マネクリにてご執筆いただいておりましたオフィス・リベルタス 創業者 取締役、大江 英樹 氏が2024年1月1日にご逝去されました。心より哀悼の意を表し、ご冥福をお祈り申し上げます。

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投資家の仕事は「待つこと」

投資は目先の値動きには一喜一憂せず、長期の構えでいることが大事だということはよく言われる。それは全くその通りなのだが、投資初心者の人にとっては、理屈ではわかっていても実際に自分が初めて下落局面に直面すると心穏やかではいられないというのが正直なところだろう。

特に2022年に入ってから市場は揺れ動いている。2021年後半は日米共に順調であったことで、投資を始めた人が多いと思うが、2022年に入ってからの下落、さらには20年ぶりの円安というメディアの煽りも加わって市場の先行きを不安に思う人は多いだろうと思う。

しかしながら、下がる局面や上がらずに低迷している時期に慌てる必要はない。なぜなら投資家の仕事は「待つこと」だからだ。そもそも株は買ってもすぐに上がらないのが普通だ。もちろん買ってすぐ上がることも無いことはない。例えばその株の人気がピークに近づいている時は連日高値を更新するという動きになるので、買った翌日からすぐ上がるということも起こり得る。しかしながらそういう時は往々にして高値圏になっていることが多いため、実は非常に危険なのだ。

ウォーレン・バフェットの師匠ベンジャミン・グレアムが語る「投資で本当に大切な3つのこと」

1930から50年代に活躍したベンジャミン・グレアムという人がいる。彼はバリュー投資の父と言われ、かのウォーレン・バフェットの師匠と言っても良い存在だ。そのグレアム氏が自分の著書の中で「投資で本当に大切なこと」は次の3つだということを言っている。

【1】企業の価値は計測することができる。

【2】その価値に比べて株価が安い時に買っておき、その乖離が埋まることによって儲ける

【3】そのために時間を味方につける

という3つである。

この中で特に重要なことは【2】、投資するのはその企業の実態に比べて株価が割安な時に買うべきであるということだ。株価は常に企業価値とイコールというわけではない。株価というものは人々の感情やそれに基づく行動が引き起こす需給関係に大きく影響を受けるからだ。

したがって、株価はしばしば実体よりも高くなることもあれば逆に過小評価されていることもある。だからこそ、まず【1】でしっかり企業価値を把握し、それに対して株価が割安な時に買って上がるのを待つというのが最も合理的な投資のやり方なのである。

ところが、いくら株価が割安になっている時に買ったとしてもその企業が多くの人に評価され、実体価値に見合う株価になってくるまでの間には時間のかかることの方が多い。そもそもいつ上がるかは誰にもわからないが、成長性や利益の実態がしっかりしている企業であれば、いずれその株価は正当に評価される時が必ずやって来る。それまで「待つ」のが投資家の大事な仕事なのだ。それが、【3】時間を味方に付けるということの意味なのである。

さらにもうひとつ大事なことは「市場に居続けること」

さらに投資家にとってもうひとつの大事なことは、「市場に居続けること」である。米国の著名な投資家であるチャールズ・エリスの著書「敗者のゲーム」に書いてあることがとても興味深い。米国の主要株価指数であるS&P500の値動きを調べて見ると1982年から2000年の18年間における最も上がった上位30日を逃すだけでリターンは年収益率11.5%から5.5%へと半減してしまうという。

逆に言えば、その30日間だけ市場に居れば(投資をしていれば)ごく短期間に莫大な利益を得ることができることになる。でもそれがいつなのかは事前には絶対にわからない。したがって、わからないことを予想して売ったり買ったりするのではなく、ずっと持ち続けること(市場に居続ける=Stay in the market)が重要なのである。

現実に上場以来、株価が何百倍にもなっている米アマゾンや日本のレーザーテックといった銘柄も過去の株価チャートを見ればわかるが、上場後10年とか20年はほとんど大きくは上がっていない。でも成長性の高い企業はどこかの時点で大きく上昇することになる。市場に居続けないとその機会も逃してしまうことになる。

下落した時も同様で、事前にその下落を予想することは難しい。実際に筆者は過去に市場の大幅な下落は何度も経験している。最初は1973年のオイルショック、87年のブラックマンデー、90年のバブル崩壊、そして近年ではリーマンショックといった比較的短期間に株価が大きく下落することはしばしばあった。でもそんな時、プロの運用者や機関投資家ではない普通の個人投資家が考えるべきことはそれほど難しいことではない。

答えはたったひとつ、「慌てて売ってはいけない」、ということだ。過去に起こった○○ショックと言われるものも長いスパンで振り返ってみれば、市場のノイズに過ぎないということがよくわかる。そしてこれは個別株式への投資だけではなく、投資信託でも同じことだ。

人生100年時代といわれるなかで、投資家にとって大事な仕事は「待つこと」と「市場に居続けること」であることは忘れない方が良いだろう。