◆北京五輪の開会式は二十四節気のカウントダウンで始まった。2月4日の立春に合わせた素晴らしい演出だった。雪上、氷上での熱い闘いに喝采を送る日々が始まった。選手たちの熱気がいかにすごくとも、雪や氷が溶けることはないだろう。しかし金融市場では、ある「熱」によって氷解したものがある。マイナス利回りの債券残高という大きな塊である。それを溶かした「熱」とはインフレと欧米中銀の引き締めスタンスだ。
◆マイナス利回りの債券残高は世界全体で一時18兆ドルにまで膨らんだが、足元では急速に減少し、いまやピークの3分の1に縮小した。マイナス利回りの代表国、日本とドイツの両国で4日に5年債がマイナス金利を解消、すなわち利回りがプラスに浮上した。まさに「春が立つ」が如くに、である。
◆金利のボトムアウトと立春には思い出がある。【新潮流】を毎日書いていた頃、「冬日と立春」(2015/2/4)というコラムで金利の底入れ~反転上昇の予兆を指摘した。実際、長期金利は1月下旬を底にその後上昇基調を辿り、株式市場では銀行株をはじめバリュー株が買われる展開となった。今また同じように金利上昇局面を迎えている。ただし、現役世代が経験したことのないインフレが背景にあるという点がまったく違う。2015年前半の金利上昇はわずか半年で終わったが、今回は果たしてどこまで続くだろうか。
◆2015年に書いた「冬日と立春」は僕のお気に入りのフレーズで締めくくった。<一年で最も寒い時期に「春が立つ」のは、もうこれ以上寒くならないからである>。寒さのボトムが春の始まりなのだ。これは世の中のすべてに ‐ 人生にも相場にも ‐ 当てはまる。二十四節気の「立春」に始まった北京五輪は「雨水」の頃、閉会式を迎える。「雨水」は、空から降るものが雪から雨に変わり、氷が溶けて水になるという意味だ。今はまだ落ち着かない株式相場だが、雨水の頃には不安が氷解し、本格的な春へと向かっていくことを願う。