先週は米ドル高値更新後に介入で急落
先週の米ドル/円は、9月21日のFOMC(米連邦公開市場委員会)を受けて米ドル高値を更新、一気に146円に迫るところとなりました。ただ、これに対して9月22日に、24年ぶりの米ドル売り・円買い介入出動となったことから、一転して140円割れ近くまで米ドル急落となる場面もありました(図表1参照)。
このFOMCから介入に至るまでの展開は、ほぼ先週のこのレポート『米ドル/円「FOMC相場」を予想する』で予想した通りだったと言えそうです。ただそうは言っても、日本の通貨当局の対応はあくまで口先のけん制にとどまり、実際の介入はないだろうとの見方も少なくなかったようです。何と言っても24年ぶりの円買い介入の実現であり、そして実際に145円台から140円割れ近くまで約5円もの米ドル急落となったことで、注目が高まったのは当然でしょう。
そこで今回は、介入を受けた今後の展開について解説したいと思います。結論を言うと、大きな米ドル高・円安の流れは変わらないと考えています。具体的には、まだ当面140円を大きく割れることはなく、145円を超えた場合、1998年の米ドル高値147円台を更新する可能性が髙いのではないでしょうか。
そう考える第1の理由は、この米ドル高・円安はFRB(米連邦準備制度理事会)利上げに伴う米金利上昇と連動しており、その米金利上昇は先週のFOMCを受けて、予想通り一段と広がる見通しとなったからです(図表2参照)。それなら、米ドル/円と米金利の関係が変わらない限り、米ドル下落は限られ、さらなる上昇を目指すといった見方になるでしょう。
第2の理由は、日本の通貨当局による為替介入をどう考えるかがポイントになると思います。私は、日本の為替介入は、当面は具体的な水準を想定し積極的に円安の是正、円高への誘導を目指すといったものではなく、あくまで「急過ぎる」動きをけん制する対応にとどまると考えています。
介入政策の実質的責任者である神田財務官は、145円を防衛するといったことではなく、ボラティリティ(変動率)を理由に介入したといった説明をしています。これはどういう意味かというと、おそらく岸田総理なども発言している「さすがに半年程度で30円もの円安というのは行き過ぎだ」ということと意味が近そうです。
これは、5年MA(移動平均線)からのかい離率で見るとわかりやすいでしょう。足元の米ドル/円は5年MAを3割程度も上回っていますが、1990年以降で5年MAからのかい離率が今回のように±2割以上となったのは4回ありました。そのうち3回で介入が実現ししています(図表3参照)。要するに、過去5年の平均値を一定期間で2割以上、上回ったり下回ったりする動きは「急過ぎる動き」としてこれまで基本的に介入してきたわけですから、その意味では今回もこれまでと同様の介入ということになるでしょう。
ただ足元では、上述のように米金利上昇に裏付けられた米ドル高・円安となっています。その意味では、「中長期的にはファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)からかい離した行き過ぎた米ドル高・円安」ながら、短期的には米金利という「ファンダメンタルズに沿った米ドル高・円安」ということになると思います。
以上のように、短期と中長期で異なる「ファンダメンタルズ」と米ドル/円との関係として見ると、日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入も、一気に中長期的に行き過ぎた米ドル高・円安の是正を目指そうとするには無理があると考えられます。
その意味では、当面は140円割れへ米ドル安・円高へ押し下げるような介入ではなく、145円を超えて米ドル高・円安が加速しそうな局面ではカウンターアタック的に介入するといった対応が基本になるのではないでしょうか。
そうであれば、米ドル/円のトレード戦略としては、これまでと基本は余り変わらず、米金利との関係を丁寧にチェックして、それからかい離しない米ドル高・円安を前提にトレードするということになると思います。
その一方で、中長期的には極端に割高な米ドルとなっているため、今回の介入のように何かの拍子で割高の反動から米ドル急落となることもあります。これまでも述べてきたような「割高な米ドル買いの心得」として、1)米ドル購入額の抑制、2)小まめな利益確定、3)ストップロスなど、損失を限定化する対応は引き続き必要になるでしょう。
以上を踏まえ、今週の米ドル/円予想レンジは、140~146円中心で想定したいと思います。