<< <<【前編】市場急変の今「日本株のバリュー銘柄」に注目する理由

日本に歴史的なチャンスが訪れている

――ロシアによるウクライナ侵攻など地政学リスクが高まる中で、今後世界的な資金の流れはどのように変わっていくと思いますか。

今後の世界の資金の流れを考える上で重要な出来事の1つは、ウクライナ侵攻によってロシアの海外資産が凍結されたことです。それに伴ってロシアはドル取引ができなくなったため、近々デフォルト(債務不履行)に陥るだろうと言われています。このような状況から、米国の同盟国ではない国々の資産家は今後、米国や欧米に資産を置くことを躊躇うようになるでしょう。

多額の資金を動かすには、それなりの市場規模、流動性、投資先が必要です。なおかつ、民主主義国家で独裁者によって資金が没収されるような国でないことが重要です。そのような条件で考えたとき候補に挙がるのは、シンガポールと日本です。シンガポールと比べて日本の市場の方が圧倒的に大きい。ですので、私は今後、日本にお金が入りやすくなると考えています。

――著書の中で、日本人の個人資産2000兆円のうちわずか11%しか株式投資に回っていないことを指摘されていますが、岸田政権下において「貯蓄から投資へ」の動きは加速すると思いますか。

岸田首相が発信しているメッセージにはポジティブな面とネガティブな面があると思います。「資産所得倍増計画」や「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」を呼びかける一方で、金融所得課税の増税が検討されています。まだ具体的な内容は示されていませんが、参院選後、増税に向けた動きが出てくるのではないでしょうか。金融所得課税は日本の財源の中のごく一部ですので、私はもっと税率を下げて、より多くの人が投資にお金を回すことを促した方が良いと思います。

――日本の景気が良くなるためには、どのような戦略が必要だと思われますか。

日本にとって今、歴史的なチャンスが訪れています。中国が習近平体制になるまで香港はアジアの金融ハブ、貿易ハブでした。しかし、香港において中国政府の影響力が高まる中で、グローバル資本が香港に入りづらくなっています。そこで、新たなアジアの金融ハブとなりうるのはシンガポールと日本です。シンガポールは大英帝国の名残がありますが、今は米国の時代です。その観点で考えると、地理的に米国に近い日本の方が有利です。

もし新たな金融ハブとなれば、少子高齢化や低成長率に長年悩まされている日本に大きな活気がもたらされるでしょう。そうすれば人材、資本、技術、企業も集まります。私は、日本が金融ハブとなるために本気で取り組むべきだと考えています。

――この数ヶ月間で急速に円安が進んでいますが、円相場の状況をどのように見ていますか。

日銀が金融政策を大きく変更しない限り円安が是正されることはないでしょう。ただし、米国でインフレが落ち着き、景気後退がより明確になれば、円高に向かうと思います。

今、米国は円相場に対してドル高を事実上容認する姿勢を示しています。なぜなら、米国にとって自国通貨高はインフレ抑制に働くからです。しかしそれが行き過ぎると景気が悪くなってしまいます。ですので、米国政府の今後の姿勢によって、円安の状況が変わる可能性もあるでしょう。

「日経平均30万円」予測の根拠とは

――以前から「2050年までに日経平均が30万円に到達する」という強気の発言をされていますが、今もその見方に変化はないですか。

私は、インフレが始まるずっと前からそう言い続けてきました。日本でもマイルドなインフレが発生すると考えていたからです。インフレを考慮すると「日経平均が30万円」というのはべらぼうに高い数字ではありません。

先ほど話した通り、現状は日本人の個人資産2000兆円のうちわずか11%しか株式投資に回っていませんが、それが30%に上がり、600兆円が日本株に回ってくるだけでも日経平均はかなり上昇するでしょう。マイルドなインフレが起きることで、日本人がデフレ脳からインフレ脳に変わると株式市場も消費も盛り上がってくると思います。

――投資の入り口として、始めやすい方法を教えていただけますか。

少額で日本株の積み立てを始めるのが良いのではないでしょうか。慣れるまでは、株価指数などの値動きと連動したインデックスにETFや投資信託を利用して投資をすることも1つの方法です。しかし、私自身はそれが理想だとは思っていません。一番良いのは、自分で資産運用方法を学び、成長性のある企業や自分が応援したい企業の株式を投資対象とすることです。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった非課税制度もあります。それぞれ投資対象とできる商品は異なりますが、税制優遇制度を活用すると良いでしょう。

――銘柄を選ぶ上で重視しているポイントは何ですか。

大きく成長していなくても、業績が堅調な企業に注目しています。私はバリュー志向が強く、自己資本が高く、配当を出している銘柄を買う傾向があります。とは言え、グロース株にも優秀な銘柄はたくさんあります。東証マザーズ指数は先行して下がったので、今は割安な状況だと思います。

投資を始める上で「良い時代」に

――下落局面における大事な心構えを教えてください。

リスクが高まっている時は、現物取引でレバレッジをかけないなど手堅い姿勢をとり、ギャンブルしないことが大事です。現金比率を少し高めることも1つの手です。

――ポーカープレーヤーとしての顔もお持ちのエミンさんですが、投資とギャンブルの大きな違いは何でしょうか。

ギャンブルは負けるようにできています。勝率は50%以下。つまり、期待値がマイナスです。一方、投資は長期的に見ると期待値はプラスです。なぜなら、経済そのものが成長していますし、新しい商品やサービス、イノベーションが生まれているからです。つまり、ゼロサムで動いているのではなく、市場総量が大きくなっていると考えています。ですので、危ういリスクを取らない限りリターンが得られる仕組みだと思います。その点が投資とギャンブルの大きな違いではないでしょうか。

――これから投資を始めようと考えている20代、30代の方々へのアドバイスをお願いできますでしょうか。

まずは、小遣い程度の少額から投資を始めてみましょう。そうすると、自分の資産が変動することが目に見え、体感できます。その値動きを見ながら、「なぜ上がったのか」「なぜ下がったのか」を考えて学ぶことが大事です。

投資を始めるにあたって、今は良い時代だと思います。情報の非対称性がなくなり、個人投資家も機関投資家と同レベルの情報を得ることができますし。

私は日本株がようやく長期低迷から目覚めると考えています。チャンスがたくさんあると思いますので、ぜひそれを掴みにいっていただきたいですね。

――ありがとうございました。

写真:竹井俊晴
※本インタビューは2022年6月27日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。