現状の電気自動車用バッテリーは中韓勢のシェアが高い

QUICK企業価値研究所では、電気自動車(以下、BEV)市場での生き残り策として最も重要な要素は、搭載するバッテリーの性能と考えています。バッテリーは、BEV製造コストの3~4割を占めるとされ、このコストを低減することがBEVの価格競争力に直結します。加えて、バッテリーの性能が、航続距離や充電時間の長さなどにも影響を及ぼします。

そのようなバッテリーの重要性の高さから、自動車メーカー各社ともバッテリーの調達戦略を策定、実行に移しています。調達戦略を大きく分けると、(1)内製、(2)外製、(3)バッテリーメーカーとの合弁会社設立の3つです。

(1)の内製を表明しているのは、トヨタ(7203)、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、テスラ、BYDなどです。ただ、内製を決めた自動車メーカーも、内製に固執するのではなく、(2)、(3)も組み合わせていることが多いです。

(2)の外部調達先となるBEV用バッテリーメーカーのグローバルシェアは図1の通り、日系企業の中では、テスラに供給し、かつトヨタと合弁会社も設立しているパナソニック(6752)が第3位と健闘していますが、中国勢と韓国勢で大半のシェアを握られているのが実情です。

【図表1】BEV用バッテリーのシェア(2021年)
出所:SNEリサーチ資料でQUICK企業価値研究所作成

また(3)に関しても、GMは韓国LGエナジーソリューション、フォードは韓国SKイノベーション、ステランティスはLGエナジーショリューション、サムスンSDI、オートモーティブセルカンパニー(メルセデス・ベンツとエネルギー企業大手の仏トタルとの合弁会社)、フォルクスワーゲンはスウェーデンノースボルトなどと連携して大型の設備投資を実施すると発表していますが、そこに日系企業の名前はありません。

なお、日系自動車メーカーの動きを確認しますと、トヨタはパナソニックに加え、中国ではCATLとBYD、国内ではGSユアサ(6674)、東芝(6502)、豊田織機(6201)と協調・連携し、電池調達の体制を整えると表明済みです。日産自(7201)は、出資するエンビジョンAESCからバッテリーの供給を受けるほか、ホンダ(7267)も提携するGMのBEV用バッテリー「アルティウム」を採用した共同開発のBEV2車種を2024年モデルとして北米市場に投入予定であること、中国では包括的戦略アライアンス契約を締結しているCATLと、バッテリーについて更に連携を強化することを示しています。

全固体電池の開発で巻き返し余地あり

BEVの主流のバッテリーでの発火の可能性が指摘されている

現在主流のバッテリーはリチウムイオン電池ですが、デメリットも指摘され、自動車メーカー各社は次世代のバッテリーの開発を積極的に行っています。QUICK企業価値研究所では、次世代バッテリーとしての最有力は全固体電池とみています。リチウムイオン電池の電解質(正極と負極の間に位置し、リチウムイオン電池が行き来する)は、液体です。この液体、すなわち電解液は液漏れや発火の危険性があり、安全対策が必要となります。

実際、リチウムイオン電池に起因するBEVの発火事故が、海外で相次いで確認されています。加えて、リチウムイオン電池は、高温状態が続くと劣化が進むほか、低温状態ではリチウムイオンが動きにくくなり充放電反応が遅くなるなど作動温度範囲が狭く温度管理も必要であり、そのためのコストもかかります。

全固体電池に置き換えることで発火のリスクを抑える

この電解液を固体の電解質に置き換えたものが全固体電池です(図表2参照)。この置き換えにより、発火の危険性がなくなり、作動温度範囲も広く温度管理も必要なくなります。電解質の有力候補として挙げられているのは、酸化物系と硫化物系の材料がありますが、高い出力が可能な硫化物系が車載用バッテリーの本命と目されています。

日産自、トヨタ、ホンダが全固体電池の導入を発表

その中で日産自は2021年11月に、長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表。2028年度までに、自社開発の全固体電池を搭載したBEV(電気自動車)の市場投入を目指すと表明しました。自社開発の全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と比べて充電時間を3分の1に短縮でき、エネルギー密度も2倍になるとしています。全固体電池のコストは、2028年度に1kWh当たり75ドルを目標とし、その後、BEVとガソリン車のコストを同等レベルにするため、1kWh当たり65ドルまで低減することを目指しています。まずは、2024年度までに横浜工場でパイロット生産ラインを導入する予定です。

トヨタは、日産自の発表より前の2021年9月に、電池の開発・供給に関する説明会を開催。その中で、トヨタが開発中の全固体電池は、イオンの動きがシンプル(速い)で高電圧、高温への耐性があり、高出力化、航続距離の長期化、充電時間の短縮が期待できるとしています。一方で、高容量電池としては、長期間使用すると固体電解質と負極活物質との隙間が発生し寿命の確保に課題があるため、新たな材料を開発中です。課題を克服した上で、2020年代前半にまずHEV(ハイブリッド車)で搭載し、その後BEVへの展開を想定しています。

ホンダも2021年4月の新社長就任会見において、BEVの高い製品競争力を確保するため、全固体電池の研究を独自に進めていると説明しました。2021年度に実証ラインでの生産技術の検証に着手し、2020年代後半のモデルに採用できるよう、研究を加速するとしています。

全固体電池の開発は日産自が一歩リード。海外との競争にも突入

QUICK企業価値研究所では、日産自がBEVへの搭載に自信を示し、具体的な性能の数値を開示したことを踏まえると、日産自が全固体電池の開発において一歩リードしているとの印象を受けています。ただ現時点において車載用の全固体電池の実用化はされておらず、単純に会社側からの説明を鵜呑みにするのは危険であり、今後の車載用電池の開発動向を引き続き注視する必要があると考えています。

なお、海外の自動車メーカーも、フォルクスワーゲンが全固体電池の開発を手がけるクオンタムスケープ社へ、フォードとBMWはソリッド・パワー社へ、ステランティスとメルセデス・ベンツもファクトリアルエナジー社への出資を表明。メルセデス・ベンツは、台湾プロロジウム社との共同開発も発表しており、グローバルでの開発競争に突入しているといえます。全固体電池の製品化まで実現できれば、巻き返す余地はあるとQUICK企業価値研究所は考えています。

BASC旗揚げ。日系サプライヤーの追い上げなるか

現時点で日系企業は、前述の通り車載用バッテリーで存在感が薄い状況ですが、これを打破する動きがあります。2021年4月のBASC(電池サプライチェーン協議会)の発足です。会員企業として、東芝、GSユアサ、パナソニックといったバッテリーメーカーのみならず、バッテリーの材料を手がける東レ(3402)、旭化成(3407)、住友鉱(5713)、総合商社の三井物(8031)、三菱商(8058)、自動車メーカーの日産自、トヨタ(前述のバッテリー子会社2社が参画)、ホンダまで有力企業が名を連ねています。グローバルでの競争力強化を目的とした政策提言などを行い、電池サプライチェーン全体での発展を狙っています。

また日本政府も「グリーン成長戦略」において、成長が期待される分野として車載用バッテリーを位置づけました。車載用バッテリーの量産には素材から製造まで多額の投資が必要であり、中国などでは政府からの手厚い補助金により、電池産業を確立させているのが現状です。日本においても、政府と産業界が一体となって取り組むことで、シェアの巻き返しに期待したいところです。

【図表2】主なBASC会員企業
出所:BASC資料でQUICK企業価値研究所作成

サブスクリプション形式の支払いに対応するバッテリー交換式の動きにも注目

中国の新興BEV専業メーカーのNIOが積極的なバッテリー交換式

最後にご紹介したいのが、現在主流のリチウムイオン電池のデメリットを補う新たな施策として、バッテリー交換式の取り組みです。バッテリー交換式の採用により、サブスクリプション形式で支払うことで、初期の車両販売価格を抑えられるほか、充電時間の長さなどからも解放される可能性があります。

バッテリー交換式は、中国の新興BEV専業メーカーのNIOが積極的です。同社は2021年12月開催の「NIO DAY 2021」において、バッテリー交換ステーション(画像1参照)を733拠点設置したと発表。これまで550万回以上のバッテリー交換実績があり、平均すると1日2万回以上、4.2秒に1回、バッテリーの交換が行われているとしています。

中国ではバッテリー交換式のインフラ整備を検討か

BEV用バッテリーメーカー最大手の中国CATLも2022年1月に、バッテリー交換ソリューション「EVOGO」を発表しました。中国の10都市でまずサービスを開始する予定です。板チョコのようにデザインされた、航続距離200kmの交換式バッテリーを開発。世界で市販されているBEVプラットフォームベースの車種の80%と互換性があり、今後3年間に世界で発売されるBEVプラットフォームベースの車種の全てに対応させます。バッテリー交換ステーションは、自動車3台のスペースで設置可能で、1回のバッテリーの交換時間は1分で可能としています。

QUICK企業価値研究所では、車載用バッテリーでグローバルトップシェアのCATLがバッテリー交換式に正式参入の表明をしたことで、中国市場はバッテリー交換式のインフラ整備が行われる公算が大きくなったとみています。仮にバッテリー交換式が普及した場合、前述の全固体電池を開発する必要がなくなることも予想され、その動向は要注意と考えています。

二輪車のバッテリーでは、台湾のゴゴロ社とホンダに要注目

二輪車でも、バッテリー交換式を採用する動きがみられます。台湾のゴゴロ社が先駆ですが、ホンダも積極的に取り組んでいます。ホンダは、着脱式可搬バッテリー「モバイルパワーパック」を開発。実証実験をフィリピン、インドネシア、インドで行ってきました。これらの実証実験の結果を踏まえて2022年前半から、インドで電動三輪タクシー向けに、電池容量を増やした新型「モバイルパワーパックe:」を用いてバッテリーシェアリング事業を開始します。

QUICK企業価値研究所では、東南アジアやインドで二輪車のシェアが高いホンダが本格的に取り組めば、同地域での二輪車のバッテリー交換式が普及し、バッテリー交換ステーションの整備も進む余地は十分にあるとみています。将来的にはそのインフラを利用して四輪車へつながることも想定され、今後の動向に要注目と考えています。

株式会社QUICK リサーチ本部 企業価値研究所
シニアアナリスト 小西 慶祐