生涯賃金は労働者が職業人生(新卒から定年まで)において得られる総賃金のことです。賃金労働者ですから、自営業等は除かれ、家賃収入や投資収益等も省いたものです。日本のサラリーマンの平均生涯賃金は大学・大学院卒の男性で2億6,000万円、同女性が2億1,000万円とのこと(労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2015』のデータより※退職金は含めず)。これら数値はあくまで「平均値」であり、学歴、企業規模等によっても変わり、より高学歴、規模の大きい企業ほど大きくなります。

もう一つ、こうした数値が変わる要因に、どういった時期に就職、就労していたかがあります。先日米NY市の報告書の報道がありました。2007-09年の米景気後退期(リセッション)以降に市内で就職した若者(「ミレニアル世代」=1985-96年生まれ)の賃金水準はそれ以前の世代に比べておよそ20%低い水準で、職業人生の最後までその格差を埋められない可能性があるというものです。
記事によると、その原因は高所得とされる仕事(金融や法律関係)に求人がなく、接客や小売りといった比較的低賃金の職業の求人が急増していた時期に社会人となったためといいます。リセッション期に就職すると低賃金期が長くなり、そのまま賃金の低い仕事に甘んじる傾向があるとのこと。

私が個人的に気になったのは、そうした状況においては「幸福度も低いことが学術調査で判明している」という点です。
FPというのはけっして「金持ちを目指しましょう」と指南する仕事ではありません。各人がそれぞれの希望をかなえ、将来にわたって必要十分なお金に困らない生活をおくることを目標とします。私は幸福論の専門家ではありませんが、それは各々の人にとっての幸せの追求の一助でもあると思っています。

上記報告書は米国のもので、日本で同様であるとは言い切れませんが、日本も長くリセッション期が続きました。不幸にも仕事を始める時期がそうした時期にあたった場合でも、生涯賃金を上げる方法はあります。
投資です。
投資は投資でも、若い世代にとっては、まずは自己投資が大きな意味をもつと考えます。専門的な勉強をする、資格を取る、語学を身に着ける等々が就労という場面において、ステップアップの一助になり、それは収入の上昇にも満足感にもつながることでしょう。金融商品への投資も、きちんと勉強することでより安全性を高めて資産形成を行うことにつながります。
もちろん、誰でも可能というわけではないでしょうし、努力も必要なことですが、時代が悪い、政治が悪いと文句を言っても誰も助けてくれません。

自己投資は若者だけの特権ではなく、どの世代にとっても生きがいになったり、副収入への道へつながったりと可能性は広がります。
自己責任、自助努力というと突き放されたように感じる方もいらっしゃると思いますが、その成果も全て自分に戻ってくるものと考えて向き合いたいですね。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員