アクティビストが企業に対して経営改革を迫る厳しい姿勢は度々メディア等で注目を集めてきました。最近ではアクティビストの活動は増加傾向にあるものの、過激な要求は減り、控えめな姿勢が多く見られるようになってきています。今回の記事では、アクティビストの活動の変化について解説したいと思います。

アクティビストの姿勢は対立からエンゲージメント重視に

アクティビストは、企業の株式を取得し、その企業に改革を要求することで知られています。株価を上げるために、経営者に退陣を迫ったり、子会社の売却を提案したりするケースもあります。

アクティビストは利益を得るため、企業に対して投資するだけでなく、激しい言動を発することもあり、株主同士で言い争うケースも見られました。しかし、最近は対立ではなく、エンゲージメント(対話)が重視されるようになっています。そして、機関投資家のための行動原則であるスチュワードシップ・コード(2010年に英国で制定された金融機関を中心とした機関投資家のあるべき姿を定めたガイダンス)に基づいて、経営者とのエンゲージメントを重視することが基本となりつつあります。

このような背景もあり、ここ数年、派手なアクティビストの主張は影を潜めつつあります。新しいアクティビストの多くが従来の過激なアクティビストほど積極的なアプローチをとらないことも変化の一因でしょう。従来のアクティビストも年齢を重ねるにつれて丸くなってきている人が多いのかもしれません。

ビル・アックマン氏が空売り戦略を引退

例えば、米パーシング・スクエア・ホールディングスを率いるビル・アックマン氏が、割安と判断した企業を空売りする戦略からの引退を表明しました。

アックマン氏は、投資した事実を公にすることでメディアの注目を集め、経営陣の経営改革に一層の圧力をかける「劇場型」の手法で知られています。同氏は株式を借りて売却する「空売り」も行っており、栄養補助食品会社ハーバーライフの空売りで、同じく著名なアクティビストであるダニエル・ローブ氏と争うなど、注目を浴びてきました。

アックマン氏は、ハーバーライフがマルチ商法を行っていると主張し、空売りを仕掛けました。この空売りが始まった2012年、ハーバーライフの株価は30ドル台前半でした。その後、米国の著名投資家でアイカーン・エンタープライズの創業者であるカール・アイカーン氏がハーバーライフに肩入れし、アックマン氏とアイカーン氏の対立が浮き彫りになったのです。このような対立を経て、2019年にハーバーライフの株価は60ドルに到達。アックマン氏は損切りしたと見られています。

2022年3月に発表したパーシング・スクエアの年次報告書で、「過去5年間の企業との交流はすべて友好的、建設的、生産的だった」と説明し、空売り戦略から「永久に引退」したことを明らかにしました。今後は、友好的な姿勢で投資先企業の価値向上をはかると報じられています。

エリオット、PE投資を強化する動き

2022年4月、ポール・シンガー氏のエリオット・インベストメント・マネジメント(以下、エリオット)は、レバレッジド・バイアウト(LBO)の取り組みを強化し、20億ドル(約2,550億円)強の資金調達を目指して協議を進めているとブルームバーグに報じられました。

同社は、レバレッジド・バイアウト(LBO)の取り組みを強化することによって、企業にアクティビストとして圧力をかけるだけでなく、企業を非上場化することもできます。同社は、アクティビスト活動だけでなく、PE(プライベートエクイティ)投資も積極化していくものと見られます。

アクティビスト活動が制限されると、どうなる?

米証券取引委員会(SEC)は、アクティビストの活動を制限するために規則を改定しようとしています。株式の「共同保有者」の定義が見直され、アクティビストの主張を他の株主に訴えるのが困難になることが予想されます。これに対し、エリオットはSECに提出した書類で「アクティビストを排除しようとしている」と主張しています。

この問題は重要性を増すのではないかと思います。企業の株式を買い増し、その企業に自社株買いや資産売却などの変革を迫るアクティビストは、米国企業の大きな牽引役として貢献していると私は考えているからです。

アクティビスト活動を制限すれば、他の株主の利益が損なわれる可能性も考えられます。アクティビスト活動の変化と規制によって、企業のガバナンス(企業統治)が今後、どう変化していくかに注目していきたいと思います。