エネルギー価格と食品価格の密接な相関性
米石油大手が巨額な利益を生み出している。10月28日付のブルームバーグの記事「エクソンとシェブロン、計310億ドルの利益計上-エネルギー危機の中」によると、エクソン・モービル(XOM)とシェブロン(CVX)の2022年7-9月期における純利益は両社合わせて300億ドル、日本円にして約4兆4300億円にのぼった。両社合わせた利益規模は1時間当たりに計算すると約1400万ドルに相当すると言う。
一時期に比べて原油価格は低下傾向にはあるものの、それでも依然として高水準にある。エネルギー価格の上昇は食品からスマートフォンに至るまで、消費者の日常生活に関わるほぼすべてのものに多大な影響を及ぼす。以下は1992年を100として、エネルギー価格の推移と食品価格の変化を示したものである。エネルギー価格と食料価格は密接な相関を示している。
インフレは今や世界的な現象である。世界銀行のデータによると、直近においてインフレ目標を上回る物価上昇が進んでいる国の割合は先進国のほぼ100%で、新興国および途上国では87%となっている。3年前(2019年)は新興国および途上国で20%、先進国では9%に過ぎなかった。
食料不足を背景に世界中で高まる社会不安
世界銀行は10月に公表した最新の報告書「Commodity Markets Outlook(コモディティマーケットの見通し)」の中で、途上国の大半において、通貨安が引き金となり、食料や燃料価格を押し上げていると指摘。その結果、多くの国で以前から直面していた食料とエネルギー危機が悪化しかねないと警鐘を鳴らしている。
燃料、化学製品、肥料などの投入コスト上昇を受け、農産物価格は2022年に18%上昇すると予測されている。ロシアは世界最大の肥料を輸出国であるため、肥料価格だけでも70%上昇すると見られている。小麦価格は2022年第3四半期に20%近く下落したが、それでも1年前を24%上回る水準にある。
ウクライナまたはロシアからの輸出が途絶えれば、世界の食物供給がまたしても混乱しかねない。また、エネルギー価格が一段と上昇すれば、穀物や食用油の価格に上昇圧力がかかる可能性がある。さらに、悪天候により農業生産高が落ち込むことも考えられる。2023年は連続して3年目となるラニーニャ現象発生の可能性が高く、南米や南アフリカの主要作物の収穫量が減少しかねない。
そこに追い討ちをかけているのが米ドル高に伴う各国の通貨安だ。新興国・途上国の60%近くで、現地通貨建てでの石油価格と小麦価格が上昇した。世界的に食料価格がさらに上昇すれば、途上国全体で食料不安の問題が長期化しかねない。
(M=百万人)
一般の人々の暮らしに直結する燃料や食料の価格の高騰は、しばしば大規模な抗議行動、政治的暴力、暴動につながる。2010年から2012年にかけてアラブ諸国を中心に起きた大規模な反政府デモ「アラブの春」のきっかけも食料価格の急騰であった。
既に、経済的な基盤の弱い一部のアジアや中東、中南米地域においても生活費の高騰と食糧不安の悪化により暴動が起きている地域もある。食料価格の高騰は、今後社会不安が高まるリスクがありそうだ。
農業関連分野が重要な投資テーマに浮上
株式投資の観点で見ると、食料危機の足音が迫る状況は、食料や肥料、また農薬等を含め、農業資材に関連したビジネスにとって機会となる。アグリテックと呼ばれる農業技術への投資を通じて、短期・中長期それぞれのトレンドによって生じる食料需給へのプレッシャーを軽減できる可能性もあり、投資家が考慮すべき重要な投資テーマの1つと言えるだろう。
いくつか関連する企業をご紹介しよう。
アーチャーダニエルズ・ミッドランド(ADM)
農産物や原料を世界中で製造・販売している米国の穀物メジャー企業。1902年に設立され、イリノイ州シカゴに本社を置いている。ADMが10月25日に発表した2022年第3四半期(7-9月期)の決算で売上高は前年同期比21%増の246億8300万ドル、純利益は96%増の10億3100万ドルと大幅な増益だった。
パフォーマンス・フード・グループ(PFGC)
冷凍食品、食料品、飲料、牛肉、豚肉、鶏肉、魚介類を食品および食品関連製品の販売・流通を行う企業。2022年7月に終了した前期の業績、売上高は前年同期比57%増の146億ドル、純利益は142%増の7600万ドルだった。
ニュートリエン(NTR)
カリウム肥料メーカーであったポタッシュ・コーポレーション・オブ・サスカチュワンと窒素やリン酸塩肥料を持つアグリウムの2社が2018年に合併して誕生した世界最大の肥料メーカー。ニュートリエンは小売事業も手がけており、米国、カナダ、オーストラリア、南米に、2000ヶ所を超える拠点を有している。
世界のエネルギー、農業、肥料市場は、2022年以降も供給不足が続くと予想されている。2022年5月には、ルイジアナ州に世界最大のクリーンアンモニア施設を建設すると発表した。低コストの天然ガス、高品質の炭素を回収・隔離するインフラを活用し、農業、産業、新興エネルギー市場の拡大する需要に対応するとしている。
ディア(DE)
トラクター等を手がける世界最大の農業用機械メーカー。鍛冶屋のジョン・ディア氏が1837年に鉄製のスキを作り販売したことが始まりで、現在も「ジョン・ディア」のブランドで事業展開している。1999年に、GPSテクノロジー企業を買収して以来、GPSを使った高精度での農機のコントロールを実現している。「完全自動運転型」農機の量産化もスタートさせた。
キャタピラー(CAT)
建設機械及び鉱山機械、産業用ガスタービンエンジン分野を手がける「建設機械の巨人」。第3四半期の利益と売上高はいずれもアナリストの予測を上回り、第4四半期も好調な業績が期待されている。同社の製品に対する需要は旺盛で、値上げも浸透、材料費や輸送コスト等の上昇による影響を相殺したとしている。