モトリーフール米国本社、2022年8月2日 投稿記事より

主なポイント

・AT&Tは、ワーナー・ブラザースのスピンオフで得た資金を債務削減に充てている
・利払いの減少と支払配当金の縮小により、成長のための投資余地が生まれる
・減配は決して喜ばしいことではないが、新たな配当ははるかに持続可能

負債の減少と支払配当金の縮小により、AT&Tは成長機会に集中可能

通信銘柄はしばしば、配当利回りが高く、信頼できるインカム源とみなされます。大手無線通信事業者が急成長することはあまりなく、配当の大幅な増額も期待できませんが、その配当は、数千万人に上る契約者に支えられています。景気が低迷しても、通信サービスは欠かせません。

大手通信会社が本業以外の分野に手を広げようと考えると、配当が危ぶまれることがあります。AT&Tが、2014年にメディア業界で一連の超大型買収に乗り出した時も、配当がリスクにさらされました。ワイヤレスサービスとエンターテインメントのバンドル提供によって利益を得るという壮大な計画の下、ディレクTVやタイム・ワーナーを傘下に収めた一方で、バランスシートには莫大な負債が積み上がりました。

AT&Tの戦略は、企業価値を崩壊させる失敗であり、新型コロナウイルスのパンデミックも追い風にはなりませんでした。同社は現在、ディレクTVの持分を売却し、タイム・ワーナーを新会社ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとして分離・独立させるなど、メディア資産のほとんどを手放しています。AT&Tの長年の投資家は、こうした一連の取引で損失を被りましたが、同社が通信会社に戻ったことで配当がはるかに安定したという明るい見方もあります。

負債の減少

AT&Tの主力事業であるワイヤレス事業は、多額の現金を消費します。ネットワークの維持や拡張に、莫大な資金を投入し続けなければならないからです。通信会社は、アセットヘビーなビジネスモデルを支えるために多額の負債を抱える傾向にありますが、投資利益率が魅力的であれば問題ありません。また、投資家が低成長の通信企業に引かれる主な理由の1つである、魅力的な配当をカバーするための十分なキャッシュフローも必要です。

ディレクTVとタイム・ワーナーを買収した時、AT&Tは通信ネットワークのような安定性のない事業を買うために、さらに負債を重ねました。AT&Tの負債総額は、失策となったメディア買収を行う前の2014年末時点で820億ドルでした。それが、買収したメディア企業の売却に動き始める前の2020年末時点では、2倍近い1,573億ドルに膨れ上がっていました。

AT&Tが年間に支払う利払い費用は、2014年の36億ドルから、2020年は約80億ドルに増加しました。こうした巨額の債務負担により、同社は金利の変動に非常に敏感になっています。金利上昇局面では、債務の借り換えに伴って、より多くの利息を支払うことになります。この追加利息はキャッシュフローを食いつぶし、配当、臨機応変な自社株買い、投資などに充てる資金が少なくなります。

ディレクTVとタイム・ワーナーの分離が完了した今、AT&Tはその資金をバランスシートの改善に充てています。第2四半期末時点の負債総額は1,360億ドルで、同社は今後も長期的に負債を返済し続けていく計画です。

減配で配当が安全に

AT&Tは、タイム・ワーナーのスピンオフ完了後に配当を引き下げました。この動きは当然ながら一部の投資家の失望を招きましたが、同社の長期的な健全性のためには正しいことでした。

もし過大な配当を続けていたら、同社が競争に打ち勝つために必要な投資や、さらなる債務削減の妨げになったはずです。5Gや光ファイバー網の成長は資本集約的であり、手厚い配当を支払うために過少投資を余儀なくされれば、長期的に同社を弱体化させることになります。

現在のAT&Tの1株当たり年間配当は1.11ドル、配当利回りは5.9%と依然として魅力的です。現在の発行済株式数に基づくと、年間配当総額は約85億ドルとなり、会社側が予想する2022年フリーキャッシュフローの60%に相当します。

2022年のフリーキャッシュフローは、さまざまな理由から減少が予想されています。会社側は以前、2023年のフリーキャッシュフローは200億ドル前後に回復するとの見通しを示していますが、景気が悪化すれば、この予想も引き下げられるかもしれません。もし2023年の目標を達成できた場合、配当がフリーキャッシュフローに占める割合はわずか40%超となる見通しです。

バランスシートが改善されれば、支払利息が問題となるリスクは低下し、支払配当金が少なくなれば、債務削減や投資により多くのキャッシュを充てられるようになり、厳しい状況に対応するための余裕も生まれます。こうしたことにより、AT&Tの配当は最終的により安全なものになるのです。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Timothy Greenは、AT&Tおよびワーナー・ブラザース・ディスカバリーの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はワーナー・ブラザース・ディスカバリーの株式を推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。