先週の動き:ニューヨーク金先物価格(NY金)の週足は5週ぶりに上昇、2月は下げが2021年6月以来の規模に
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週足ベースで5週間ぶりの上昇となった。3月3日のNYコメックスの通常取引終値(清算値)は前日比14.1ドル高の1,854.60で終了。週間ベースで37.5ドル、2.06%の上昇となった。
3月3日は通常取引終了後の時間外取引でも買い優勢の流れが続き、一時1,864.40ドルと2週間ぶりの高値まで買われ、1,862.70ドルで週末の取引を終えた。
週前半は前週の地合いを引き継ぎ軟調な流れが継続、2月28日には一時1,810.80ドルと2022年12月28日以来2ヶ月ぶりの安値を付けた。この日の通常取引は1,836.70ドルで終了したが、2月を終えたNY金は月次ベースでは108.60ドル、5.58%の下げとなった。2021年6月の月間133.70ドル、7%の下落以来の値下がりとなった。
2月に発表された米国関連指標は予想比上振れが相次ぎ、インフレが高止まりし、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げが長引くことを市場は織り込みにかかることになった。
米長期金利の上昇とともにドル指数(DXY)も上昇、ファンドの買いポジション(買い建て)の整理売りに加え、売りポジション(売り建て)の増加という、先物市場主導型の下げが起きたとみられる。「みられる」と推論で書くには理由があり、後ほど詳述する。今後の価格動向を見る上で大きなヒントが隠れているという背景がある。
いずれにしても、先週前半は前月の地合いを引き継ぐ形で下値を探る動きとなったが、3月入りとともに発表される米国指標の結果が一定の好調さを示しても、市場の受け止め方には耐性とでも表現できる状況が生まれているようにみえる。
3月1日に発表された注目の2月のISM(米供給管理協会)製造業景況指数は47.7と、1月の47.4からやや上向いたものの予想(48.0)は下回った。拡大と縮小の分岐点となる50を4ヶ月連続で下回る状態にある。
注目は、仕入れ価格指数が51.3と2ヶ月連続で上昇し、2022年9月以降初めて50を上回ったことだ。コスト上昇からインフレが当面は高止まりする可能性があるとの受け止め方が広がった。
さらに3月3日の2月のISM(供給管理協会)非製造業景況指数(PMI)は55.1と、1月の55.2からはわずかに低下したが市場予想(54.5)を上回った。50を大きく上回り米国経済の3分の2超を占めるサービス業の拡大が続いていることを表す。 新規受注指数は前月の60.4から62.6に上昇し、2021年11月以来の高水準となった。
いずれの結果もゴールドを含め市場の反応が穏やかなものに収まったが、それは想定外の結果が連続したことを受け、FRBによる利上げが3月、5月のみならず、6月まで0.25%の幅にて継続することを市場が織り込んだことによる。7月の利上げや、利上げ幅の拡大(0.25%⇒0.50%)観測も浮上しているが、一部に過ぎない。
結局、先週のNY金のレンジは1,810.80~1,864.40ドルとなったが、先週のコラムでは想定レンジは1,800~1,840ドルに置いていた。3月に入った後半以降の上昇が目立った週となった。
一方、7,800~7,950円と先週のコラムで想定していた国金価格は、米インフレ指標の高止まり観測を反映し、米ドル/円相場が米ドル高/円安方向に振れたことから、週後半には8,000円台乗せとなった。レンジは7,882~8,066円と、円安により想定より上振れとなった。
2月中に大幅にロングを解消したとみられるファンド、ゴールドの堅調さが目立つ
前述で取り上げたNY金先物市場におけるファンドの動きだが、現状把握が難しくなっている。その背景には、通常であれば米政府機関である米商品先物取引委員会(CFTC)が毎週金曜日の夕刻に発表する取引主体別のデータの公表が遅れていることがある。
サイバー問題が発生したとして、1月中の発表が中断され、遅れて発表された1月31日時点のデータ以降未発表状態が続いていた。先週になり、やっと2月7日時点でのデータが公開されたが、ファンドのポジションは大きく変化していた。
1月31日時点のネット買い越し(ネット・ロング)は重量換算で346.93トンあったが、2月7日時点で245.22トンと1週間で101.71トンもの減少となった。2月3日に発表された1月米雇用統計のサプライズを受けた市場の反応に沿ったもので、この日のNY金は1日で54.20ドルの大幅安に見舞われ、1,876.60ドルで終了した経緯がある。
おそらく2月は、その後も続いた好調な米国指標発表に沿って、DXYの上昇が続いたことから、ファンドのロングの減少、ショートの積み増しという動きが継続し、その後のNY金の下げにつながっていることは間違いないだろう。
それでも2月のNY金の安値は最終日に付けた1,810.80ドルが最安値で、終値ベースでは2月24日の1,817.10ドルが安値となった。この間に節目の1,800ドル割れを試す動きも見られず、金融環境(米長期金利と米ドルの上昇)からは、むしろゴールドの堅調さが目立った印象が強かった。
いずれにしても、NY金先物市場では、ファンドのロングは減少し、ネットでほぼスクエア(ゼロ)に近いか、売り越し(ネットショート)という可能性もありそうだ。この辺りはデータ開示が望まれる。
不需要期の2月にも関わらず、上海金価格がプレミアム上昇
結果的に環境からは、あって不思議がなかったNY金の1,800ドル割れだが、一方で注目すべき現象が金市場で起きていた。それは中国上海市場の金価格が、指標となるロンドン現物価格に対し1オンス(トロイオンス、31.1035グラム)あたり10ドルを上回り、2月13日以降月末まで20ドルを上回って、ピーク時には38ドルにも達していたことだ。
いわゆる上海金価格はロンドン価格に対しプレミアムがついていることになるが、これはそのまま買い引き合いが強く、中国国内でゴールドが品薄になっていることを表す。しかも、30ドル超に至るなど、これは異常値と言えるものである。
このプレミアム上昇が示すのは、先のファンドの売りに現物買い、いわゆる実需の買いが対抗する形で下落を抑えていたということになる。ところが一般投資家の金選好が高い中国だが、需要期のピークは春節の前後(2023年は1月21日)であって、2月後半は不需要期入りしているタイミングとなる。つまり、一般の需要がここまで高まるとみるには難がある。
実は2023年も、上海金価格のプレミアム上昇が夏から秋にかけて見られたが、確たる背景が見えず不思議だった。後追いのデータで7月以降中国の金輸入額が増えていることが明らかになるのだが、前々週のコラムで解説した通り、2022年下半期を中心に中国の金輸入額は前年比で60%ほど増えており、私の試算では1,330トンほどとしていた。
仮に今回のプレミアム上昇が2022年同様の展開を見せるのであれば、再び中央銀行たる人民銀行の存在を考える必要がありそうだ。
今週の展望:パウエルFRB議長議会証言、2月米雇用統計、日銀政策決定会合に注目。NY金は1,840~1,880ドル、国内金価格は7,950~8,100円を想定
先週もFRB高官の発言が相次ぎ、市場では今後の金融政策の方向を読み取ろうと、関心が集まった。その発言も3月11日以降は自粛期間(ブラックアウト)に入ることから、今週で終了することになる。それでも注目指標が発表された後の発言内容には、変化の有無を読み取ろうと注意が向けられそうだ。
今週は3月7日(米上院銀行委員会)、8日(米下院金融サービス委員会)の日程でパウエルFRB議長による半期に一度の議会証言(公聴会)が予定されている。議会に提出される報告書のテキストは先行して先週3月3日に公表されたが、高インフレ継続への懸念が語られている。その中に(物価上昇の鈍化を意味する)ディスインフレとの表現が見られなかったことから、市場はタカ派的内容になることを警戒している。
ただし、先週の動きで書いたように、6月米連邦公開市場委員会(FOMC)までの利上げ継続は織り込んだ状況にあることから、内容がその範囲にとどまるものであれば、波乱は避けられそうだ。議員との質疑応答の際の発言内容に注目したい。
雇用市場の堅調さが利上げ継続に対する警戒感を強めさせていることから、言うまでもなく新規失業保険申請件数(3月9日)や2月雇用統計(3月10日)が注目点となる。3月10日の日銀金融政策決定会合は黒田総裁最後の会合となるが、発言内容によっては米ドル円/相場の値動きが大きくなる可能性がありそうだ。その場合は円安より円高警戒となる。
NY金のレンジは1,840~1,880ドル、国内金価格は7,950~8,100円を想定している。