成年年齢を18歳に引き下げる改正民法が2022(令和4)年4月1日に施行され、18歳と19歳の若者が一足飛びに成人になりました。その結果、これまでは親の許可がなければ手に入らなかったスマートフォンは単独で購入できるようになり、クレジットカードの申込みの際にも親の承諾は不要になりました。自分ひとりの判断でアパートを借りることも可能です。18歳、19歳の皆さんにとっては自由に行動できる新しい世界が開けた気分でしょう。この自由を心ゆくまで満喫していただきたいと思います。

一方、成人になったばかりの年代の消費者トラブルが急増している現実があります。十分な社会経験がなく無防備に契約しがちな若者が、悪質な事業者のターゲットになっていることがうかがわれます。未成年のときには行使できた契約の取消し権は成人になると同時に失われ、いったん契約をしたら、もはや一方的にキャンセルすることはできません。18歳、19歳の若者の消費者トラブルが増加するのではないかと懸念されています。

成人直後の消費者トラブルが多い商品・サービスと契約金額の状況

以下は成年年齢引き下げ施行前に調査したデータです。成人前(18・19歳)と成人後(20~24歳)でトラブルになった上位の商品・サービスをまとめています(図表1)。

【図表1】「18・19 歳」「20~24 歳」の商品・役務別相談件数
出所:令和3年4月8日(独)国民生活センター公表 「狙われる!?18 歳・19 歳「金(かね)」と「美(び)」の消費者トラブルに気をつけて!」より筆者作成

緑色は、「18・19歳」の相談件数(平均値)と比べて「20~24歳」の相談件数(平均値)が2倍以上の商品・サービスです。そして、オレンジ色は、「18・19歳」の相談件数(平均値)ではみられないものの、「20~24歳」の相談件数(平均値)でみられる商品・サービスです。

成人後にトラブルが増える商品・サービスは、内職・副業その他(オンラインカジノ、アフィリエイトサービスなど)、エステティックサービス(脱毛サービス、痩身サービス、美顔サービス)、医療サービス(医療脱毛、包茎手術などの美容医療)などが挙げられます。お金を儲けたいとか、美しくなりたいなどの動機で契約し、トラブルに遭っている様子がわかります。

以下は、「18・19歳」と「20~24歳」の平均契約金額の分布を示しています(図表2)。

【図表2】「18・19 歳」「20~24 歳」の契約購入金額(2020年度)
出所:令和3年4月8日(独)国民生活センター公表 「狙われる!?18 歳・19 歳「金(かね)」と「美(び)」の消費者トラブルに気をつけて!」より

「18・19歳」の契約金額の平均は 15.8 万円、「20~24歳」は 41.7 万 円で、金額が跳ね上がっています。また、「18・19歳」では、大半(63.2%)の契約が5万円未満ですが、「20~24歳」では10万円以上の契約が半数を超え(51.2%)、成人になると高額な契約が急増することが分かります。

若者に多いトラブル事例

前回に引き続いて若者に多い消費者トラブル事例をご紹介し、トラブルにあわないためのポイントをご説明します。

【事例Aさん】海外の友人を作りたくて…

英語の勉強を兼ねて海外のマッチングアプリに登録し、イタリアに住む英国人の大学講師という男性とメールのやりとりをするようになった。彼から、「1ヶ月の休暇が取れたので船と飛行機を乗り継いでオーストラリア経由で日本に行く。出発前に荷物の一部を君の家に送らせてほしい。日本に着いたらすぐに取りに行くので迷惑はかけない」と頼まれ、好意を持っていたので承諾した。3日後にオーストラリアの運送業者から、荷物に多額の現金が入っていたため通関の際に手数料3,000ドルが必要であるとして支払いを求められた。どうしたら良いか。

トラブルにあわないために

(1)マッチングアプリやSNS上で知り合った人については、実在するかどうかも含めて確かな個人情報は何もありません。安易に信用するのは危険です。荷物を預かるだけなら、と善意で承諾したことで思わぬトラブルに巻き込まれるおそれもあります。相手に自分の個人情報を提供することも慎重にしましょう。

(2)事例の通関手数料の他にも配送料の名目で請求するケースや、相手が紹介する投資サイトに投資を勧められるケースなどさまざまな手口があります。どのような理由であれ、支出を求められたらその時点できっぱり断り、以後接触を断つことが大切です。お金を支払ってしまった場合、取り戻すことはほぼ不可能です。

【事例Bさん】テレビタレントになれると思ったが

テレビタレントになりたいと思い、SNS上でA社の「テレビ番組に出演可能!」とのオーディション募集広告を見てオーディションを受けた。結果を伝えるので来て欲しいと連絡があり、出向いたところ補欠合格と告げられた。素質はあるがタレントとして仕事をするにはレッスンが必要として、附属のスクールへの入校を勧められた。

入学金は30万円、月々のレッスン料3万円と聞いて、学生なのでお金がないと断ったが、クレジットカードでキャッシングすれば良い、返済は出演料で賄えると言われ、言われたとおりに30万円を支払った。レッスンに通い始めたが内容が貧弱で失望した。テレビ番組への出演の話は全く無いため、1ヶ月後に辞めると伝えたところ、入学金と1ヶ月分のレッスン料は、契約書に記載されているとおり、返金できないと言われた。

トラブルにあわないために

オーディションに合格してテレビタレントへの道が開けたと喜ぶ気持ちにつけ込んで高額なレッスンを勧誘する商法は「オーディション商法」とよばれています。

(1)オーディションに応募する際には、主催業者の情報や応募の際の注意事項(参加費用や合格後のレッスンの有無等)をしっかり確認しましょう。

(2)合格後に突然、芸能スクールに通う必要があるとか、事務所の所属費用がかかるなどと言われた場合は十分注意してください。

(3)スクールの契約を勧められたら、申し込む前に契約書の解約に関する条項を良く読みましょう。口頭で説明されたことと書いてあることが違う場合は、契約を見合わせることをお勧めします。

【事例Cさん】「簡単な作業で誰でも1日数万円稼げる」と言われて

スマホで検索した副業のランキングサイトで1位のサイト上でSNSの友達登録をしたところ、メッセージが来た。「いつでもどこでもスマホで最短5分の簡単な作業ですぐに2万円以上稼げる仕事を紹介する。誰でもできる簡単なお仕事」とあったので、やってみたいと返事をすると、「マニュアル」を購入する必要があると言われ、代金2万円を支払った。SNSで送られてきた「マニュアル」のURLをクリックして読んだが、そこに記載されていた副業の内容は勧誘の内容とは全く異なるもので、簡単に稼げるものではなかった。2万円を返してほしい。

トラブルにあわないために

コロナ禍による収入減を補いたいと副業を希望する消費者が、金儲けの方法を教えるという「情報商材」を契約してトラブルに遭うケースが多発しています。

(1)短時間、簡単な作業をするだけで誰でも1日数万円を稼ぐ副業はあり得ないことをまずおぼえておきましょう。具体的にどのような作業をするのかを明らかにしないまま、「マニュアル」を売りつけようとする事業者には近づかないことが大切です。

(2)当初は、「費用はかからない」、「無料でスタートできる」などと勧誘しながら、言葉巧みに有償契約に誘導されることがあります。また、当初は廉価の契約を勧め、いったん契約に応じると「高収入が期待できる」などと、より高額の情報商材を購入させようとすることもあります。既に支払った金額を取り戻したいとの気持ちから契約に応じてしまいがちですが、いずれも当初の話が変った時点であやしいと判断して、決してお金を払わないでください。

【事例Dさん】ネット通販で欲しかったブランドバッグを購入したが…

かねてから欲しかった海外ブランドのバッグを格安で販売している通販サイトを見つけて購入を申し込み、銀行振込みで代金を前払いした。届いたのは一目でニセモノと分かるバッグだった。メールで苦情を伝えて返金を求めたところ、返金しますと返信があった後、連絡が途絶えた。サイトに記載された連絡先はメールアドレスのみで電話番号、住所は分からない。サイトの日本語も不自然なものだった。商品を返品するので代金を返してもらいたい。

トラブルにあわないために

このようなトラブルの場合、支払った代金を取り戻すことは極めて困難なので、事前にあやしいサイトを見分ける知恵を付けることが大切です。

ニセブランド商品の販売など詐欺的なネット通販サイトに良くみられる特徴は以下の4つです。

(1)販売会社名、住所、電話番号がきちんと記載されていない

連絡先の記載が電子メールだけの場合は要注意です。住所や電話番号が記載されていても架空の場合もあります。インターネット上の地名検索サイトなどで実在のものか確認しましょう。電話もかけてみると安心です。

(2)正規販売店の販売価格よりも大幅に安い

(3)日本語の表現が不自然である

機械翻訳のような不自然な日本語表記の場合や、日本に無い漢字が使われていることもあります。

(4)支払い方法が銀行振込のみや代金引換宅配便だけで、クレジットカードが利用できない

広告にはクレジットカード可となっていたのに、受注確認メールでは振込みとされていることもあります。口座名義人が販売サイトとは無関係の個人の場合も注意が必要です。

万が一トラブルにあってしまったら

Dさんの事例のように、ニセブランド商品の販売など詐欺的なネット通販の被害にあった場合はその被害を広めてしまわないように以下の対応をとることも大切です。

(1)警察に相談して事業者の銀行口座の凍結を依頼しましょう

銀行振込で代金を支払ったがニセモノや注文とは異なる商品が届き、事業者が返金に応じない場合や事業者と連絡が取れない場合、振り込め詐欺救済法を根拠に、振込先の国内金融機関に連絡して振込口座の取引停止(凍結)を求めることができます。ただし金融機関は通常、個人からの口座凍結の要請は受けていないため、まずは警察に相談して口座凍結に向けて協力を要請しましょう。

(2)ニセブランド商品の返品は控えましょう

事業者が返金に先立って商品の返送を求めてくることがありますが、消費者が事業者にニセブランド品を返品することは、関税法で禁止されている知的財産権を侵害する模倣品の輸出に該当する可能性があります。返品はお勧めできません。

トラブルにあった場合はすぐに相談を

プロの詐欺師や、故意に強引なビジネスをしている輩にしてみれば、成年年齢の引き下げで彼ら、彼女らにとって都合の良いターゲットが増えているとも言えます。これまで20歳以上から急増していたトラブルが18歳から増えることが懸念されます。

このようなトラブルにあった場合はひとりで悩まず、1日も早く居住地の消費生活センターに相談しましょう(電話番号は、全国共通「188」です)。これまでの相談事例から適切な対応方法を紹介してもらえます。