「先行指標」と「遅行指標」                                               

13日に発表された米6月CPI(消費者物価指数)が、前年比で9%以上の大幅な伸びとなったことで、金利市場では7月FOMC(米連邦公開市場委員会)で一気に1%の利上げ、さらに9月FOMCでも0.75%の利上げを織り込む動きとなった。

ただ、消費者物価は基本的に景気に対する「遅行指標」と位置付けられる。景気に対して後手に回るのではなく、先手を打つことが理想とされる政策の「遅行指標」に対する反応としては、過剰な見方になっている可能性はないだろうか。

「遅行指数」の物価統計に対して、結果的に金融市場が過剰反応と感じられる代表例は、今回と方向は正反対だったが2003年のケースがわかりやすいだろう。当時は、「グローバル・デフレ」がテーマになっていた。2000~2002年のITバブル崩壊の株暴落などを受けて、日本だけでなく、「世界一の経済大国」の米国もデフレに転落しかねないとの見方が広がっていたのである。

「グローバル・デフレ」懸念が広がった中では、当然のように当時消費者物価の上昇率も低下の一途を辿っていた。こうした中、2003年6月のFOMCは米国のデフレ転落回避の瀬戸際のように位置付けられた。このため、デフレ転落回避のために、0.5%以上の利下げ、それどころか1%の利下げの可能性もありうるとの見方が広がっていた。

ただ蓋を開けてみると、FOMCが出した答えは0.25%の「普通の利下げ」。これを受けて、米10年債利回りは、当時の史上最低の3%割れ目前まで低下していたところから、一転して急反騰に向かった。

では、なぜ金融市場の「1%利下げ予想」は大外れとなったのか。別な言い方をすると、FOMCが市場の「大幅利下げ期待」に対して、「普通の利下げ」という回答になったのはなぜか。1つ手掛かりになりそうなのは、消費者物価という「遅行指標」に対する「先行指標」の動きだったかもしれない。

景気に対する「先行指標」は、株価や消費者信頼感指数、企業の景況感指数などがある。雇用関連では、求人は「先行指標」、一方、失業率は「遅行指標」と位置付けられる。この中で、代表的な「先行指標」であるISM景況指数などは、2003年6月FOMC前に底打ち、反発に向かい始めていたのである。

以上を整理すると、2003年6月FOMC当時、政策当局者達の前には、「遅行指標」はデフレへの転落リスクを示す一方で、「先行指標」はデフレ転落リスクの後退を示すといった具合に、相反する2つのデータがあった可能性があった。こういった中で、結果的にFOMCは「普通の利下げ」を決断した。

さて、長々と述べてきたが、今回7月FOMCを控える中で、「遅行指標」の消費者物価は大幅な上昇となり、インフレ懸念を再燃させるものとなった。一方で、「先行指標」の株価やISM指数などの景況感指数は悪化が続き、景気減速懸念を示している。

こうした中で、「遅行指標」の消費者物価をきっかけとした7月FOMC1%利上げが、本当に実現するのだろうか。仮に実現した場合は、いわゆる「オーバーキル」で、景気減速や株価下落を拡大させる可能性も懸念される。

以上のように見ると、13日の米CPI発表をきっかけとしたFOMC1%利上げ説に伴う米ドル買いは、どこかのタイミングで大きな反動も入ることなどもありえるのではないだろうか。大乱高下のリスクに注意が必要だろう。