前編では、生前にやっておくべき相続税の節税対策の1つとして生前贈与で課税対象となる相続財産を減らす方法をご紹介しました。今回はそれ以外の対策について説明していきます。

相続税を賢く節税する対策6選

死亡保険金の非課税枠を活用する

後編でご紹介したい相続税の節税対策の1つ目は、「死亡保険金の非課税枠の活用」です。相続人が死亡保険金を受け取る場合には、「500万円×法定相続人の数」で求めた金額まで相続税がかかりません。現金や預金で相続すると全額が相続税の課税対象になりますが、生命保険に加入して死亡保険金で受け取るようにすれば、非課税枠を使えて相続税の節税になります。

また、死亡保険金は遺産分割協議の対象外であるため、相続開始後に受取人がすぐに保険金の請求手続きを進められる点も、生命保険を活用するメリットの1つです。遺産分割協議が終わるまで待つ必要がなく、受取人がすぐに保険金の支給手続きを開始できます。

養子縁組によって法定相続人を増やす

2つ目は、「養子縁組の活用」です。まず、遺産を相続する場合でも、遺産額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。養子縁組をすると、法定相続人の数が増える場合があります。法定相続人の数が増えて基礎控除額が増えれば、相続税がかからずに済む遺産額が増え、節税になります。ただし、養子縁組を行った場合に法定相続人の数に含められる養子の人数には上限があります。

法定相続人の数に含められる養子の人数
・実子がいる場合:1人まで
・実子がいない場合:2人まで

なお、養子縁組をすると相続関係が変わり、元々相続人だった人の遺産の取り分が減る場合があります。遺産の取り分が減ることで不満を抱いて相続トラブルになる場合があります。そのため、相続税の節税対策として養子縁組をする場合は、相続トラブルにならないかどうかに注意が必要です。

時価より相続税評価額が低い不動産を購入する

3つ目は、「不動産購入」です。一般的に不動産は時価(市場で売買するときの価格)よりも相続税評価額(相続税の計算で使う価格)のほうが低いため、不動産を購入して相続すれば、現金で相続するより相続税を節税できます。不動産は遺産分割が難しく相続トラブルの原因になる場合もあるため注意が必要ですが、相続税の節税対策の1つとして土地や家の購入を検討しても良いでしょう。

また、賃貸アパートが建っている土地の相続税評価額は、評価額を計算するときに他人に賃貸している点が考慮されて、自宅などよりも相続税評価額が低くなります。そのため更地で相続するよりも賃貸アパートを建ててから相続したほうが相続税の計算で使う評価額が低くなるため、税金の計算で有利です。もちろん、賃貸物件の経営がうまくいかず損失が出るリスクはありますが、逆に経営がうまくいけば賃料収入を得られて、相続した後に相続人が賃料収入を得ることができるでしょう。

小規模宅地等の特例を活用する

4つ目は、「小規模宅地等の特例の活用」です。小規模宅地等の特例とは、居住用や事業用の土地を相続する際に一定の要件を満たすと使える制度です。この特例を使えると土地の相続税評価額を最大80%減額してから相続税を計算できます。

生前に対策をとって特例の要件を満たすようにしておけば、相続税を大幅に節税できる場合があるので、居住用や事業用の土地を相続する場合は特例制度の活用を検討すると良いでしょう。

配偶者居住権を設定する

5つ目は、「配偶者居住権の設定」です。配偶者居住権とは、亡くなった人が所有していた建物に配偶者が住み続ける権利のことで、自宅を相続する際に所有権と配偶者居住権を分けて相続することができます。

配偶者居住権価格の算出方法は細かく決められています。例えば、3000万円の自宅の権利を所有権2000万円・配偶者居住権1000万円に分けて、配偶者が配偶者居住権1000万円を、子が所有権2000万円を相続する場合を考えてみましょう。

一般的に、配偶者が相続で取得した財産は、配偶者が亡くなったときに子が相続することになり、このときに相続税がかかります。しかし、配偶者居住権は配偶者に認められた権利であり、配偶者が亡くなると消滅するため、相続の対象とならず相続税はかかりません。

つまり、配偶者から子への相続の際、配偶者居住権1000万円は消滅するため相続税はかからず、子が自宅の所有権3000万円を得ることができて節税になるということです。配偶者が1000万円分の財産を持っていれば、通常は子に相続するときに相続税がかかりますが、配偶者居住権であれば相続税がかからずに済みます。

墓地や墓石、仏壇を生前に購入する

6つ目は、「墓地や墓石、仏壇の購入」です。亡くなった人が死亡時点で所有していた財産は基本的に相続税の対象になりますが、墓地や墓石、仏壇は相続税の課税対象外です。生前に墓地などを購入して相続すれば相続税がかからずに済み、現金や預金で相続して相続税が課される場合よりも相続税を節税できます。

一方で、相続した現金や預金を使って相続開始後に墓地などを購入しても、購入費用に充てた現金や預金には相続税がかかってしまい、非課税にはなりません。そのため、相続開始後に墓地や墓石を購入することになる場合は、相続税の節税対策として生前に購入しておくほうが良いでしょう。

生前にできる相続税の節税対策には、今回紹介したようにさまざまな方法があります。事前に備えれば相続税の節税や相続手続負担の軽減につながるので、生前にできる限りの対策をとることが大切です。

監修:税理士 牛腸真司