>> >>特別インタビュー【1】米国ハイテク企業の聖地シリコンバレーはなぜ強いのか

プライベートエクイティ市場に見られる変化

岡元:現在の米国のプライベートエクイティ市場について教えてください。これまではベンチャー企業をプライベートエクイティ市場で大切に育てて、徐々に成長したところで、さらに大きく成長させるために株式市場で資金調達するというのが大きな流れだったと思います。しかし、最近ではプライベートエクイティ市場に資金が集まりすぎていて、株式市場で資金調達をしなくても、プライベート企業のままで高成長できるという話を聞きます。そのあたりはいかがでしょうか。

安藤:そうですね。プライベートエクイティは大きく2つに分けられます。創業期の企業や事業に出資するのがベンチャーキャピタル、成熟期以降の企業や事業に出資するのがプライベートエクイティと呼ばれています。ご指摘のように、最近ではベンチャーキャピタルの資金量が増えているので、プライベートエクイティ化していると言われています。

プライベートエクイティにはタイガー・グローバルやソフトバンクのような非常に巨大なファンドがあります。これらをマネーオンリーファンドと呼ぶベンチャーキャピタルリストもいます。

先ほど岡元さんが述べられたように、従来のベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業に投資して大切に育てていました。しかし最近はあまり育てることに注力せず、出資だけするファンドも増えてきています。資金調達の面からはそれだけで済んでしまうのかもしれません。しかしIPOの目的は資金調達だけではなく、1番重要な役割はエグジット(出口)です。これはベンチャーキャピタルファンドも投資したからにはM&AかIPOでエグジットするしかないので、そういう意味ではIPOができないとリターンが得られません。

一方で、創業者および創業期から働いている従業員はかなりのオプションを持っているので、これを現金化してあげる市場が必要です。そのため現在のIPOは調達というよりも、換金する市場という意味合いが大きいと思っています。

上場しなくても、セカンダリーマーケットやオルタナティブと言われるオプションを持っている従業員が一部を売却して換金できるようなプライベート市場ができました。しかし、これがベンチャーキャピタルの投資分すべてをカバーするほど成長するには時間がかかるでしょう。そういう意味で、IPOはまだしばらく「調達」というよりも、「換金・エグジット」として機能すると考えられます。

フィンテックを活用した「組込型金融」「モバイルバンキング」

岡元:安藤さんはフィンテックの分野がご専門ですが、今後フィンテックの分野において注目すべきポイントは何でしょうか。

安藤: 1つは、「エンベデッド(Embedded)」や「BaaS(Banking as a Service)」と呼ばれる「組込型金融」です。これは金融セクター以外の企業がソフトを組み込んで顧客に金融サービスを提供するもので、2022年もまだ成長するのではないかと言われています。

例えば、トヨタ自動車(7203)にはトヨタファイナンスという金融事業を営む子会社があります。消費者向けに製品を売る企業は組込型金融によって簡単に金融サービスを提供できるようになるという見方もあります。

それからもう1つは、ブラジルやアフリカなどで急速に利用が増えているモバイルバンキングです。新興国においてフィンテックは人々に金融サービスを一気に普及させています。

2022年に注目したいテーマ・テクノロジーとは

岡元:今年注目されているテーマやテクノロジーを教えてください。

安藤:1つは、気候関連テクノロジー(Climate Technology)です。少し前まではクリーンテックと言われていました。これは昨年、バイデン米政権が誕生し、気候変動問題への取組みを後押しするようになったことが影響しています。世界各地で異常気象による自然災害が頻発化しているため、気候変動への対策が急がれています。そういった状況下で、特に電気自動車などが再び注目されています。

もう1つはAIの活用の広がりです。例えばC3.ai(AI)という昨年上場した企業があります。株価は冴えませんが私は良い企業だと思っています。

AIが実際に何をやっているかについて、一般人にも非常にわかりやすくなったと感じています。例えば自動車ですと、自動運転はAIが運転を担っている、などです。また、新型コロナワクチンの開発においてもAIの技術が活用されました。

その他、量子コンピューターの実用化なども今後注目されていく気がします。

世界各地に広がるスタートアップ企業の波

岡元:最近、どのようなスタートアップ企業が生まれていますか。

安藤:ブロックチェーン関連の企業が多いと感じています。ブロックチェーンを中心に、暗号資産、NFT、クリエイターエコノミーなどを含めると、非常に多くの企業が生まれているように思います。それは米国だけに限らないという印象があります。

先日調べたところ、過去1年間に設立された、何らかの資金調達を受けた企業は、北米で1,400社、世界全体で6,800社あります。その中で2百万ドル、およそ2億円以上のファンディングを受けた企業は、北米300社に対して世界全体だと860社です。今までシリコンバレーで起こっていたことが世界各地、特に新興国で盛んになっている気がします。

AR・VR技術の活用の広がり

岡元:最近注目されているメタバースというと、ベースになっているのが、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)です。これらの技術に関連したスタートアップ企業は出てきていますか。 

安藤:ARとVRが流行り始めた当初、ARの方が実用価値がある印象でした。例えば従来の自動車修理工場であれば、修理工の方が車の中を見て、「これはトヨタの何年製だから、こういう対処が必要」というのが頭に入っていないといけません。しかし、AR技術を使うとこのような場面において画面が出てきて、バーチャルとリアルが融合して、バーチャルで車の中を見て対処法を指示することができます。ARについてはこのような使い方が実用的だと思っています。ARは医療現場においても実用化に向けて開発が進められています。

他にも例えば一昨年から流行しているペロトン(PTON)の家庭用バイクマシーンなどでもVR技術が使われています。今後もこれらの技術の活用は広がるでしょう。

岡元:本日は貴重なお話をいただきましてありがとうございました。

安藤:こちらこそありがとうございました。

本インタビューは2022年1月28日に実施しました。