株価30倍となったバフェットの中国BYDへの長期投資

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハザウェイ(BRK.B)が、香港市場に上場する中国のEV(電気自動車)大手BYD株の保有を減らしていることがわかった。2022年8月中旬から売却を始め、最大で2割を超えていた保有比率は直近で15.99%まで低下した。

9月3日付のブルームバーグの記事「バークシャーのBYD株売却、まさにバフェット氏投資手法の神髄か」によると、バフェット氏は2008年に約2億3000万ドルを投じてBYD株を保有して以降、14年間にわたりBYD株の保有を続けてきた。その間、BYDの株価は30倍以上に拡大した。

当時、バフェット氏による保有が明らかになったことでBYDは世界的なEVメーカーとしてその名を轟かせることになった。BYDが創業されたのは1994年、社名のBYDは「Build Your Dreams」の頭文字を取ったものだ。本社は広東省深圳市にある。創業者は現在、会長兼CEOを務める王伝福氏だ。

主要事業は、自動車の製造(約50%)、スマートフォンの部品製造と組み立て(約40%)、自動車用を中心としたバッテリーの生産と販売(約10%)の3つだ。2021年度に売上高が初めて2000億元を突破したが、中でもEVを中心とした「新エネルギー車」の販売が好調で、2013以降、9年間連続で中国国内の生産台数1位を継続している。

国内外のビジネストレンドや注目の新技術を紹介するサイト「wisdom」に掲載された6月27日付のコラム「テスラ、トヨタに核心技術を提供 『遅咲き』の中国実力企業BYDは自動車業界を変えるか」によると、王氏は「あらゆる誘惑に負けず、製造業に徹する」と公言しており、バッテリーや半導体など、さまざまな先端技術を時間とお金をかけて自社で積み上げてきた。その分、ITや金融企業などに比べると「遅咲き」だが、その実力は業界の誰もが認めるところだとしている。

携帯電話が本格的に普及し始めた1990年代中頃、小型で高性能なバッテリーを開発し、売上を飛躍的に伸ばした。2000年に入り、グローバルな携帯電話市場の覇者であったモトローラやノキアにバッテリーを供給し、2002年には香港市場への上場を果たした。

上場で得た資金をもとに、BYDはバッテリー事業を手がけるかたわら2003年に小型車メーカーを買収し、自動車分野に進出。ガソリン車を生産する一方、「祖業」である電池の技術を生かしEVやハイブリッド車の開発も進め、2006年にはBYDとして初めてとなるバッテリーEVの開発に成功、2008年には世界初の量産型プラグインハイブリッド(PHEV)車を発表した。

2013年からの中国政府による「新エネルギー車」普及政策の本格化はBYDの事業展開に強力な追い風となった。BYDは2014年以降、経営の重点を「新エネルギー車」及びそれに搭載するバッテリーの開発と生産、供給へと大きくシフトした。そして2022年3月には、世界の主要なガソリン車メーカーの中で初めて、ガソリン車の生産を終了すると発表した。

足下の業績は好調だ。BYDが10月28日に発表した2022年1-9月期決算は、売上高が前年同期比84%増の2676億元(5兆1754億円)、純利益は3.8倍の93億元(約1800億円)だった。上海がロックダウンで封鎖される一方、BYDの工場や部品工場は主に深圳市と中部にあるため、自動車生産を継続することができた。主力の中国市場における新車販売台数は1年前の2.6倍に拡大した。

販売台数比較BYD vs テスラ

新エネルギー車をめぐっては現在、米EV大手テスラとBYDの2強が他社を大きく突き放している。今年上半期(1-6月)のBYDの販売台数は前年の4倍強となる64万1000台で、テスラの56万4000台を上回った。

【図表1】2022年上半期の新エネルギー車の世界販売台数
出所:筆者作成

ただし、これはBEV(バッテリー式電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド式電気自動車)を合わせた販売台数である。BEVに限れば、BYDの販売台数は約32万台とトップのテスラに20万台以上の差を付けられている。

【図表2】2022年のBEV販売台数の予測
出所:日経新聞の記事より筆者作成

BYDの強みの1つは、バッテリーやモーター、マイコンのような一部半導体など、自動車製造に使われる主要部品を実質的にすべて自社で設計、生産する垂直統合型のビジネスモデルをとっていることだ。このことは、ここ数年、サプライチェーンの混乱によって、他の自動車メーカーが操業停止を余儀なくされるなど混乱が続いている中で大きな強みとなった。

11月29日付のフォーブスの記事「中国のEVメーカーBYD創業者が語る『テスラを追い抜けた理由』」によると、BYDは傘下のBYDセミコンダクターでEV向けのチップを製造しており、競合企業がチップ不足にあえぐ中でも、それを回避できた。調査企業のアライド・マーケット・リサーチは、世界のEV市場が2030年までに8240億ドルに達すると予測し、「垂直統合がBYDに長期的な力を与え、小規模なライバルを駆逐する」と述べているそうだ。

7月27日付のウォール・ストリートジャーナルの記事「バフェット氏出資のBYD、テスラに迫る勢い」では、次のように指摘している。

BYDはこのビジネスモデルのおかげで、他の自動車メーカーより「はるかに自分たちの運命をコントロールしやすい」。BYDは一部のライバルを苦境に立たせたロックダウンからは比較的無傷でいられた。今春、中国有数の自動車生産拠点である東部の上海と北部の長春では、厳しいロックダウンのため、テスラやVW、トヨタ自動車などの工場が生産停止を強いられた。これらの地域で製造される部品を用いる他の自動車メーカーも、生産と配送の遅れが足かせとなった。

中国国内だけにとどまらない。BYDは低価格を背景に海外への輸出も加速させている。現在、BYDの売上の約70%は中国が占めているが、積極的な海外展開を進めており、アジアでは日本とタイ、インドで新モデルのEVを発売した。また、中南米での販売を拡大しており、特にブラジルでの販売を強化し、2023年にはメキシコに進出することも発表している。

前述のフォーブスの記事によると、10月にはパリモーターショーで3つのEVを発表し、欧州での販売も拡大する計画だ。世界中に30以上の生産拠点を持つBYDは、2022年少なくとも150万台のEVを販売する見込みで、2023年には400万台を目指すと報じられている。

他の追随を許さないテスラの圧倒的な利益率

このように中国の自動車メーカーによる販売は加速している。ただし、気になるのは利益率だ。テスラの直近の営業利益率は約17%であるのに対し、BYDの営業利益率は2%程度にとどまっている。

【図表3】テスラの営業利益率
出所:筆者作成

11月11日付のヤフーファイナンスの記事「China’s BYD sells more cars—but Tesla makes eight times more profit per vehicle(中国BYDの自動車販売台数は多いが、テスラは1台あたり8倍の利益を上げている)」によると、直近の3四半期における自動車販売1台あたりの利益は、テスラが9,761ドルを上げているのに対し、BYDは1,190ドルと8倍以上の差がついている。

BYDが特に不採算というわけではない。テスラの利益率が他の自動車メーカーに比べて高いと言うのが正しいようだ。トヨタ(7203)と比べてみよう。

11月8日付の日経アジアの記事「Tesla earns 8 times more profit than Toyota per car(テスラ、1台あたりトヨタの8倍の利益を獲得)」の分析によると、販売ではトヨタがテスラを7対1以上で上回っているにもかかわらず、テスラは1台あたり8倍もの利益を上げているとのこと。

テスラはEVに集中的に取り組んでいること、そして高いブランド力によって価格を引き上げ、高騰する原材料価格を製品価格に転嫁できている。こうしたことが、自動車販売台数あたりの利益を高めている要因であり、テスラが他の自動車メーカーとは一線を画した地位を築いている背景だ。

【図表4】テスラの売上高と純利益の推移
出所:筆者作成

石原順の注目5銘柄

テスラ(TSLA)
出所:トレードステーション
バークシャー・ハザウェイ(BRK.B)
出所:トレードステーション
アップル(AAPL)
出所:トレードステーション
アマゾン・ドットコム(AMZN)
出所:トレードステーション
アルファベット(GOOGL)
出所:トレードステーション