米ドル/円相場は4月13日に一時、1ドル126円台まで上昇しました。2015年の125.85円の高値を超え、2002年5月以来の水準へドル高円安が進んでいます。

2022年3月から振り返ると10円以上もの為替変動となっており、4月13日に鈴木財務相が「急な(為替の)変化は大変に問題である」と述べるなど、政府内からも為替市場に言及する声が挙がり始めています。市場からは150円までドル高円安が進むとの予想も出始めましたが、果たしてそのような展開はあり得るのでしょうか。

「米ドル高」であり「円安」である米ドル/円上昇

米ドル/円相場の急激な変動の背景には「米ドル高」+「円安」の2つの要因が重なり「日米金利差」が拡大していることが挙げられます。このどちらかの要因にブレーキがかからなければさらなる米ドル/円上昇の可能性は否定できません。

「米ドル高」の要因である米ドル金利上昇はどこで一服するか

米ドルに資金流入が続く背景に米ドル金利の上昇があります。コロナ禍では、米国のインフレは一過性のものであるとして高インフレを容認し続けてきた米連邦準備制度理事会(FRB)でしたが、足下ではインフレを抑制する方向へと政策を急転換させています。

3月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比+8.5%で、1981年12月以来の高さとなっています。しかし、政策金利は3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを開始したばかりのため、現在0.25~0.5%にとどまっています。

インフレ率と比較すると政策金利は圧倒的に低く抑えられた状態ではありますが、いよいよ5月、6月のFOMCではそれぞれ一気に0.5%の利上げに踏み切るとの見方も強まっており、2022年内に政策金利は2.5~3.0%程度まで引き上げられるとの観測が台頭しています。

米短期債(2年債)利回りが急激に上昇しているのは、このようなFRBのスタンスの急転換を市場が急速に織り込んでいることの表れなのです。

目下の注目は、5月FOMCでの0.5%利上げと、FRBのバランスシート縮小着手でしょう。コロナ禍で米国は金利をゼロに引き下げただけでなく、量的緩和政策(FRBが市中の銀行から国債や住宅ローン担保証券を購入することで大量の資金を市場に供給)によってFRBの資産を9兆ドル近くまで拡大させました。

これを縮小する=市場から資金を吸収することで金融の引き締めを行うことが3月FOMC議事要旨で示されましたが、問題はそのスピードです。月額950億ドルという試算が示されましたが、これはあくまで上限です。

5月スタートはどの規模からのスタートになるのか、市場は並々ならぬ関心を持って5月FOMCに注目しています。なお、5月のFOMCは5月3~4日に開催されます。

市場はこのイベントに向けて思惑を強めており、米ドル金利上昇と米ドル買いが加速していると考えられるため、実際に結果が出てしまえば「噂で買って事実で売り」という展開も考えられます。5月3~4日はちょうど日本のゴールデンウィークにあたりますので、為替市場の急変には十分留意しておきたいところです。

「円安」要因である日銀の金融緩和スタンスは変わらないのか

メディアには「悪い円安」論が踊っていますが、日銀は緩和継続のスタンスを変えていません。前回3月に発表された2月分の消費者物価指数(コア指数)は前年同月に比べて0.6%上昇で2020年2月(0.6%)以来、2年ぶりの大きさとなったものの、日銀のインフレターゲットである2%には遠く及ばぬ状況です。

菅政権下で実施された「携帯電話通信料値下げ」の影響でインフレ率が低く算出されているとの指摘もありますが、この携帯料金の要因を除いたとしても漸く2%を超える程度のインフレ率にとどまっているのが現状で、賃金インフレなどに及ぶ普遍的なインフレ環境にはなっていません。

つまり、日銀の目標達成までにはまだまだ時間を要する=異次元緩和環境は続く=日本の金利は上がらない、ということが日米金利差拡大を加速させている一因でもあるのです。

ただし、市場は政策の転換を催促するような動きを見せることもあります。CPIが一気に日銀のターゲットである2%を超えてきた場合には日銀の金融政策の転換、あるいは修正が行われるのでは、という思惑がマーケットを支配する可能性も含んでおかなくてはなりません。その場合、思惑が円買いをもたらすかもしれません。

最大の注目は2021年4月からスタートした携帯料金引き下げの影響が剥落する2022年4月分の消費者物価指数が発表される5月20日です。2%を超えるCPIが出てくると見込まれており、これをマーケットがどの時点から意識し始めるのかが重要になってくると思われます。

5月20日に発表される4月のCPIの前に、4月22日に3月分のCPIも出てきますが(携帯料金値下げの影響はここまで)携帯料金分を排除しても2月CPIは急速に伸びてきていますので、思わぬ上昇となっている可能性もあります。この時点で日銀のスタンス変更を市場が意識し始める可能性もあるかもしれません。

また、連休明けの5月6日には東京都区部の4月分の消費者物価指数(CPI)が発表されます。東京都区部のインフレ率ではありますが、「4月分」ですので携帯電話通信料値下げの影響が剥落するため、全国CPIが発表される5月20日を前に先行指標として注目される可能性もあります。

この5月6日はちょうど米国の5月FOMCと重なる日ですので、米ドル/円相場の変調リスクには十分に留意しておきたい重要なポイントとなります。2022年のゴールデンウィークは為替市場のトレンド転換リスクが高まりそうです。