就職活動を始める時期にリーマン・ショックを経験し、「自分の人生には自分で備えよう」と一念発起。自ら作り上げた「投資方針書」をもとに、インデックス投信の積立を始めた個人投資家のセロンさん。「リタイア時に夫婦で6000万円」を目標に、「資産ゼロ」だった社会人1年目から、今までコツコツと積立投資を継続しています。ブレない投資方針や資産形成のポイントについておうかがいしました。
●セロンさんプロフィール●
30代会社員。夫婦共働き、1児の父。大学時代に投資に興味を持ち、ブログ「22歳からの貯蓄学」をスタート。社会人1年目から、自身が設定した「投資方針書」に基づいて、本格的にインデックス投資を始める。「インデックス投資ナイト」などの個人投資家が集まるイベントの運営に携わる。2021年にはバンガード創業者、ジョン・ボーグル氏の投資哲学を実践するコミュニティー、ボーグルヘッズ日本支部の設立にも参画しており、インデックス個人投資家として、様々なシーンで情報発信している。
社会人1年目、金欠ギリギリ状況から本格的に投資をスタート
――いつ頃から、どのようなきっかけで投資に興味を持たれたのですか。
大学に入ってすぐ、たまたま手に取った書籍がロバート・キヨサキさんのベストセラー、『金持ち父さん 貧乏父さん』(筑摩書房)でした。「話題になっているから読んでみよう」という程度でしたが、その本の中に書いてあった「そろそろ恐慌が来るぞ」という言葉が妙に印象に残りました。
そして、就職活動を始めた大学3年生のときに起こったのが、リーマン・ショックです。新卒の採用を見送る会社や、「内定取り消し」のニュースなどが連日メディアで報じられる中で、運良く就職できたとしても「会社が潰れてしまうかもしれない」という不安にさいなまれました。「人生は何が起きるか分からない。自分の人生には自分で備えておかなくてはいけない」という思いが沸きあがり、いざという時に備える資産形成を目的に投資を始めることにしました。
――当初からインデックス投資をされていたのでしょうか。
いいえ。就職活動を始める前にアルバイトで貯めていたお金で、試しに日本企業の個別株を買ってみました。リーマン・ショック直後だったので株価は割安だったのですが、数ヶ月続けるも全く成果が出ず、「本当にこのやり方でいいのだろうか」と不安に。改めて書籍やネットで情報収集して、水瀬ケンイチさんなどが実践する「インデックス投資」にたどりつきました。
「自分には値上がりする株式を見極める能力はないのではなないか」と感じたことに加えて、購入手数料がかからず、低コストで運用できる投資信託(ノーロード)に魅力を感じてインデックス投信の積立を資産形成の中心に据えることにしました。投資を本格的に始めたのは社会人1年目のときでした。
「投資方針書」で資産形成プランを作成
――投資を始めるにあたって、まず準備をしたことがあれば教えてください。
大学卒業前の2009年に「投資方針書」というものを作成しました。社会人1年目でまとまった資金がない状態からのスタートだったので、投資の目的や金額をあらかじめ明確にしておきたいと思ったのです。参考にしたのは、岡本和久さんの『30歳からはじめる「品格のあるお金持ち」になれる資産形成マニュアル』(総合法令出版)。将来の方向性を定めてから、長期的な資産形成プランを立てるという内容に共感し、大学4年生のときにまずは「投資方針書」を作成してみることにしました。
私の資産形成の目的は「老後を安心して暮らせること」。そこで、老後には実際どれくらいの資産が必要なのか…と疑問に思い、生命保険文化センターの「生活保障に関する調査(2004年度)」を調べてみたところ、老後の最低日常生活費として24.2万円/月、ゆとりある老後生活費として37.9万円/月という目安が分かりました。
――老後に必要なお金を具体的に試算してみたのですね。
そうです。ある程度、余裕のある老後を送りたいと考えたので、1ヶ月に必要な生活費を夫婦で35万円と考えました。私が60歳でリタイア、夫婦どちらも90歳まで生きると仮定すると、老後に必要な生活費は夫婦で1億2600万円という計算に。最初はあまりの大きい額に驚きましたが、定年まで会社員として働き続けるとして、受け取る退職金、公的年金などを差し引いたら、最終的には夫婦で6000万円必要という結論となりました。
資産形成の前提を「積立期間38年、目標金額(元利総額)6000万円、年利5%で運用」と設定し、そこから1ヶ月の積立額4万5000円、年利5%を達成するためのポートフォリオなどを次々に決めていきました。
1.目的
その他の自分が行う投資が全て失敗したとしても、老後を安心して暮らせることを目的とする。
2.資本市場の前提
国内株式の期待リターンは4.8%、国外株式の期待リターンは5.0%、国内債券の期待リターンは3.0%、国外債券の期待リターンは3.5%とする。(GPIF・年金積立金管理運用独立行政法人の試算より)
3.ポートフォリオ
上記の前提に基づいて、ポートフォリオは「国内株式:国外株式:国内債券:国外債券」の比率を「35:35:15:15」(合計で100)とする。期待されるリターンは5%。リスクは13%。3分の2の確率でリターンは-8~18%となる。
4.投資額及び目標の資産額
22歳時点での保有資産額0円。
年間積立投資額 54万円(月々平均4万5000円)。
65歳時点での目標資産額 6000万円。
出所:ブログ「22歳の貯蓄学」より抜粋 ※最新の投資方針書(2018年版)は下記を参照。
「仕組み」を最初にきちんと作っておくことが肝心
――社会人になる以前から、きちんとした「投資方針書」をあらかじめ作られていたということに驚きました。
投資方針書のことを話すと「ストイックな人」と思われがちですが、実はそうでもないですよ。ずぼらな部分があるので、最初にきちんとベースを作っておかないと続かないと思いました。私の場合、「まずは文字に書き起こして、宣言する」ということが、継続につながったのかもしれません。
投資と同時に「22歳の貯蓄額」というブログを始めたことも、プラスに働きました。社会人1〜2年目のころは、少ない給与の中から積立投資に回していくのが、苦しいことも正直ありました。給料日に積立と食費を先に引き抜いて、残りのお金で生活する、というのを徹底していたのですが、給料日前には「お財布の中身が500円だけ」ということも。「投資方針書」で宣言したことに対して妥協したくない、ブログの読者に嘘はつきたくない、というプレッシャーが良かったのだと思います。
コロナショック時にも投資方針書で冷静さをキープ
――積立投資をスタートされて13年経ちますが、「投資方針書」を見直すことはありましたか?
結婚して家族構成が変わったこともあり、2018年に見直しました。「老後を安心して暮らせること」という目的や目標金額、ポートフォリオの資産配分などは変わりませんが、積立額を月7万円にアップし、ボーナスを含め年間100万円以上を積立投資するという部分や銘柄の選択などを変更しました。ですが、基本的な方針は変わっていませんね。
コロナショックの際には資産全体がコロナショック前と比べて一時的に3〜4割ほど急減し、株価の下落スピードに気持ちが全く追いつかず、呆然となったこともありましたが、ここでも、自分を支えてくれたのが「投資方針書」の存在です。
市場が急落するようなときは、「投資方針書」を読み返して投資を始めた時の気持ちを思い出し、動揺しないように努めています。実際、特定口座で運用していたコストが比較的高い投資信託は含み損が出た時点で売却し、低コストの商品に入れ替えるなど、冷静に対応できたと思います。
>>>>【後編】「投資もスポーツと同じ、基本動作とルールが必要」
※本インタビューは2023年2月17日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。