<< <<【中編】注目のヘルスケア関連銘柄、成長株を選ぶポイント

メタバースの見通し

岡元:メタバースについて、現在のお考えをお聞かせください。

ウッド氏:ヘッドセットが必要なメタバースについては、眼鏡のようなシームレスなものに改善される必要があると思います。既にどのようなメタバースがあるか考えてみましょう。ズームはコロナ禍において最初のメタバースとなったと言えるでしょう。私たちは皆、ズームで会話したり、ビジネスについて語り合ったりしながら、メタバースを体験していたのです。そこでわかったのは、メタバースにおいてアバターを使うのが必ずしも良い方法ではないということです。もっと人間らしい、表情を見て人が何を言いたいのか判断できるような特徴が必要です。アバターは、時間が経てばもっと人間らしくなるでしょうが、今はまだそうではありません。

私たちは今もメタバースに大きな期待をしています。ズームはメタバースにおいて良いスタートを切ったと思います。NFTもまた良いスタートとなりました。そして、デジタル財産権がメタバースにおいて最も重要な部分になると考えていますが、まだ非常に初期段階にあると言えます。

キャシー・ウッド氏、パランティア売却の理由

岡元:パランティア・テクノロジーズ(PLTR)を売却した理由を教えてください。

ウッド氏:パランティアは、AI技術を発展させ、国家安全保障に応用した点において、私たちはその功績を高く評価しています。そういった意味で、非常に重要な企業だと考えています。しかし、バイデン政権下で同社がこれまでアクセスできていたデータをすべて利用できなくなる決定がなされた際、私たちは懸念を抱くようになりました。同政権は1社だけに依存したくはなかったのでしょう。実際、国家安全保障のために多くの企業を招聘しています。

しかし、データを分割してしまうと、競争上の優位性を失ってしまいます。それこそがパランティアが持つ競争優位性でした。同社は政府向けビジネスが60%以上を占めていました。ですから、政権の対応の変化によってダメージを受け、ビジネスを構築するために民間向け事業に注力しなければならなくなると考えたのです。同社には世界でも有数のAI専門の人材がいることを知っています。しかし、政府が決定を下すと、そのような人材の一部は辞めてしまいました。彼らが他の企業を立ち上げているケースも見られます。それはパランティアにとって短期的な問題であり、乗り越えられると信じていますが、まだ時間がかかると思います。

打撃によって浮かび上がったビットコインの強み

岡元:ビットコインについての見解をお伺いします。市場がビットコインに再注目し始めるきっかけは何だと思いますか。

ウッド氏:暗号資産市場が大きな打撃を受けたことから、市場はビットコインに再び焦点を当て始めていると思います。危機は不透明な中央集権的な企業によって引き起こされました。セルシウス・ネットワーク、スリーアローズキャピタル(3AC)、FTX、ジェネシス、デジタル・カレンシー・グループといった企業は、中央集権的で透明性がありませんでした。

ブロックチェーンで何が起こったかを見てみると、テラ(Terra)やルナ(Luna)が暴落したとき、透明性のあるブロックチェーンではマージンコールが満たされていたことが分かります。マージンコールは直ちに自動で実施されており、そこに人間の介入はありません。一方、セルシウスや3AC、その他のヘッジファンド、FTXは、どうやって乗り切ろうかと考え、透明性を保っていませんでした。彼らは非常に強いと見せかけていました。そのため、これらの企業に資金を預けていた人たちは資金を失いました。

ビットコインの強みは、分散化された金融ネットワークにあり、非常に透明性があるという点です。これは2008~2009年の再現だと思います。伝統的な金融サービスの世界では、中央集権的な組織は透明性がなく、カウンターパーティがどこにいるのかわからないため、デリバティブのすべてが機能停止に陥り、政府が介入しなければなりませんでしたが、ビットコインには政府の介入がないことにお気づきでしょう。非中央集権的で、透明性が高いからです。これがビットコインの大きな魅力です。

また、スマートコントラクトの大部分はイーサリアムでなされているため、イーサリアムについてもある程度は同じことが言えます。そのため、この2つの通貨に対する私たちの信頼度は上がっています。私たちは中央集権的で透明性のないものからは距離を置いています。

新たに注目したい市場とは

岡元:新興市場やフロンティア市場においても革新的な企業をお探しですか。

ウッド氏:私たちは常に、どんな場所でもイノベーションを探しています。現在、私たちのポートフォリオの比率は、米国に偏っています。しかし、コロナ禍の後、中国が金融政策と財政政策の観点から非常に規律正しく、責任ある態度で対処しているのを目の当たりにしました。私たちはそれが非常に良いことだと思いました。そこで、ポートフォリオを分散させ、通常はリスクオフの時には集中的な投資をして、リスクオンの時期に分散させることにしました。

私たちの旗艦戦略ポートフォリオにおいて、中国やアジアの株式を20~25%の範囲に、ラテンアメリカを含む新興国株式をさらに高いところまで引き上げたのです。しかしその後、中国では共同富裕のためにアントグループやゲーム、オンライン教育、暗号資産のマイニングなどイノベーションに対する締め付けが強化されました。このような状況から、利益率が低くても、3~4線都市を支えている企業であれば、問題ないだろうと考えています。しかし、イノベーションは歩みを止めないでしょう。インセンティブなくして、中国は最先端に行くことはできないでしょうから。こういった状況もあり私たちは旗艦戦略のポートフォリオにおいて、中国から手を引きました。

そして新しい運用戦略をスタートさせました。パブリック・プライベート戦略です。その中で重要な銘柄の1つがアフリカの企業です。アフリカのデジタルウォレットの企業です。サファリコムも私たちの様々なファンドに組み込んでいます。同社はケニアに本社を置く企業ですが、CEOや経営陣がグーグルやメタといった企業の出身なので、暗号資産やAIなど米国の技術から多くのことを学んでいます。非常に興味深い企業です。

今後、私たちは新興国やフロンティア市場の通貨にもっと関心を持つようになるでしょう。この1~2年、FRBの金融政策によって新興国やフロンティア市場は打撃を受け、スリランカやパキスタンなどで暴動が見られました。彼らは購買力を失い、富を失ったからです。しかし、そういった状況から徐々に回復してきていると思います。

岡元:最近、新たに投資を考えている企業はありますか?

ウッド氏:2021年2月以降の2年間は、インフレと金利の引き上げに対する懸念が高まり、それらが現実となったため、最も確信度の高い銘柄にポートフォリオを集中させてきました。しかし、まだ大きな上昇には至っていません。インフレと金利が低下してくれば、ポートフォリオが安定すると考えています。そして、私たちが未公開セクターからモニタリングしてきた企業から出てきたIPO銘柄などにも、再び分散を拡げられると思います。時間の経過とともに、イノベーション関連銘柄に追加投資していく予定です。これはおそらく2年後のことだと思いますが、より流動性が高くなり、機会が増えればポートフォリオを移動させることができるようになるでしょう。

現時点では、私たちは集約を進めており、あるべき姿にほぼ近づいています。そして、人工知能とあらゆる分野、あらゆるイノベーション・プラットフォームとの融合が、いかにエキサイティングな機会であるかということは、既に述べた通りです。私たちが非常に大きな関心を寄せているのは、企業が保有するデータがいかに独自のものであるか、そしていかに重要なものであるか、そして企業がそのデータとAI技術を駆使して、真に新しい製品やサービスを生み出すことをどれだけ考えているかということです。私たちが最も重視しているのはその点です。

岡元:御社の日本のファンへメッセージをお願いします。

ウッド氏:従来の方法ではなく、新しい方法を学ぶことに喜びを感じ、私たちの戦略こそが未来に向けたものだと信じてくださっている方々に感謝しています。今やFAANG(メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドットコム、アップル、ネットフリックス、アルファベット)のようなかつての破壊者でさえ、今やその地位を揺るがされつつある状況です。つまり、投資家は新しい企業に目を向ける必要があるのです。私たちは新しい企業に投資しています。

弱気相場において私たちの戦略は市場よりも先に底を打つ傾向があります。その理由は、私たちの投資対象が新しいリーダーとなるからです。イノベーションは常に新しいリーダーシップとなります。これが今、私たちが注目すべきもう1つのポジティブな点だと思います。インフレ率は低下しており、2%を下回ると思われるため、FRBは金融緩和すると思われます。私たちの戦略は手酷い下落を受けましたが、時が経につれ最も報われると信じています。

岡元:本日はありがとうございました。またお目にかかれるのを楽しみにしています。

※本記事は2022年12月19日に実施したインタビューを後日、編集・記事化したものです。
同インタビューの特別編集版は2023年1月26日開催の「ハッチの米国株マーケットセミナー」で放送しました。