2021年はTOB(株式公開買付)が大幅に増え、アクティビストの動きも目立ちました。2022年も円安によって日本株の割安さが強まっているので、さらにアクティビストの動きが活発化するのではないかと思います。今回の記事では、最近のTOBの傾向や、円安による今後の可能性について解説します。

2022年もTOB件数は増えるか

【図表】TOB件数(2022年の件数は5月22日時点)
出所:ストライクの情報をもとに筆者作成

M&A仲介企業のストライクの調査によると、2021年のTOBは70件と、2009年以来の高水準となりました。2018年以降のTOB件数は、図表の通りです。

政策保有株の持ち合い解消が進み、機関投資家が買収防衛策に反対するケースも増えています。TOBは賛同を得やすくなっているため、私は今後もTOBが増える可能性が高いのではないかと考えています。

2022年も5月22日時点のTOBは25件ですが、今後、2021年並の水準に迫るかどうかに注目したいところです。

 

村上系ファンドが西松建設に迫った自社株公開買付

2021年、村上世彰氏が実質的に率いる投資ファンドが、西松建設(1820)や大豊建設(1822)、東急建設(1720)など複数の準大手・中堅ゼネコンの株式を取得していることが注目を集めました。アクティビストである村上氏のグループは西松建設に対し、大胆な株主還元と成長事業への投資を迫りました。その結果、西松建設は村上グループの要請を受け入れ、大規模な配当の実施に同意。また、同年9月と10月には総額543億9000万円の自己株の株式公開買付を実施しました。

2021年10月21日、西松建設は9月に決定していた自社株の株式公開買付が完了したと発表。この自社株の株式公開買付は村上系ファンドとの合意で行われ、村上系ファンドは利益を手にしたのです。

ゼネコンはPBR(株価純資産倍率)が解散価値とされる1倍を割り込む企業が多く、自己資本比率が高すぎる企業も少なくありません。そうした点がアクティビストに狙われる要因の1つだと考えられます。

建設業へのTOBが増加

建設業界ではTOBが増えています。前田建設工業などを傘下に持つインフロニア・ホールディングスは、東洋建設に対してTOBを実施しましたが不成立に終わりました。応募株総数が買い付け予定数の下限に満たなかったためです。

5月20日付のロイターの記事によると「インフロニアHDは3月23日から5月19日まで1株770円で実施していたが、期間中に東洋建が任天堂創業家の資産運用会社から条件付きで1株1,000円の買収提案を受けていた。東洋建は4月28日、株主に対し、TOBへの応募推奨の意見を撤回していた。任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」は(5月)18日、東洋建に1株1,000円でのTOBを正式提案したと発表した。東洋建の取締役会の賛同表明など条件が全て満たされれば、6月下旬をめどにTOBを開始する予定」とのことです。

建設業界では三井住友建設(1821)や東亜建設工業(1885)などの株式もアクティビストが保有しています。いずれもPBRが1倍を割れており、今後、アクティビストからの株主提案が出されるかどうかが気になるところです。

増配を発表する企業が増加

アクティビストから敵対的TOBを受けないためには、株主還元策を充実させ、PBR1倍割れなどの割安な水準から株価を引き上げることが対策として考えられます。

英国の投資ファンドから株主提案を受けている三ツ星ベルト(5192)は、2023年3月期の配当を1株当たり220円にし、2021年3月期に比べて77円増とすると発表。年間配当額は3年で4倍になっています。また、2024年までの2年間、配当性向100%を目指すと発表しています。

そして、香港の投資ファンドから株主提案を受けていた東洋製罐グループホールディングス(5901)も、2022年3月期の予想配当を修正し、前期比35円増の1株あたり78円にすると発表しました。同社は2期連続の増配となります。

上記のように、アクティビストからの敵対的TOB対策として、増配や自社株買いなどの株主還元策を積極的に行う企業が見られます。

円安によって割安となる日本株

1ドル=130円を突破するなど急激に円安が進み、海外投資家から見た日本株の割安感は強まっています。4月末時点の日経平均株価の昨年来騰落率は-6.75%ですが、ドル建ての日経平均株価は18%近くも下落しています。

ドル建ての日経平均株価は、日経平均株価を当日の為替レートで割って算出します。円ベースの日経平均株価は日本経済新聞社が午後3時現在で発表していますが、ドル建ての日経平均株価は若干異なります。為替レートは常に変動しているため、どの為替レートを使うかによって数値が若干異なるからです。

東京証券取引所が4月28日に発表した4月第3週(4月18~22日)の投資部門別売買動向によると、海外投資家は現物株を2,380億円買い越し、2020年11~12月以来、約1年4カ月ぶりに4週連続の買い越しとなりました。

円安が進むとドル建ての日経平均株価は下落するので、割安さから海外投資家が日本株を買いやすい環境になるでしょう。円安によってアクティビストなどの海外投資家を呼び込み、日本の経営者が増配や自社株買いの実施など株価向上への意識を高めれば、日本株にとってはプラスの材料になるように思います。