米ハイテク5社の決算比較
金利上昇と米ドル高のあおりを受け、米大手ハイテク各社の業績が踊り場を迎えている。アップルを除く各社において大規模なレイオフが伝えられているが、コスト削減策を急ぐ背景には金利上昇による需要低迷が影響していると見られる。ハイテク5社、アップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、アルファベット(GOOGL)、アマゾン・ドットコム(AMZN)、メタ・プラットフォームズ(META)の2022年10-12月期決算を振り返っていこう。
アップルの2022年10-12月期決算は、iPhone販売の減少と中国での生産混乱の影響を受け、市場予想に届かなかった。アマゾンは需要低迷によって今期の営業利益が減少する恐れがあると表明。また、アルファベットは主力のデジタル広告事業が不振だった。
2月3日付のロイターの記事「アングル:米大手ハイテク決算、株価の先走りに警鐘」で、アップルのティム・クックCEOがインタビューに答え、中国のロックダウンが生産と需要の双方に悪影響を及ぼしたほか、米ドル高も収益を圧迫したと語った。
アップルの売上高が前年同期から減少するのは2019年1-3月期以来となる。減収幅は市場予想より拡大した。背景にあるのは米ドル高で、これが全体で8%近い減収要因となった。また、中国での新型コロナウイルス感染拡大によって工場の稼働率が大幅に低下し、iPhoneの新機種を十分に出荷できなかったことも影響した。
一方、グーグルの持ち株会社であるアルファベットは、売上高が前年同期比で1%増えたものの、純利益は34%減と4四半期連続の減益となった。インターネット広告事業、検索結果に関連する内容を表示する検索連動型広告の売上高、さらには動画共有サービス、ユーチューブの広告がいずれも減収となった他、米ドル高も業績の足を引っ張ったとしている。
アマゾンの売上高は市場予想を上回ったものの、利益の成長を支えてきたクラウドコンピューティング事業が減速し、営業利益は21%減少した。また、純利益は98%減の2億7800万ドルと大幅に落ち込んだ。出資している米EVベンチャーのリビアン・オートモーティブ・インク(RIVN)の評価損23億ドルを計上した影響だ。
マイクロソフト決算、減益率は比較的小幅
各社ともに厳しい決算となったが、減益率が比較的小幅にとどまったのがマイクロソフトだ。1月24日に発表した2022年10-12月期(2023年度第2四半期)の決算は、売上高が前年同期比2%増の527億ドル、純利益は12%減の164億ドルだった。
部門別では、サーバー製品およびクラウドサービスを扱うインテリジェントクラウド部門の売上高が18%増と好調で業績をけん引した一方、WindowsやXbox等を扱うパーソナルコンピューティング部門は伸び悩み19%減となった。
マイクロソフト、収益構造をAIおよびクラウドサービス中心にシフト
マイクロソフトは2月7日、検索エンジン「Bing」とウェブブラウザー「Edge」の大規模なアップデートを発表した。更新の目玉となるのは、「オープンAI」が開発した大規模言語モデルAI「ChatGPT」を使った「チャット」「要約」などの機能だ。
これに先立つことマイクロソフトは、AIの研究開発を行うオープンAIに1兆円規模の投資を行うと発表していた。オープンAIはシリコンバレーで最も重要な人物と言われるピーター・ティール氏やテスラのイーロン・マスクCEO等の出資を受け、起業家のサム・アルトマン氏らが2015年に設立した。
マイクロソフトは2019年の段階でオープンAIに既に10億ドルを出資、また2021年にも資金を提供しており、今回は再追加投資となる。この投資を通じて最も人気の高い最先端のAIシステムの一部にアクセスできるようにすることが狙いだ。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは今後10年の最も重要な技術としてAIを挙げている。
1月26日付のZDNET Japanの記事「マイクロソフトのナデラCEO、『技術スタックの全階層にAIを搭載』と語る」によると、決算発表後に行われたカンファレンスコールでナデラCEOは、オープンAIに対する出資についてコンピューティングの次なる波を構成するものだと語り、AI機能への投資を続けるとして次のように述べたという。
次なる大きなプラットフォームの波は、これまでにも述べたようにAIであり、その波をつかむことができただけで多大な企業価値が創出されるとわれわれは強く確信している。その波は、われわれの技術スタックのすべての部分に影響を与えるとともに、新しいソリューションと新しい機会を創出する。
2022年度末時点の手元キャッシュは減少しているものの、日本円で13兆円を超え潤沢だ。マイクロソフトはこれまでにも多数の事業買収を重ね、成長、拡大してきた。オープンAIへの巨額の追加投資は、マイクロソフトが従来のOSやオフィスアプリがメインだった収益構造を、AIおよびクラウドサービス中心のものへとシフトさせていくという姿勢を表したものなのだろう。
AI技術がもたらす影響は未知数
マイクロソフトの検索エンジンとウェブブラウザーにAI機能が追加されて約2週間が経過した。今回のマイクロソフトの展開は、グーグルが独占してきた検索エンジン業界のシェアを再分配する転換点となるのか。
グーグルはその独占に近い状態を守りマイクロソフトに対抗するべく、独自の対話型AIサービス「Bard(バード)」を新たに導入した。マイクロソフトとグーグル、メガハイテク2社による、次世代のインターネット検索のトップランナーをめぐる競争の火蓋が切って下ろされた。果たしてAIはハイテク各社にとって次のブレークスルー製品になるのだろうか。
2月10日付のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「巨大ITの市場支配は続く 成長鈍化でもAIあり」は、米国の巨大IT企業はかつて「ビッグ・急成長・飽くなき技術革新」が3拍子そろったまれな例であったが、今やIT大手の成長には陰りが見え、技術革新は迫力を欠いていると指摘している。
「大規模言語モデル」を活用して人間そっくりの自然な会話で質問に答える「ChatGPT(チャットGPT)」の成功は、この技術が検索やソーシャルメディア、スマートフォンに並ぶ新しいヒット製品となる可能性をうかがわせるとしつつも、AIが真に新しい製品を生み出すのか、それともすでに掌握した市場で守りを固めるのに役立つのか、まだ定かではないと論じている。
AIが注目されるのは今回が初めてではないという。1月31日付のMITテクノロジーレビューの記事「GAFAレイオフでも『AI冬の時代』が再来しない理由」によると、1950年代に1つの分野として確立されて以来、AI研究は流行と衰退の激しい波を繰り返してきた。景気後退によってAI研究の資金源が閉ざされた「AIの冬の時代」と呼ばれた時代はこれまでに2度あった。1970年代と、1980年代後半から1990年代前半だ。
しかし、今回はまったく異なることが起きていると論じている。テック企業の経営が厳しくなっている中でもAI研究は依然として活発で大きく前進している。また、当時は、コンピューターがソフトウェアを動かすのに十分な性能を持っていなかったが、今では、大量のデータと非常に強力なコンピューターによって、この技術を実行することができるとしている。それを実現させているのは半導体の計算能力の飛躍的な向上だ。
前述のウォール・ストリート・ジャーナルの記事は次のように締めくくっている。
AIがいかなるインパクトを与えるかを、われわれはまだ正確に予測できる段階にはない。だが恐らくこれだけは言える。AIによって巨大IT企業はビッグであり続けるだろう。
新たな分野に莫大な研究開発資金を投入することができるということ、ビジネスに半導体の計算能力の飛躍的な向上を最大限活用することができること、この2つを掛け合わしたビジネスを展開しているのは米ハイテク大手だ。指数関数的に成長する半導体の進化は先行者をさらに強者にすることになるだろう。