決済端末「Square」や送金アプリ「Cash」を手がけるブロック(Block, Inc.)が2月24日、2021年本決算を発表。ブロックが今決算のハイライトとして挙げるのは、以下の3つだ。

まず業績について、売上総利益は11.8億ドル(前年比47%増)と大きく拡大した。そのうち5.18億ドル(同37%増)を占めるのが「Cash」アプリだ。祖業「Square」も6.57億ドル(同54%増)と成長がつづく。

出所:strainer

新たにスタートした「Cash」カードは12月に1,300万人超が利用。Cashアプリで取引する月間4,400万人のうち、30%以上が使うという反響だ。

そして「Square」エコシステム。セラー(売り手)は時間とともに多くのSquare製品を利用しており、それが収益性拡大にも結びついている。2021年、セラー向け売上総利益のうち38%が「4つ以上」の製品を使う顧客による。2016年時点でこの数値は10%に過ぎなかった。

要点は以上の3つだ。ツイッターCEOを辞めて「ブロック」一筋になった創業者ジャック・ドーシーが何を語ったのかを中心に、同社が進めている打ち手について深掘りする。

「株式の断片」を友だちに送れる

ブロックについてまず注目すべきは「Cash」アプリの進捗である。この4Q、同社は「株式の断片」やビットコインをピアツーピアで送付することのできる機能を追加した。

Looking for that last minute gift? We got you. With Cash App, you can now send as little as $1 in stock or bitcoin, and you don’t need to own any to gift it. It’s now as easy as sending cash, and way more festive. pic.twitter.com/0jiuLmXZCw

— Cash App (@CashApp) December 20, 2021

ちょっとしたギフティング機能というわけだが、Cashアプリにとっては強力なユーザー獲得装置にもなる。言うまでもなく、送られた「株式の断片」を受け取るには、Cashアプリを使わなければならない。

今年1月には、携帯もしくはパソコンから提出できる「Cash App Taxes」機能を開始。Cashアプリを通じて提出すれば、税控除を「最大5日早く」受け取れる。「これまでも多くのユーザーが、受け取った税控除をCashアプリに入金してきた」とドーシーは言う。

ブロックにとっては、Cashアプリ上の残高が増えること自体が大きなメリットだ。従来の申告ツールなら利用料を受け取るところだが、Cash App Taxesは「完全無料」で使うことができる。

プロ級の画像をモバイルで

小売事業者向けに展開する「Square」では、グローバル展開、大企業向け、オムニチャネル強化が主に展開する戦略だ。ECプラットフォームの「Shopify」ともだいぶ重複しているのがポイントである。

新たな取り組みとして、Squareでは「Square Photo Studio」アプリ版を開始。高品質な画像を簡単に撮ることができ、オンラインストアのカタログとして同期することができる。

ネット通販で「写真のクオリティ」が重要なのは言うまでもない。ソーシャルを通じた集客や広告クリエイティブという面でも、プロ級の画像が要求される。しかし、一般の小売事業者にとってそれは容易なことではない。

「Square Photo Studio」というサービス自体は2019年にスタート。わずか9.95ドルでプロ級の商品画像を撮れる「ロボットスタジオ」として話題を呼んでいた。

新たに開始したモバイル版では、どういった方法(照明やフレーミング)で撮影すればいいかをアプリ側が助言してくれる。撮影したら、機械学習によって背景などを編集。できた画像はそのままオンラインショップで販売に使える。利用は無料だ。

アフターペイは米豪ですでにSquareと連携

2021年のブロックにおいて、最大の意思決定と言えるのがオーストラリア発の後払い(BNPL)決済大手「アフターペイ(Afterpay)」の買収だ。ジャック・ドーシーは、この買収を「2つのエコシステムをつなぐ存在」として説明してきた。

ブロックが稀有な存在なのは、マーチャント(事業者)が使う「Square」エコシステムと、エンドユーザー(消費者)が利用する「Cash」アプリという両サイドで大きな強みを持ち、収益を上げていることだ。両者をつなぐことで、相乗効果が期待できるというのは突飛な話ではない。

アフターペイのBNPL決済は、米国とオーストラリアではSquareのオンライン販売事業者に対してすでに提供されている。これはセラーや顧客から長年リクエストされてきた機能だという。

ジャック・ドーシーは「我々は、2022年に上乗せするための強力な土台を有している」と強調。5月18日のインベスターデイでさらに深いところまで話すつもりだと予告した。

強固なエコシステムと多様な収益源

続いてCFOのアムリタ・アフジャが財務状況について説明した。まず強調したのは、ブロック社の収益モデルの多様さだ。

同氏によれば、2021年時点でSquareエコシステムには「1億ドル以上の売上総利益を稼ぐ収益源が6つ」ある。そしてCashアプリには「売上総利益で2億ドル超を稼ぐものが4つ」ある。

出所:strainer

強力なエコシステムと複数の収益モデルによって、ブロックは2021年に10億ドル超の調整後EBITDAを稼いだ。年間の営業キャッシュフローも8.5億ドルに迫るなど、前年(1.7億ドル)から大きく増えている。

冒頭でも触れたCashカードは、Cashアプリエコシステムを強化する上で効果を発揮している。物理カードなので、ファストフードから小売チェーン、ガソリンスタンドなどあらゆる箇所で使ってもらえる。

Cashカード単体で見ても、2021年全体で5億ドル近い粗利益を稼いだ(前年比で二倍近い成長)。一連の取り組みにより、Cashアプリに流入したお金は450億ドルに達したという。コロナ禍での政府支援が終了する中でも拡大が続いている。

1ヶ月あたりの取引額は1,000ドルを超え、こちらは前四半期比では横ばい。前年比では拡大した。エンドユーザーがCashアプリでの利用ケースを増やすにつれ、より多くのお金をアプリ内に預ける。そうすれば、さらに多くの収益機会を掴むことができるという流れだ。

Cashカードを利用するユーザーは、ピアツーピア送金だけを行うユーザーと比べ、およそ5倍大きな売上総利益をもたらしてくれるという。

2021年、Cashアプリはマーケティング投資を大きく加速させ、アクティブユーザー(transacting active)一人を獲得するのに費やしたコストは約10ドルだった。2020年には「5ドル以下」だったから、かなり採算は悪化したことにはなる。

「Square」ミッドマーケット向けの重要性

Squareエコシステムでは、冒頭でも触れたように大規模事業者の構成比拡大が続いている。同社が「ミッドマーケット」と呼ぶGPV(年決済額)50万ドル超のセラーGPVは、Squareの37%を占めるまでに拡大した。

出所:strainer

グラフを見れば、ミッドマーケット向けGPV(前年比78%増)がこの1年、いかに大きく拡大したかがお分かりいただけるだろう。

複数プロダクトを利用する事業者ほど収益性が高いのも先述した通りだ。Squareの売上総利益は「4つ以上利用」の事業者だと38%を占めるが、「2つ以上」だと80%にのぼる。1つだけの製品を使う事業者に比べ、4つ以上使うセラーは10倍以上の売上総利益をもたらしてくれる。

以上のことからCFOが言いたいのは「ミッドマーケット向けの成長により、Squareが収益性を大きく高められる」ということだろう。

株式市場が変わっても積極経営は変わらず

今後の注目は、なんといっても買収したアフターペイの貢献だ。買収を完了したのは今年1月末なので、今回決算には同社の業績は含まれていない。

2021年、アフターペイの流通総額(GMV)は197億ドル(前年比74%増)。アクティブ事業者数は12.2万件を超え(同64%増)、アクティブ購入者数は1,900万人を上回る(同47%増)。後払いの98%は期日までに返済されたという。

ブロック社の見通しに話を移そう。Cashアプリの1〜2月の動向では、売上総利益は前年比21%の拡大。Squareエコシステムは同じく45%の成長が見込まれている。どちらも1月に成長率が鈍化し、2月に改善したという。影響要因とするのはオミクロン株の拡大だ。

出所:strainer

次回決算でアフターペイは、2〜3月の業績でブロック全体に貢献することになる。2月のGMV成長率は前年比25〜30%の見通し。

2022年全体で見たとき、アフターペイの影響を除いてもブロックは営業費用(non-GAAP)を13億ドル(前年比38%)積みます計画だ。そのうちTIDAL、TBD、ハードウェアウォレット、ビットコインマイニングといった新規プロジェクトには1.4億ドルを費やす予定。投資全体の2〜3%に相当するという。

「グロース株」ブームは何処へやら、ブロックの株価も昨年の高値から半分以下に落ち込んだ。株式市場の評価基準が変わっても、ジャック・ドーシーは変わらずに積極的な成長投資を進める方針だ。