S&P500の11分類のセクターのうち、時価総額1000億ドル超が17銘柄ある情報技術セクター
S&P500は、米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には、時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴の1つです。
構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、各々のセクター指数も算出されています。
11に分類されるセクターのうち、今回ご紹介するのは情報技術セクターです。このセクターはS&P500の業種別ウエートが最も大きく、全体の26.5%を占めています。大型株が多く、時価総額上位の銘柄を見ると、知名度の高いグローバルブランドがずらりと並んでいます。
米国経済の活力を象徴するような情報技術セクターの構成銘柄には、世の中を一変させる力を持つ企業も散見されます。米国市場全体で時価総額最大のアップル(AAPL)はその代表格でしょう。iPhoneの登場をきっかけにスマートフォンが急速に普及し、私達の生活は様変わりしました。
米国市場全体で時価総額2位のマイクロソフト(MSFT)も情報技術セクターの企業です。マイクロソフトもパソコンの基本ソフト(OS)である「Windows」やアプリケーションソフトの「Office」で私達の働き方を大きく変えています。
この他にも世界的な半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)、ブロードコム(AVGO)、クアルコム(QCOM)、インテル(INTC)、ソフトウエア開発のオラクル(ORCL)、シスコシステムズ(CSCO)、アドビ(ADBE)など、錚々たる企業が情報技術セクターに名を連ねています。人工知能(AI)や自動運転などの分野に欠かせない技術を持つ企業も多く、新たなゲームチェンジャーが、このセクターから誕生しても不思議ではないようです。
情報技術セクターの構成銘柄は76で、S&P500の11セクターの中で最多です。このうち2023年2月17日時点で時価総額が1000億ドル(約13兆4000億円)を超えるのは17銘柄に上り、前回のコラムで解説したヘルスケアセクターの15銘柄を上回っています。
世界的シェアを誇り、今後の成長にも期待できる情報技術セクター銘柄6選
アップル(AAPL)、サービス部門が着実に成長
情報技術セクターで、最も時価総額が大きいのはアップルです。一時は原油高を背景に、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコに時価総額を抜かれましたが、世界一の座に返り咲いています。市場から高い評価を得ている要因の1つとして、持続的な成長力を挙げることができると思います。
アップルは、例年、クリスマス商戦を見据えて新型iPhoneを9-10月頃に発売するため、季節ごとに売上高が上下に振れやすいという特徴がありますが、四半期ベースの売上高は2022年7-9月期まで、14四半期連続して前年同期比で増えていました。
2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比5.5%減の1171億5400万ドル、純利益が同13.4%減の299億9800万ドルで、15四半期ぶりに減収減益となりましたが、もちろん売上高が減少したのには理由があります。
まずは米ドル高です。アップルの海外売上比率は58%に達しており、海外での売上高は米ドル高で目減りします。また、iPhoneの生産を請け負う鴻海精密工業の中国工場が新型コロナウイルスの感染拡大で正常に稼働できず、iPhoneの供給が滞ったことも痛手でした。この結果、iPhone部門の売上高は8.2%減の657億7500万ドルに縮小しています。
iPhone以外の製品別売上高はパソコンの「Mac」が28.7%減の77億3500万ドルに落ち込み、タブレット端末の「iPad」は29.6%増の93億9600万ドルと伸びますが、ワイヤレスイヤホンの「AirPods」や腕時計端末の「Apple Watch」などを含む、ウエアラブル&ホーム部門は8.3%減の134億8200万ドルでした。
プロダクト部門は低迷しましたが、サービス部門の売上高は6.4%増の207億6600万ドルと着実に成長し、四半期ベースで初めて200億ドルを突破しました。クラウドサービスや「AppStore」、音楽配信が好調でした。
デバイスとそれに付随するサービスがアップルのビジネスの生態系を構成しています。サービス部門は粗利益率が70.8%とプロダクト部門の37.0%に対して非常に高い水準を保っており、サービス部門の売上高の伸びが利幅の拡大につながる見通しです。
マイクロソフト(MSFT)、サブスク型モデルが堅調
マイクロソフトも持続的に売上高を伸ばしてきました。四半期ベースでは前年同期比で22四半期連続の増収を継続中です。元々「Windows」はプレインストール型やパッケージ型、「Office」はパッケージ型が主力で、クラウド時代にそぐわないビジネスモデルでしたが、インド出身のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)が2014年に就任し、ビジネスモデルの転換を図りました。
サブスクリプション(定額課金)サービスの「Office 365」などを導入した他、クラウドコンピューティングサービスの「Azure」も始動させました。その効果は現在も続いています。
2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比2.0%増の527億4700万ドル、純利益が同12.5%減の164億2500万ドルでした。2桁の増収は21四半期連続で途切れましたが、増収自体は続いています。
セグメント別では、インテリジェント・クラウド部門の売上高が17.8%増の215億800万ドル、営業利益が7.0%増の89億400万ドルと稼ぎ頭に成長しました。「Azure」の売上高が31%増と全体を牽引しています。
ビジネスプロセス部門は売上高が6.7%増の170億200万ドル、営業利益が6.3%増の81億7500万ドルでした。ビジネス用の「Office 365」が11%増収、顧客関係管理(CRM)ツールの「Dynamics 365」が21%増収と好調です。
パーソナル部門は売上高が18.8%減の142億3700万ドル、営業利益が46.8%減の33億2000万ドルと低調でした。特にパソコンメーカー向けの「Windows」、ゲームの「Xbox」、端末製品などが2桁減収と低迷しています。
エヌビディア(NVDA)、新製品の切り替えが業績回復の鍵
3Dグラフィックスなどの画像を処理する半導体プロセッサーであるGPU(画像処理半導体)の世界的大手、エヌビディア(NVDA)は業績の調整局面を迎えているようです。2022年8-10月期決算は売上高が前年同期比16.5%減の59億3100万ドル、純利益が同72.4%減の6億8000万ドルと落ち込みました。
マクロ経済環境の悪化に加え、新製品への切り替えに伴う在庫調整が業績低迷の要因です。特にゲーム用のGPUが低調で、売上高は51%減の15億7000万ドルに半減しました。その一方、データセンター用の製品は好調で、売上高は31%増の38億3000万ドル。自動車向けも86%増の2億5100万ドルと急成長しています。
エヌビディアは画像処理、人工知能(AI)、データ処理、自動運転などの用途を見据え、新たな製品を投入しています。今後は新製品への切り替えのスピードが業績回復の鍵を握るとみられます。
ビザ(V)、10-12月期に国際業務が13%増収と成長
クレジットカードのビザ(V)とマスターカード(MA)が情報技術セクターに分類されているのは不思議な感じもします。ちなみにアメリカン・エキスプレス(AXP)はS&P500の金融セクターに分類されています。
違いはクレジットカード発行の有無にありそうです。ビザとマスターカードは自社でカードを発行せず、提携先のカード発行会社にブランドと決済機能を提供し、手数料を受け取るのが基本のビジネスモデルです。信用を提供せず、信用リスクを負うこともないわけです。
その一方、アメリカン・エキスプレスは自社でクレジットカードを発行し、会員にローンも提供します。総収入に占める金利収入の割合が大きく、不良債権のリスクを抱えるなど金融サービスが主体になっているのです。
ビザが発表した2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比12.4%増の79億3600万ドル、純利益が同5.6%増の41億7900万ドルと増収増益でした。売上高の内訳はデータ処理が5.9%増の38億2700万ドル、サービスが10.0%増の35億1100万ドル、国際取引が28.7%増の27億9700万ドルと成長しています。
国際業務の売上高は12.6%増の43億6900万ドルで、米国事業(12.2%増の35億6700万ドル)を上回ります。国際業務はロシア事業の停止や米ドル高といった逆風も吹きましたが、海外旅行の回復などを受けて堅調でした。
マスターカード(MA)、8四半期連続で増収増益
クレジットカードのマスターカードが発表した2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比11.5%増の58億1700万ドル、純利益が同6.1%増の25億2500万ドルと順調に伸びています。2022年3月にロシアでの事業を停止したものの、増収増益を確保しました。
営業費用を10.2%増の26億3300万ドルに抑えたことで利幅が広がりました。増収増益は2021年1-3月期以来、8四半期連続となります。
ブロードコム(AVGO)、2022年8-10月期に69%増益
半導体のファブレスメーカー、ブロードコム(AVGO)が発表した2022年8-10月期決算は売上高が前年同期比20.6%増の89億3000万ドル、純利益が同68.9%増の33億5900万ドルでした。2桁超の増収増益はこれで8四半期連続です。売上高の内訳は半導体部門が25.9%増の70億9200万ドル、ソフトウエア部門が同3.7%増の18億3800万ドルです。
ブロードコムは積極的な企業合併・買収(M&A)で知られており、2019年にはサイバーセキュリティー大手、シマンテックの法人向け事業を買収。2022年には仮想化技術を手掛けるVMウエアを買収する計画を発表しています。