インターネット通販サイト運営ツールを提供するShopify(ショッピファイ)が10月27日、2022年7〜9月期決算を発表。売上高は前年比22%増の14億ドルとなり、前年比での拡大が続いた。

出所:Strainer

赤字は拡大し、3.45億ドルの営業損失を計上。このマーケット環境で株式市場での評価も低迷し、時価総額は431億ドルと大きく落ち込んでいる。1年前と比べ、およそ5分の1という水準だ。

市場からの評価が低迷する中、Shopifyはさまざまな外部企業との連携を進める。今回の記事では、決算発表の中から特に重要なポイントを整理してご紹介する。

専用のモバイル端末「POS Go」を発表

このところ注力するのが、店舗で導入可能なPOSソリューションだ。堅調なのが大口向け「Shopify Plus」でのPOS販売で、7〜9月期におけるPOS Pro新規販売のうち35%(前年同期比は14%)を占めた。

Shopify全体におけるオフライン販売は、GMVベースで前年比35%増(為替固定で+41%)。2021年以来、POS Proを新規利用するマーチャントのうち半分超がSMB(中小事業者)であり、3分の1超が既存の小売店だったという。

特に興味深い動きとして、専用の小型POS端末「POS Go」をリリースした。見た目はスマートフォンのような形をしているが、れっきとした専用端末である。

モバイル型なので店舗のどこからでも決済を完了でき、カードリーダーやバーコードリーダーも内蔵。クレジットのタッチ決済にも対応する。商品情報を参照し、顧客のメモを取ったり購入履歴を確認したりもできる。

新端末を出した背景には、オフライン販売の急回復がある。2022年の前半、ShopifyにおけるPOS端末での販売高は前年比で60%も増えた。以前と違うのは、オンライン販売と密に連携した「オムニチャネル」が当たり前に必要な最低条件となっていることだ。

Shopifyにとって「POS Go」は、さらに多くのマーチャントを引き込むための打ち手だ。9月のローンチ以来、既存のマーチャントからも熱狂的に導入されているという。2022年の年末ホリデーシーズンに向け、体勢を整えた。

オンラインは大手PFとの連携進める

オンライン販売においては、大手プラットフォームとの連携を進める。ShopifyマーチャントはFacebookやInstagram、Googleなどを経由して消費者が直接購入できる。それによる決済額は、7〜9月に前年比で3倍以上に増えた。

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Shopify全体のGMVは、伸びが鈍化している

今の消費者は、属性や用途ごとにプラットフォームを使い分ける傾向が強い。GoogleやFacebook、InstagramやTikTokに至るまで、利用するオーディエンスや利用目的が異なる。

性質が違えば、それぞれ別アプローチでのマーケティングが必要であり、大規模な事業者ほどその必要性は大きい。各プラットフォームと連携した決済機能を有するShopifyが有力な選択肢になるのも必然と言える。

Shopify Plusを利用する大口事業者向けには、マルチチャネルでのマーケティングに役立つ「Shopify Audiences」を始めた。FacebookやInstagram広告でのオーディエンスリストを作成することで、新たな購入層を見つけられる。

5月のローンチ以来、Shopify Audiencesは各店舗における成約率を大幅に引き上げ、広告効果を向上させている。広告の投資対効果(ROAS)が170%以上も伸び、購入件数が3倍以上になった例もあるという。

Googleとも新たな連携を進め、インターネット通販におけるハブとしての地位をさらに高める。デジタル広告が過渡期に入った今だからこそ、「購買」という最終段階を握ったShopifyの重要性が光る。

「Shopify Markets Pro」を早期提供

海外向けの販売をやりやすくするShopify Marketsも人気を高めている。2021年よりサービスを正式に開始して以来、世界中で17.5万を超えるマーチャントが使っている。米国の利用者だと、平均して14ヶ国もさらに多くの地域へ販売できるようになった。

2022年9月には、「Shopify Markets Pro」の早期アクセス版も開始した。導入すると、簡単に150ヶ国以上への販売ができるようになる。商品情報は翻訳、為替もローカル通貨に変換して表示できる。関税の心配も不要だという。

同社によれば、消費者にローカライズされたコンテンツを見せるほど、マーチャントの販売高は増える。高いハードルを「Shopify Markets Pro」によって解決できれば付加価値は大きい。

海外の売り手も重要だ。直近では全事業者のうち45%が北米以外に位置する。「Shopify Payments」は、フィンランドやスイス、ポルトガルでもローンチ。資金面を支援する「Shopify Capital」もオーストラリアで開始し、「Shopify Shipping」はイタリアやフランスでも始めた。

Shopify Capitalは、事業者の売上データをもとに運転資金を貸し出し、売上から返済できる金融ソリューションだ。2020年には総額10億ドルを超え、2021年に20億ドル、2022年は8月までに40億ドルに達している。

大口向け進むも、MRRは全四半期比で減少

大口向けのShopify Plusは、限定機能を充実させる取り組みが成果に結びついている。これまでは既存マーチャントによるアップグレードが多かったが、はじめて導入する場合も「Plus」を選ぶことが増えている。

ここでも北米だけではなく、海外向けの法人セールスに力を入れる。コンバースジャパンやGNCインディア、イタリアのフットウェアブランド「Superga」などだ。New Era 香港も名を連ねる。カーダシアンのようなセレブもShopify Plusを導入し、サプリメントなどを売っている。

EYやKPMG、デロイトといった大手ファームとの連携では、大企業のさらなる取り込みを狙う。EYは500人の技術プロフェッショナルを育成し、同社のイノベーションハブ「EY wavespace」世界50拠点で展開する。

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Shopify全体のMRR(月次リカーリング収益)は前年比8%増にとどまり、前四半期比では純減した。このうち、Shopify Plusが占める割合は33%となり、前年同期(28%)から増えている。

2022年に始めた月額5ドルのスタータープランは、7〜9月にはじめて四半期を通じての寄与となった。起業家やクリエイターを対象としたプランだが、短期的にはMRRへの貢献度は低く、成長率を押し下げる要因となる。

赤字額が拡大している一方、Shopifyのバランスシート上には49億ドルの手元流動性(現金同等物 + 流動性有価証券)がある。CFOのアミー・シャペロも「我々のキャッシュポジションは強固だ」と胸を張り、引き続き積極的な成長投資を行っていくことを表明した。

2022年9月からShopifyは、従業員向けの新たな報酬体系「Flex Comp」を導入した。給与を現金、RSU、ストックオプションでどれだけ受け取るかの割合を従業員側が選べるというものだ。

デフォルト設定よりも多くの株式報酬を配分すると、株式報酬の金額に対して5%のボーナスが受け取れる仕組みだ。マーケットでの評価が下がっている今、自らShopifyを成長させる意欲のある人材を集めようとしている。

導入した目的は、世界トップレベルの人材を採用すること。長期ビジョンである「100年企業をつくる」ことにも沿っているとする。CFOによれば、新制度導入による営業費用の拡大はわずかであるという。