ステーブルコイン急落の本質的要因とは何か

先週は、5月12日までNYダウ平均が6営業日で2,300ドル超の下落となり、米10年債利回りも一時2.81%台まで低下する場面がありました。

その要因として、市場からは「発表された4月の米消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)の結果が「いまだインフレがピークに達したとの確信には至らない』との見方につながり、米連邦準備制度理事会(FRB)が一層タカ派色を強めるとの懸念が強まったから」という声が聞かれていました。

そのため米株価が大幅に下落し、リスク回避で米国債が買われたという理屈なのですが、果たして本当にそうだったのでしょうか。

おそらく、より大きかったのはステーブルコインである「テラUSD」の価格が5月9日あたりから急落しはじめ、13日に一時10セントを下回るところまで暴落したこと、また、その余波を受けて同じステーブルコインである「テザー」の価格が12日に一時的にも米ドルとの連動から逸脱して1テザー=0.962ドルまで下落したことにあったと思われます。

本質的には、テラUSDの価値を担保する仕組み自体に問題があるわけですが、このようなことがあると市場では「流動性バブル崩壊か」などという無用な思惑が一時的にも膨らみやすく、全体が一時的にもリスク回避姿勢を一気に強めたことで米・日株価や米10年債利回り、米ドル/円、クロス円などが一時的な下げに見舞われたと見るのが“正解”でしょう。

その実、即座にテザー側から「問題なく1対1の比率で米ドルに交換可能」との言明がなされ、ほどなくテザーが米ドルとのペッグを回復するに至ったことで、週末にかけては全体にアンワインドの動きが見られることとなりました。
ちなみに、週末5月13日に発表された4月の米輸入物価指数や米輸出物価指数は、前回実績と事前の市場予想をともに下回る結果でした。ここで、改めて4月の米CPIや米PPIの結果を振り返って見ても、やはり米国のインフレはすでにピークアウトしはじめている可能性があると見ていいものと思われます。

実際、元米財務長官のサマーズ氏もTVインタビューに臨んで「インフレは3月に年率8.5%となったことで天井を打った可能性もある」と述べていました。

また、パウエルFRB議長にしても、その可能性を念頭に置きながら、市場に拡がる「オーバーキル」への懸念を払拭していくようなかじ取りを着実に行っていくはずであると見ています。

重要イベントが多い今週、米ドル/円やユーロ/米ドルの動きに注目

米ドル/円は、前述の“ステーブルコイン騒動”で5月12日に一時127円台半ばまで一時的に値を下げる動きとなりましたが、週末にかけては129円台を回復し、目先は重要な節目の1つと目される129.50円処を再び上抜けるかどうかが焦点となっています。

同水準は、5月12日の急落の起点となったところであり、同水準を再び明確に上抜ける動きとなれば、改めて130円台をうかがう動きになっていくものと思われます。

なお、今週は4月の米小売売上高の発表やパウエルFRB議長の講演などといった重要日程が控えていますが、それとともに米地区連銀総裁の講演も相次ぎます。

その多くがタカ派色の強いものとなる可能性が高いと見られ、その都度、市場が敏感に反応する可能性がある点には注意したいところです。純粋に米金利上昇期待で米ドル買いとなるのか、それともオーバーキル懸念で米ドル売りとなるのか、その点を見定めることが重要となるでしょう。

また、今週は欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁による講演やECB議事録の公開なども控えており、それらを受けてユーロ/米ドルが強含みとなる可能性もあります。

ここにきて多くのECB理事らが6月か7月の利上げに言及し始めており、市場はラガルド総裁の出方に関心を強めています。むろん、焦点はユーロ/米ドルの1.0340ドル処に認められるサポートが機能し続けるかどうかとなります。