことではなく、2020年にも4つの地方銀行が経営破綻しています。

しかし、今回の出来事は銀行破綻の規模としては2,090億ドル(約28.2兆円)と、2008年の金融危機来最大で、米国の歴史において2番目の大きさとなりました。今回破綻したシリコンバレー銀行は、テクノロジーやヘルスケア業界に特化した預金残高16位の地銀です。2022年にベンチャーキャピタルが支援し上場した米国のハイテク企業とへルスケア企業の約半数が同社の顧客で、また2,500を超えるベンチャーキャピタル企業も顧客となっています。スタートアップ企業の発展のために非常に重要な働きをしていたのです。

【図表】米国銀行 預金残高ランキング(2022年12月31日現在)(単位:十億ドル)
出所:FRBよりマネックス証券作成

そんなシリコンバレー銀行があっという間に破綻しました。今回の破綻の背景、そして先週3月8日水曜日からの3日間で何が起きたのかを解説したいと思います。

スタートアップと共に急成長したシリコンバレー銀行

2018年に490億ドル(約6.6兆円)だった同行の預金残高は、2021年には1,892億ドル(約25.5兆円)へと急速に増えていきました。同行はその預金のうち必要最低限の現金は手元におき、残りを財務省証券やモーゲージバック証券などの長期債に投資をして利ザヤを稼いでいました。その投資のほとんどは2022年から始まった利上げが行われる前に行われており、彼らの債券ポートフォリオの平均利回りは1.79%と、現在の10年債利回りの3.9%レベルを大きく下回っています。金利が上昇したため、彼らの債券投資ポートフォリオはロスが出ていました。

利上げによりベンチャーを取り巻く環境が悪化

2022年年初に始まったFRBによる利上げは、住宅ローンなど消費者にとってだけでなく、資金調達コストも上昇し企業へも悪影響を与え、株式市場全体を押し下げる展開となりました。未上場のベンチャー企業にとっては、市場の環境の悪化によりIPOでの資金調達もできず、金利の上昇で調達コストが上昇、シリコンバレーに代表されるベンチャーの資金繰りにも影響を与え始めていたのです。

急展開で起きたシリコンバレー銀行の破綻

資金調達が難しくなったスタートアップ企業は、同行に預けていた預金を解約し、引き出し始めていました。顧客からの預金の解約を受け、同行は現金流動性を高めるため、3月8日(水)に保有する債券ポートフォリオ(ロスが出ていたポートフォリオ)を売却したのです。これにより同行は18億ドル(約2,430億円)の損失を確定したと発表しました。これはマネジメントによる、銀行の流動性や債券運用管理のミスマネジメントの結果と言えるでしょう。

事態が急激に悪化したのはこの後です。かかる事態を受け、同日のマーケットの引け後、同行は22.5億ドル(約3,037億円)の普通株と優先株の公募増資を行うと発表しました。しかし、ロイターなどの報道によると、複数のベンチャーファンドが同行の預金を解約することを企業に勧めていたこともあり、同行の預金の解約件数が増えてしまったそうです。私はこの辺りが事態を急激に悪化させた原因ではないかと思っています。

9日木曜日の午後に行われた投資家向けのコンファレスコールで、グレッグ・ベッカーCEOは同行の現状の説明を試みたものの、投資家の不安を取り除くことはできなかったようです。この日、株価は引けまでに6割下落。このような状況により、株式増資の話も流れることになりました。

カリフォルニア州当局者によると、9日の営業日の終わりまでに同行の預金者が420億ドル(約5.7兆円)の預金の解約を行うという取り付け騒ぎへと発展。同日の営業後の同行の現金残高は9.58億ドル(約1,300億円)の負債超過となりました。同行の顧客によると、9日の午後にはネットでの預金の送金ができなくなったそうです。

このような事態となり、10日(金)には同行の売却も含めた生き延びるための策を講じていたようなのですが、最終的に破綻となりました。同行発行のクレジットカードは、この日利用が不可能となり、同日の午後には支店の入口は封鎖されていたとのことです。

10日、カリフォルニア州は同行を州の管轄下に置き、米連邦預金保険公社(FDIC)が破綻管財人となる発表が行われました。FDICは同行を閉鎖するにあたり、金曜日にはサンタクララ預金保険ナショナル銀行(Deposit Insurance National Bank of Santa Clara)を設立し、預金が保障された預金についてすべて移管され、13日(月)には業務を開始するとしています。

シリコンバレー銀行、預金者の被害は

しかし、同行の預金のほとんどはFDICによる保護の対象にならない25万ドル(約3,375万円)の保険限度額を超えており2022年末の報告書によると、全預金残高の1,730億ドル(約23.3兆円)のうち87%以上に相当する1,510億ドル(約20兆円)以上が保険限度額を超えています。

限度額分の扱いがどうなるかはまだ明確にされていませんが、FDICによると銀行やその顧客から追加情報を受け取り、確認後に確定させると発表しています。

2008年7月にカリフォルニア州のインディマック銀行が破綻した際には預金者は最終的に保険限度額の半分だけを受け取ったと言います。一方、JPモルガンに買収されたワシントン・ミューチュアルは全額回収できています。

動画ストリーミングのプラットフォーム企業のロク(ROKU)は、同社の19億ドル(約2,565億円)の現金のうち4.87億ドル(約657億円)をシリコンバレーバンクに預金しており、どの程度回収できるかわからないと発表しています。ただ、同社はこのような状況下でも業務に支障はないとしています。

シリコンバレー銀行破綻が銀行業界に与える被害は限定的か

目先の懸念は、今回の出来事が他行に波及し取り付け騒動にならないかです。イエレン財務長官は、シリコンバレー銀行の状況が悪化する中、いくつかの銀行の状況をモニターしていると発言しました。サンフランシスコを本社とするファースト・リパブリック・バンク(FRC)は、同行の預金ベースは健全で顧客ベースも分散されており、流動性のポジションは非常に強いと米証券委員会(SEC)のファイリングで報告しています。

大手銀行は資産規模の小さな銀行より流動性があり、より幅広いビジネスモデルで顧客もより多様化しており、潤沢な資本があります。また、大手銀行は規制当局から厳しい監視を受けています。規制当局者は、大手銀行に対し特定の業種へ特化しないように監督しています。

なぜ規制の厳しい銀行業界で今回の破綻が起きたのか

では、なぜ今回、このような事態になったのでしょうか。2008年の世界金融危機をきっかけに大手銀行への規制が厳しくなったものの、中小銀行については大手銀行と比べると規制が緩いことが要因の1つとして挙げられます。これは2018年当時、トランプ前大統領は一連の規制緩和を行う一方で、地銀への規制の緩和を行ったのです。その時支援を行なった企業の1つが同行だったのです。

米国株式市場への影響

今回の破綻は米国株式市場全体を押し下げることになりました。他銀行への波及効果として、3月9日(木)に銀行セクター全体が大きく売られたものの、10日(金)のマーケットではJPモルガン(JPM), ウエルズ・ファーゴ(WFC)、シティグループ(C)のようなマネーセンターバンク株はフラットで終わっており、金曜日時点では大手銀行への影響は限定的と判断したようです。

今回の展開はマーケットにとって驚きの展開でした。シリコンバレー銀行の親会社であるSVBフィナンシャル・グループ(SIVB)の分析を行っているアナリスト23人のうち売り推奨を行っていたのは1人しかいませんでした。65%のアナリストはホールド、そして30%のアナリストは買い推奨を行っていました。企業分析を行っているアナリストにとっても今回の展開は想定外であり、あっという間の出来事であったということです。

今後の影響と展開の見通し

今回のシリコンバレー銀行の破綻の直接的な原因は、パウエル議長率いるFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策がインフレ抑制だけに重きを置き利上げを断続的に行なったことにあります。10日(金)発表された雇用統計は事前予想を超える内容と、引き続き利上げが必要とされる内容でした。しかし、このような事態を受け、FRBは今後の利上げ幅やそのペースについて、今まで以上に慎重にならざる終えなくなるでしょう。

今回のシリコンバレー銀行の破綻により、ハイテク労働者の給料支払いができなくなる事態が懸念されています。米国経済の最も革新的であるスタートアップ業界の資金の供給源として重要な役割をおこなってきた担い手が破綻したことで、スタートアップ業界の成長にダメージを与える可能性があります。

シリコンバレー銀行の影響は米国内に留まりません。同行は米国外では、カナダ、英国、中国、デンマーク、ドイツ、インド、イスラエル、スエーデンにも支店があります。英国では180のハイテク企業が共同でハント財務大臣に政府による介入を願う嘆願書を送ったと言われています。その手紙には、このままではスタートアップ業界のエコシステムを20年前に戻してしまう恐れがあり、連鎖倒産する企業が出てくることが予想され、今週末中になんとかしないと大変なことになるとしています。今回の出来事の世界的な波及は、今週徐々に明らかになってくるでしょう。

シリコンバレー銀行には、証券部門がありますが、インサイダーによる証券部門のMBO(マネージメントバイアウト)の検討も水面下で行われているようです。

上記を執筆した後、現時点(3月13日午前8時現在)までに少し進展がありました。米国財務省と連邦準備理事会(FRB)は、シリコンバレーバンクの預金者全ての預金を保護する計画を発表しました。 

また、この週末、ニューヨーク州当局者によって閉鎖されたシグナチャーバンクの全ての預金も保護すると発表しています。よって、預金者は13日(月)から完全に資金へのアクセスが可能になります。

また、財務省は金融システムの安定化の為、為替安定化基金から最大250億ドル(約3.38兆円)の資金を提供し、バンク・ターム・ファンディング・プログラムを新設しています。

このような展開を受け、日本時間8時現在、米国株指数先物は上昇しています。