世界景気の先行きも、日本経済の見通しもはっきりしない状態が続くなか、投資のチャンスはどこにあるのか。マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏が、智剣・Oskarグループの主席ストラテジストである大川智宏氏と徹底対談。日本株の注目のテーマ、セクターについて、2人の論客が激論を交わしました。

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中長期の日本株展望と注目のセクター

「高齢化」は日本が世界に誇るテーマになる!

広木:ところで、大川さんは中長期の日本株についてはどのように見ていますか? 

大川氏:中長期の展望を考える場合には、材料が大切だと思います。つまり、日本独自の材料が重要。日本が世界に誇れる唯一の先進的な要素は「高齢化」です。

広木:高齢化、確かにそうですね。

智剣・OskarグループCEO兼主席ストラテジスト  大川 智宏 氏

大川氏:ということは、他の国にはマネのできないポテンシャルが、なにかしらあるはずだと考えるべきでしょう。実際に、そう考える日本好きな海外の人たちもいます。

「高齢化」や「エイジング」という言葉からは、消費が減り、医療費が増える…など、よいイメージは浮かびません。でも、それをドライブさせる政策なり、サービスなりが出てきさえすれば、日本は劇的に変わる可能性があると思います。

私は、IRの番組を担当していることもあって、新興企業の経営者にお話をうかがう機会が多いのですが、例えば、東証グロース市場に上場するQDレーザ(6613)という企業では、レーザ網膜投影技術を活用して、緑内障などの眼疾患の早期発見に役立つ携帯型の目の簡易検査装置を開発しています。同社では、視力や視野の機能が十分でないために「見えにくい」人の網膜に、直接映像を投影して見えるようにする、世界初の技術も開発、実用化しています。

広木:それは素晴らしい技術ですね。

大川氏:パーキンソン病専門の介護施設「PDハウス」を展開するサンウェルズ(9229)という企業の経営者にもお会いしたのですが、患者さんからの需要が高く、施設をオープンする前に予約で埋まってしまうそうです。しかも、介護保険の対象になったため、専門的なサービスを一般の介護施設と同等の金額で利用できるようになったと聞きました。こういった技術やサービスは、患者さんやニーズが増える環境がないと生まれないし、そもそも登場すらしないのだそうです。

広木:なるほど。ニーズがなければ、製品やサービスも開発しませんね。

大川氏:高齢化で起こる問題や課題を解決する技術やサービスが登場すれば、日本株はデメリットをメリットに変えることで成長を遂げられるし、株価も上昇すると考えています。

課題解決に動けば需要が喚起される

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

広木:今の日本は課題がありすぎて、社会全体が沈没しかかっている状況だと思います。ITなどの技術の面でも海外に水をあけられているし、コロナへの対応では行政の手際の悪さが明らかになった。インフラもそうです。電力が足りないため、経済産業省が「家族はひとつの部屋に集まって過ごしてください」と節電を呼びかける有様ですよ。精神論で乗り切れとでもいうのでしょうか。

大川氏:精神論を持ち出されてもね…。

広木:電力インフラに関して言うと、東日本大震災後に日本のエネルギーミックスが大きな課題になったにも関わらず、手をつけてこなかったツケが今に回ってきました。

デジタルインフラも、メガバンクが幾度もシステム障害を起こしたり、通信会社が通信障害を起こしています。交通インフラも同じ。首都高なんて、いつ崩れ落ちてもおかしくないと言われているのに、補修が進んでいるかどうかもわからない。とにかく、日本はインフラストラクチャーが全部弱いです。

大川氏:でも、課題がどこにあるか分かっているなら、その解決に向けて歩を進めれば、一気に需要が喚起されるはずです。

広木:ところが動かない。動かないのは、20年間ずっとデフレだったからです。すぐに動かず、待ったほうが物の値段が下がる。「Cash is King」だったので行動停止、思考停止していたのです。
とはいえ、インフレをきっかけに「今、買わなきゃ」「やらなきゃ」と行動し始めるかもしれない。消費したり、投資したりするかもしれない。至る所に課題があるのだから、ダメなところを直すだけでも、ものすごい需要が生まれて、経済が回復する可能性もあるのではないかと思います。

大川氏:変化という観点では、2022年9月1日に日本製鉄(5401)とトヨタ自動車(7203)が、自動車向け鋼材価格の大幅値上げで合意しました。ところが、そのニュースが出るとトヨタ自動車の株価が下がった。株式市場は、値上げ分を価格転嫁できないと見ているからでしょう。

広木:そうなのかもしれませんね…。

大川氏:トヨタ自動車は、部品メーカーや素材メーカーなどの取引先が倒産しないよう、ある程度、値上げ分をのんでいるのでしょう。それは、内需の維持や、部品会社や素材会社など製造業の維持という観点からすると助かることですが、経営としてはあまり褒められたことではありませんよね。

広木:国内の自動車会社については、EV車の問題も心配です。

大川氏:米国のカリフォルニア州では、2035年にガソリン車の販売を全面禁止する規制を発表しました。いずれ、欧米では、ハイブリッド車も含めてガソリン車を販売できなくなります。

では、日本の自動車産業が、ガソリン車に関連する産業をすべて潰してまで、EV車に舵を切ることができるのか。もちろん、舵を切らずに、今のままでやっていく選択肢もあるでしょう。しかし、欧州の投資家は、ESGに絡む話には非常にセンシティブな反応をします。ガソリン車をゼロにできなければ、ESGのスコアが下がり、欧米の投資家の株式ファンドに占めるウエイトが減ることになってしまう。

広木:その可能性はありますね。

大川氏:これは自動車会社に限った問題ではありません。日本の製造業は、横のつながりが強く、「みんなで頑張りましょう」という、極めて日本的な慣行が続いてきた。

ですが、カーボンニュートラルが進み、インフレも進むなかでは、遅かれ早かれ、国内の関係性を続けるのか、投資家の方を向くのか、選択を迫られるでしょう。株価の上昇を考えるのであれば、海外投資家をしっかり呼び込み、維持することが重要になってきます。それができれば、中長期的に見た場合、日本株は需給的には悪くないでしょう。

短期的にはグロース銘柄に注目

広木:他にも注目しているセクターやテーマはありますか?

大川氏:個人的には、最近の「推しテーマ」は東証グロース市場銘柄です。

広木:グロース銘柄ですか? 

大川氏:金利が上がって、円安が進んでいるのにグロース市場が強いです。考えられる要因としては、世界景気が危ないと言われるなかで、世界の景気敏感株が多い大型株よりは、回復途上にあるとされる国内の内需に関連する成長株が多いグロース市場にお金が集まり始めているのではないかと思います。

それに、グロース銘柄はここ2~3年間売られ過ぎました。予想成長率が高い銘柄が多いにも関わらず株価が安すぎる。これはファンダメンタル以前の問題です。そう考えると、需給的にはお金が入りやすくなっていると思います。

広木:なるほど。国内の中小型の成長株は株価水準が安すぎるうえ、世界の景気後退にも巻き込まれにくいということですね。

大川氏:はい。東証グロース市場銘柄は、それなりに値持ちは良さそうな気がしています。ただし、それほど長く続く話ではなく、2023年くらいまでではないかと思っています。

投資は、中長期で考える

リスクを認識したうえで、臆せず投資する

広木:対談の最後に、個人投資家の方にメッセージをお願いできますか?

大川氏:広木さんはご存じだと思いますが、私は基本的に弱気派です。私が「危ないよ」「こういうリスクがあるよ」と警告しても、「それでも投資したい」と思える人は、投資しても後悔しないだろうと思います。その意味では、私は投資家にとっての最後の最後の砦だと考えています。とはいえ、私も株価は上昇傾向にあると思っています。

広木:そこは僕と同意見ですね。

大川氏:長い歴史を振り返れば株価はほぼ右肩上がりで上昇してきています。ただし、その間には危機やショックが起きて、瞬間的には株価が暴落し、大きな損失を被る場面もあったはずです。そのリスクを認識したうえで、自分が納得できる銘柄を選んで投資することを心がける必要がある。それを訴え続けることに、私の存在意義があると考えています。

それと、株価は瞬間的には大きく下がる場面があったとしても、いずれは戻るでしょう。私のような弱気派の意見に耳を傾けつつ、リスクを認識したうえで、でも臆せず投資をしていただきたいと思います。

 

広木:僕は今日、こんな本を持ってきました。

大川:楠木健先生の「絶対悲観主義」ですか。逆説的ですね(笑)。

広木:「悲観主義」は、相場に臨むうえで非常に大切なことだと思います。つまり、最悪を想定して、最善を望めということです。悪いシナリオを十分用意したうえで、でも、大川さんがおっしゃるように、長期的には株は上がることを信じて投資する。

大川:その通りです。

「投資」と「投機」は別物

広木:米国のS&P500は150年間右肩上がりです。その間に、何度も大恐慌や戦争など暴落が起きましたが、2022年の年初に最高値をつけた。これだけの歴史的事実があるなら、株は上昇傾向にあると考えてよいと思います。

大川氏:しかし、日本株についていえば、まだバブル期の高値を超えていません。直近はともかく、ITバブル崩壊以降、長い間レンジ相場が続いていました。この期間に投資を始めた人は、なかなか上がることを考えにくい。そんな呪縛から抜けられない人もいるようです。

広木:「株は怖い」と考えるのも、そのためかもしれませんね。大切なことは、「投機」と「投資」は別物だということです。

 

大川氏:個人投資家の方々には、投機と投資は完全に分けろと声を大にして言いたい。株の初心者には、投機しかイメージしていない人が少なくありません。

ですが、検討してほしいのは投資です。ある程度のタイムスパンで、「このテーマは、いつ頃までに、このくらいの成長を遂げそうだ」というシナリオを描ける銘柄に投資して、持ち続ける。それは、相場の乱高下に耐えるための防衛戦略にもなるでしょう。少なくとも1年くらいのスパンで考えることが重要かなと思っています。

もちろん、需給に注目して、株価の上げ下げを取りに行く投機も悪いとはいいません。でも、そこには「運」という要素が大きく絡んでくる。やるなら、ギャンブル性があることを理解して臨んでいただきたいですね。

広木:私も同感です。今日はお時間をいただき、ありがとうございました。

※本記事は2022年9月6日に対談を実施し、後日編集記事化しました。

※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。

写真:竹井 俊晴