筆者は、長年にわたり仕事、子育て、介護(遠距離介護4年・在宅介護8年)の「トリプルワーク」を経験しました。その中で、世に言われる「完璧な介護」という理想論から「自滅せず親も家族も幸せになる介護」へと発想の視点を変え、現代人のための介護思考法を見出しました。これから4回にわたってその内容をお届けする予定です。まず第1回目のテーマは、介護保険の基礎知識です。

多くの方は、ご家族が高齢になって初めて介護に関心を持ち始めます。介護の不安はどうしても先送りしたいものです。ただ、75歳を過ぎると、介護の確率は一気に約30%(概ね10人中3人)にあがります。今回は、介護に直面した際、強い味方となってくれる介護保険制度の基本を確認していきましょう。

介護保険制度とは

日本には、病気・ケガ、老後の資金不足、失業などの国民生活におけるリスクに備えるため、社会保険制度があります。年金・医療・雇用・労災に続き、高齢者など介護を必要とする方を社会全体で支える目的で2000年に創設された社会保険制度が「介護保険制度」です。

介護保険は全国の市区町村が保険者となり、40歳になると加入が義務付けられ、保険料は基本的に健康保険と一緒に徴収、もしくは年金天引きで納めます。介護と聞くと、高齢者のものと思われるかもしれませんが、40~64歳は、自身も老化に起因する疾病により介護が必要となる可能性が高くなります。また、親が高齢となり介護が必要な状態になる可能性が高まるとも言えます。保険料を払い始める40歳になると、介護はより自分に関係することと感じられるでしょう。

介護保険を使って介護サービスを利用した場合、利用者負担は、かかった費用の1割(一定以上の所得者の場合は2割または3割)です。例えば1万円分の介護サービスを利用したら、支払う費用は、1,000円(2割の場合は2,000円)となります。介護サービスも使い放題というわけではなく、利用できる程度(支給限度額)が定められています。上限は要介護度によって異なり、上限を超えた場合は全額自己負担となります。

介護保険を使いたい場合、誰が利用できる?

介護保険を利用するためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。

(1)介護保険の被保険者である。
・65歳以上(第1号被保険者):原因問わず、介護が必要であると認定されれば、介護保険を利用することができます。
・40歳~64歳(第2号被保険者):特定疾病(老化に起因する疾病)により介護が必要になったと認められた場合のみ、介護保険を利用することができます。

(2)要介護認定調査を受け、「要支援1・2」、「要介護1~5」と認定されている。
要介護認定調査を受けるタイミングに決まりはありません。介護保険サービスを利用したいと感じたときに申請すれば良いですが、例としてきっかけとなるケースをご紹介します。
・入院中で退院後に介護が必要になりそうなとき
・足腰等の衰えを感じたとき
・自分自身で身の回りのことを行う能力が低下したとき
・認知症の進行により自力で生活しにくくなったとき
・老人ホームなどの施設入所を検討したとき

介護保険の申請手続きと利用の流れ

申請から介護保険サービスの利用までは一般的に次のような流れです。

【図表】相談窓口と介護保険の申請から適用までの流れ
出所:厚生労働省のウェブサイト「サービス利用までの流れ」をもとに筆者作成

要介護認定の申請(必要書類の用意・申請)

住民票のある市区町村窓口で要介護認定(要支援認定を含む)の申請をします。窓口の名称は「高齢者支援課」や「介護保険課」など、自治体によって異なります。申請書、その他の必要書類を揃えて窓口に提出します。本人以外にも、家族や地域包括支援センターなどの代理申請も可能です。

認定調査

市区町村等の調査員が自宅や施設、病院等を訪問し、心身の状態を確認するための認定調査を実施します。主治医意見書の作成は市区町村から主治医に依頼され、主治医がいない場合は、市区町村の指定医の診察が必要となります。

認定調査の時、“本人(親)が必要以上に張り切り、通常よりも動作や会話ができる”というのはよくある話です。親の状態を正しく理解してもらうために、認定調査員が必要とする情報を先取りして、認定調査の前に提供しておくのも一案です。私は親の介護をしていたとき、知らせたい項目をまとめたメモを作成し、認定調査や診察に同席して、認定調査員、主治医にそのメモを手渡しました。

私が作成したメモの項目をご紹介します。
(1)氏名、生年月日、年齢、病歴等
(2)介護に至った状況や現状
例:大腿骨頸部骨折が原因で車いす利用となった。通院の付き添いに困っている。
(3)本人の身体状況と介護状況
例:寝返りは家族がサポートしている。
薬は家族が管理して、飲ませている。
買い物は家族が行っている。

その後、調査結果および主治医意見書の一部の項目はコンピューターに入力され、全国一律の方法で要介護度の判定が行なわれます(一次判定)。一次判定の結果と主治医意見書に基づき、介護認定審査会による判定が行なわれます。(二次判定)。

認定結果の通知

介護認定審査会の判定結果にもとづき要介護認定が行われ、申請者に結果が届きます。申請から認定の通知までは原則30日以内が目安です。認定結果は「要支援1・2」、「要介護1~5」の7段階および非該当に分かれています。

ケアプランの作成

介護サービスを利用する場合は、ケアプランの作成が必要となります。「要支援1・2」のケアプラン(介護予防サービス計画書)は地域包括支援センターに相談し、「要介護1~5」のケアプラン(介護サービス計画書)は介護支援専門員(ケアマネジャー)のいる、知事の指定を受けた居宅介護支援事業者へ依頼します。介護支援専門員は、どのサービスをどう利用するか、本人や家族の希望、心身の状態を考慮しながら、ケアプランを作成します。

介護保険サービス利用の開始

介護サービス計画にもとづいた、さまざまなサービス(※)が利用できます。

介護保険は、手続き、審査や更新など、最初はハードルが高いと感じられるかもしれませんが、これらの情報を知っているか否かで負担が大きく変わります。家族だけで介護することが難しい昨今、ご本人や家族にとって、とても助けになる制度です。詳しくはお住いの市区町村の高齢者・介護保険担当窓口、地域包括支援センターに相談してみてください。

※ご参考:介護保険で利用できるサービスの種類と内容(厚生労働省)
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/