今回、Cando Advisors LLC代表の安藤千春氏にインタビューを行ないました。安藤氏はシリコンバレーを拠点とし、米国の先端事例を参考に新規事業・米国ベンチャー提携・イノベーション手法・調査、投資案件、日本企業との橋渡しなどに従事しています。安藤氏にシリコンバレーの最新動向、プライベートエクイティ市場やフィンテックの注目ポイントなどをお聞きしました。

シリコンバレー急成長の背景

岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

岡元:本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。まず、安藤さんがお仕事をされているシリコンバレーについて教えてください。シリコンバレーにあって、日本にないものは何でしょうか。

安藤:シリコンバレーはカリフォルニア州のサンフランシスコから少し南のあたりに位置しています。シリコンバレーを一言で表すと、「米国のベンチャー企業を1番育てている場所」です。

1930年代にスタンフォード大学の教授の勧めで同大学出身のビル・ヒューレット氏とデイブ・パッカード氏が起業してヒューレット・パッカードが誕生しました。同社の創業の地がシリコンバレーの発祥の地とも言われています。

「シリコンバレー」と呼ばれる由来は、1970〜80年代にシリコンを材料とする半導体メーカーがこの地域に集まってきたことから来ています。それらの企業に投資するベンチャーキャピタルが発展し、ベンチャーキャピタルがあるからまた新しいスタートアップ企業が来て投資を受ける…という、いわゆるエコシステムができあがったのです。

シリコンバレーに多額の資金が集まると同時に、技術的なアドバイザーや、大学、弁護士などを含めた専門家や組織も豊富だったので、企業が成長しやすい土壌ができたのだと思います。

安藤 千春氏
Cando Advisors LLC代表、米国ベンチャー・イノベーションコンサルタント

シリコンバレーにあって日本にないものは色々ありますが、1番大きいのはリスク許容度とスピード感だと思います。日本人や日本企業の良いところは、何でも丁寧にしっかりとやるところですが、どうしてもスピード感に欠けます。

周りの米国人からも良く指摘されますが、日本企業は失敗してはいけないという意識があるように思います。そこが1番のネックだと言われます。

シリコンバレーほどリスクを取る環境は、世界でも珍しいのではないでしょうか。聞いた話では、ベンチャーキャピタルの「ベンチャー」という言葉は、英語以外では危ないという意味合いを含むそうです。このようにベンチャーに対してリスクが高いという印象を持っているのは、日本だけではないと思います。ただ、リスクを取らない度合いに関しては、日本はシリコンバレーの正反対にあるような気がします。

岡元:それはシリコンバレーだからと言うよりも、日本と米国を比較したときの大きな違いの1つでもありますね。

安藤:それはあると思います。欧州も米国ほどリスクを取らないと思いますが、欧州と比べても日本はさらにリスク許容度が低いのではないでしょうか。

今のシリコンバレーはバブルなのか

岡元:安藤さんは20年以上シリコンバレーのベンチャー関連のお仕事をされていますが、この20年間でシリコンバレーはどのように変わりましたか。

安藤:今から20年ほど前は、ITバブルが崩壊した頃です。当時、ITバブルはやはり駄目だったのではないかと言われていました。しかし、その後GAFAMのようなIT企業が次々と成長して、規模の拡大もスピード感も非常に速くなりました。最近は少し金余りの状態で、バブルのような雰囲気があるように思います。これは私だけではなくベンチャー投資家も同様に感じているようです。

岡元:今、「バブル」という言葉が出てきましたが、危険なバブルだと思いますか。それとも加熱しているという意味で、大問題になるバブルではないということでしょうか。

安藤:両方の可能性があると思います。株式市場と同じで、上がり続けるか弾けるかというのは誰にも分からないことでしょう。ただ、先日著名なベンチャー投資家の方のお話を聞いた際、1999年と今の状況が少し似ていると述べていました。1999年は、バブルが弾ける直前でした。

もう1つシリコンバレーが変化している点があります。実は、地元の人はこの地域のことを「シリコンバレー」と呼ばず、「ベイエリア」と言っています。その理由は、もうこの地域でシリコンを原料にしたものを作っていないからです。

今はクラウドの企業も多いので、サンフランシスコ市内に本社がある企業が増えています。そのためシリコンバレーとサンフランシスコ市内を合わせて、「ベイエリア」という呼び方が定着してきたのだと思います。

米国企業がイノベーションを生む強さ

岡元:米国にはイノベーティブな企業が多く、それが米国株の株価に反映されているように思います。米国企業が持っているイノベーションを生む力の背景をご説明いただけますか。

安藤:米国はもともと移民の国です。先住民の方々もいましたが、大多数は移民として米国にやってきて、何かを新しく作るしかありませんでした。ゼロから何かを作るにはやはりイノベーションを打ち出し続ける必要があります。

よりリスクをとって開拓したい人々が馬車に乗って米国東部から西海岸に移動した歴史があります。その当時からよりイノベーションを求める人々が、カリフォルニアに移住したと考えられるでしょう。

もう1つ大きな要因は、多様な背景を持つ人が集まってアイデア出すほど、イノベーションが生まれやすいことです。米国全体についても言えることですが、特にシリコンバレーのスタートアップ企業を見ると、非常に人種が多様です。このように異文化、ひいては様々なアイデアを持った人々が入り混じるとイノベーションが生まれやすいのです。

岡元:イノベーションを持つシリコンバレーのIT企業が米国経済に与える影響はどれぐらいでしょうか。

安藤:非常に大きいと思います。例えば、今のナスダック総合指数を見ても上位5社くらいがかなりの割合を占めています。そういった上位の企業は、過去20年ほどの間に急成長しています。逆に言うと、これらの企業がなければ米国経済・株式市場は成長していなかったと思います。

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本インタビューは2022年1月28日に実施しました。