コインベース(Coinbase)が2月24日、2021年本決算を発表。10〜12月の売上高は24.9億ドル(前年比327%増)となり、半年前の最高値を再び更新した。
経営陣は「2021年はクリプトエコノミーにおいて信じられないような成長と開発の1年だった。それはコインベースにとっても同様だ」と1年を振り返る。
期末時点で暗号資産全体の時価総額は2.3兆ドル。11月のピーク時には3.1兆ドルにものぼった。ビットコインやイーサリアムも新高値を更新し、ビットコインだけでも1.3兆ドルの時価総額を記録した。
米国では全世帯のうち4分の1が暗号資産を保有するなど、「クリプト」というものがさらに存在感を増した。そして今、業界を賑わせているのがNFTやWeb3.0といったワードだ。
二転三転はありつつも、盛り上がりを見せるクリプトエコノミー。その中でも代表企業の1つがコインベースだ。今回の記事では、直近の決算発表の内容を中心に、同社経営陣が何を考えているのかをご紹介する。
「クリプトの冬が来たとは思わない」
決算カンファレンスコールの冒頭、CEOのブライアン・アームストロングは「クリプトの冬が来たとは思わない」と持論を展開した。「実のところ、もはやそういう段階ではないと思う」
暗号資産が生まれて以来、その環境には「夏と冬」が交互に訪れるようなサイクルがあったことをアームストロングCEOは認める。しかし、現在では暗号資産の実用例は増えており、かつてのような「冬」がまた訪れるとは思えないというのだ。
もちろん、暗号資産相場が今後どうなるかは誰にもわからない。「それは、S&P500がどうなるかを予想するようなもの」(アームストロングCEO)
コインベースにとって重要なことは、市場のサイクルがどうであれ、素晴らしいプロダクトを作り続け、足元の事業を前に進めることだ。長期的にはさらに大きなアップサイドが残されていると信じているからである。
クリプト領域には非常に多くの資本が流入している。何より、若くて賢い人たちが山のように、この業界で起業しようと押し寄せている。この事実こそが、アームストロングCEOがこの産業に明るい見通しをもつ所以だという。
暗号資産の「実用例」が増えていると指摘
アームストロングCEOが「クリプトの実用例」として挙げるのは、さほど目新しいものではない。DeFiやNFT、DAOなどといったものだ。ゲームやSNSへの活用例もある。
今まさに「Web 3」と呼ばれているようなトレンドは、人々があらゆる種類のアプリケーションをインターネット上に構築する上での「未来のあり方」であるとアームストロングCEΟは言う。それに当てはまるのは、何も金融系のアプリケーションだけではない。
そのように考えたとき、コインベースにとって真に重要な問いは「今後の数四半期で何が起こるか」ではなくなる。考えるべきは、数十億ドル規模になるかもしれないという事業領域がいくつもある中で、どうやってその機会を掴み取るかだ。
「市場が大きく伸びていない期間というのは、むしろ自分達にとってはチャンスだ。なぜなら、急成長するタイミングに備えてしっかり準備できるよう、投資することができるからである。」これが、アップダウン激しい暗号資産領域で世界有数の成果を掴み取ったコインベースCEOの考え方である。
本当に市場が伸びているときというのは、「それに対応できるよう規模を拡大する」ことで精一杯になる。新しいことには挑戦しづらい側面もあるのだ。
コインベースの投資方針「70、20、10」
2022年に入っても、コインベースはいくつものプロダクトを開発することに投資し続ける方針だ。同社では中核製品、戦略投資、その他の投資にそれぞれ70%、20%、10%ずつ費やす。
コインベースにとって1つ目の柱は、いうまでもなく「暗号資産取引」だ。これは1つの利用ケースに過ぎないが巨大であり、同社の高い収益性を実現する源泉にもなっている。
2つ目の柱は、金融に関するサービス。そして3つ目が、より広汎なものだ。インターネット上でアプリケーションをつくるための新たな基盤となりうるもので、これこそ人々が「Web3」と呼んでいるものである。
長期的に見たとき、コインベースにとって真に重要なのは「Web3」の時代に中心的な存在になること。同社は資本や人材、ユーザー数といった面で、この上ないポジションを掴んでいる。
利用ケースが広がる中、機関投資家の需要を掴む
すでに広く報道されたように、2021年に「NFT」は大変な盛り上がりを見せた。2020年の販売高は業界全体で1億ドルに満たなかったが、2021年には200億ドル近くにまで膨らんだ。
DeFi(分散型金融)アプリケーションにロックインされた資本も前年から13倍に膨らみ、年末時点で2,500億ドル。
マーク・ザッカーバーグ氏の発言で俄に注目を集めた「メタバース」とも無縁ではない。メタバースの普及には、日常生活から趣味娯楽、経済活動まで行える仮想空間の実現が前提条件だ。「Web3」の発展は、最終的にメタバース実現の下地となるかもしれない。
コインベースは足元でも収益の多様化を進め、2021年全体で5億ドル以上がサブスクリプション・サービス収入によるものだった。そのうち2億ドルは4Qに上げられたもの。
そのうちトラクションが出ているのは「Staking」「Earn」「Custody」といったサービス。どれも投資や金融に関わるもの。
コインベースは2021年、取引高の大半を「機関投資家」が占めるプラットフォームに変貌した。
機関投資家の顧客ベースは前年比50%増。うちCustody顧客は倍増した。プロ向けサービスの重要性は増す中で、機関投資家の需要に全面的に対応する「Coinbase Prime」も開始している。
10〜12月期、月間取引ユーザー数のうち32%が投資「以外」のコインベース製品を利用。前年同時期は22%だった。そのうち特に大きいのがStakingとEarn。投資プロダクトよりもリテンション(継続率)は良好だという。
暗号資産で給与を受け取るニューヨーク市長
「Coinbase Wallet」によって、一般的なユーザーがDeFiやNFTに参加しやすくする取り組みも進める。分散型取引所での取引も、これによって実現しやすくなる。
給与を暗号資産として受け取ることができる「Coinbase Payroll」もはじめた。新たなニューヨーク市長のエリック・アダムス氏が、すでにこれによって暗号資産として給与を受け取った。アダムス氏は「ニューヨークは世界の中心であり、暗号資産を含むほかの金融イノベーションにおいての中心でもありたい」とコメントしている。
なお、暗号資産として給与を受け取るのは「最初の3回」だけだという。
暗号資産に関わる税申告を簡単にする「Coinbase Tax Center」も開始。控除金は暗号資産、あるいはUSDCとして受け取ることもできる。
変化の激しい業界で、自ら積極的な情報発信も行う。週次のニュースレター「Coinbase Bytes」は、2,300万人近い読者がいるという。Twitterスペース「BUIDL Crypto」も週ごとに開催し、ポッドキャスト「Around the Block」も展開。
新たな取り組みを支えるのは、コインベースが抱える3,730人ものフルタイム従業員だ。2020年と比べて3倍という規模に膨らみ、エンジニア組織はインド、カナダ、ブラジル、シンガポールにも広がっている。
手元の現金同等物は71億ドルと潤沢だが、ここには2021年に発行した長期借入34億ドルによるものが含まれる。これにより、クリプト市場の騰落による収入の変動にも十分に対応できるとする。