「インフレ対策は経済政策の最優先事項だ」という考えを示すバイデン米大統領。しかしながら、6月に発表された5月分の米国の消費者物価指数(CPI)は市場予想よりも高い8.6%でした。後手に回ったとされる米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げは前代未聞のペースで進められる見込みで、これを織り込む形で米国債利回りは急騰しました。
そして米金利上昇に連れる形で米ドルの上昇が続いていました。米金利上昇だけで足元の為替市場の動きの説明も可能です。しかし、インフレという事象は通貨の価値が下がるということでもあり、これだけコモティティ(商品)価格が高いのに何故米ドル高なのか不思議でもあります。
教科書的には「デフレ下の通貨は高く、高インフレ国の通貨は安い」はずです。では、その要因について考えてみましょう。
米ドルは「基軸通貨」である
為替市場における米ドルの取引高シェアは44%。米ドルに次ぐシェアを持つユーロの16%の倍以上もありました。(2019年4月時点)国際商品の決済通貨として圧倒的存在感を示す米ドルは「オイルダラー」という呼ばれ方もします。
これは産油国が石油輸出代金として受け取る米ドルを指すものですが、原油を買う際には米ドルが必要です。
昨今の原油を始めとしたコモディティ高では、このコモディティを輸入する場合に多額の米ドルを必要とします。その資源価格がコロナ禍からの供給網の乱れ、ロシアへの制裁などで高止まりしたままです。
日本政府は今夏、企業や国民に節電を呼びかけていますが資源のない国は資源を輸入するしかありません。日本の貿易収支は9ヶ月連続で赤字です。貿易赤字というのは輸出した金額より輸入金額が大きいということですから、米ドル高円安要因ですね。欧州も同様です。
欧州の3月のユーロ圏貿易収支は過去最大の赤字となりました。季節調整済みでは176億ユーロの赤字と、1999年の統計開始以降で最大の赤字を記録しています。エネルギーの輸入価格が高騰したことに起因しているとされており、ユーロ安米ドル高の要因となっています。
米国は産油国である
欧州委員会は3月、2030年まで米国から液化天然ガス(LNG)を大幅な追加供給で合意したとの声明を発表しました。2022年に150億立方メートル分のLNGを、その後は2030年まで少なくとも年間500億立方メートル分を米国から輸入します。
米国は産油国でもあるので、ロシア制裁でロシアから輸入できなくなった分を米国が補っていくという主旨のものです。原油やガス輸出が増えれば黒字が増加しますので、米国の4月の貿易赤字幅は前月比19.1%減と大幅な減少となりました。
中国当局によるゼロコロナ政策の影響で中国からの輸入額が減少したことも一因ですが、米国からのエネルギー輸出が増加したことも反映しています。米国の赤字縮小は米ドル高要因となります。
リスク回避相場でのキャッシュ化
「オーバーキル」という言葉が市場に飛び交うようになってきました。急速な利上げが景気を冷やしてしまうリスクを指しますが、5月以降の株の下落は市場がリセッション(景気後退)警戒を強めていることを表していると見られます。
こうして手持ちの資産を売り払い現金化する動きは米ドル需要を強め、米ドル高を誘引します。安心してリスクを取れる地合いが戻るまで米ドル高基調は続くものと考えられます。