円安を誘発する黒田総裁発言
先週は、4月13日に日銀の黒田総裁が「現在の強力な金融緩和を粘り強く続ける」と発言したことを受け、ついに米ドル/円が2015年6月高値の125.85円をいともあっさりと上抜けることになりました。結果的には、黒田総裁自らが「黒田シーリング」を突き破ることに貢献してしまう格好となったわけです。
ともあれ、1つの重要な上値抵抗水準を上抜けてしまったことで、そこから一段と上値余地が拡がったことは事実です。実際、週末4月15日には一時126.68円まで上値を試しに行く場面がありました。
インフレ高進を示唆する米国経済指標
先週4月12日に3月の米消費者物価指数(CPI)が発表され、コア指数の伸びが事前予想に届かなかったことから「インフレのピークアウトへの期待が高まった」とのムードが一時的にも拡がる場面はありました。しかし、その後に発表された複数の米経済指標の結果がインフレ高進への懸念を再び強めていることは見逃せません。
4月13日に発表された3月の米生産者物価指数(PPI)は前年比11.2%上昇と、市場の事前予想を大きく上回り、その伸び率は統計で遡れる2010年以降で最大となりました。
また、4月14日に発表された4月のミシガン大学消費者信頼感指数も事前予想を大幅に上回り、次いで4月15日に発表された4月のNY連銀製造業景況指数も事前予想の1.0に対して24.6と、急激な回復ぶりを明らかにする結果になりました。4月の新規受注は2022年の最高水準に達し、入荷遅延の指数も低下しています。
加速するユーロ売り・米ドル買い
かくも強い米国景気の基調を反映した米ドル買いに加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)の政策方針の格差からユーロ売り・米ドル買いの動きが強まっていることも大いに注目されるところです。
ECBは4月14日に定例理事会を開催し、国債などの資産の新規買い入れ終了時期について「7-9月期に終える見通しが強まった」と声明文に明記しましたが、市場にはECBが金融政策の正常化を前倒しで進めるとの見方があったことから一時的にもユーロ売りの反応が強まる場面もありました。
結果、ユーロ/米ドルは一時1.0757ドルまで下押す場面があり、目先は2017年1月安値と2020年3月安値を結ぶ下値サポートラインを明確に下抜けるかどうかが1つの焦点となっています。仮に下抜けると、コロナ・ショック時の安値である1.0636ドルが意識されやすくなると見られます。
今週4月19日には国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しが公表される予定となっており、そこでユーロ圏の成長予測が大きく引き下げられた場合には、あらためてユーロ売り圧力が強まる可能性もあるという点には留意しておく必要もあるでしょう。
米ドル/円は125-128円レンジ内の動きを想定
一方、ドル高・円安傾向が一段と強まっていることについては、先週4月15日に鈴木財務相による「悪い円安」発言があり、市場には「一層の円安進行となれば、政府が円買い介入に踏み切る」との観測が燻っています。
介入のハードルが高すぎて、非現実的な話であるとしか思えませんが、そうなるとすべては日銀総裁の今後の出方にかかってくるということになりそうです。要は、黒田総裁が政策方針の見直しについて何らかの意思表示をするかどうかということになりますが、時期的にはもう少し先になるでしょう。
押さえておきたいのは、国内の消費者物価指数(CPI)が携帯電話料金値下げの影響剥落によって4月分から一気に跳ね上がることと、その結果が発表されるのは5月20日であるということです。
それ以降に日銀金融政策決定会合が行われるのは6月16、17日で、これらの日程を踏まえた上で黒田総裁の出方を見定めることが重要となります。差しあたり、今週の米ドル/円については126.50円処を軸とする125-128円のレンジ内での動きになると想定します。