露光装置の販売が好調、配当を2倍に引き上げたASML

オランダの半導体製造装置メーカーASMLホールディング(ASML)が1月19日、2021年第4四半期および2021年度通期の業績を発表した。

第4四半期決算は、売上高が前年同期比17.2%増加の50億ユーロ、純利益は17億7000万ユーロと前年同期に比べ31.2%増となった。売上高は市場予想(51億ユーロ)をわずかに下回ったものの、引き続き利益率が高水準に維持されており、3割を超える増益となった。

2021年を通じての売上高は前年比33.1%増の186億1100万ユーロ、純利益は65.5%増の58億8300万ユーロだった。最先端のEUV(極端紫外線)露光装置が好調だっただけではなく、前世代の露光装置も高水準に推移したという。配当については、1年前の2.75ドルから2倍の5.5ユーロに引き上げた。

【図表1】ASMLの売上高と純利益の推移
出所:筆者作成

アプリケーション別の売上高は、メモリが40億6400万ユーロと1年前に比べて4割近く伸びた一方、ロジックが95億8900万ユーロと増加率は30%だった。また、納入した露光装置の稼働率が高く、生産性向上のためのソフトウェアアップグレードが活発だったことなどもあり、保守管理は49億5800万ユーロと前年から35%増加した。

【図表2】ASMLのアプリケーション別売上高の推移 
出所:筆者作成

2021年の出荷先を国・地域別に見ると、台湾が44%と引き続きトップで、次いで韓国が35%、以下、中国(16%)、米国(5%)、日本と続いた。2020年に比べて大きな変動はなく、依然として台湾、韓国が主要輸出先のトップ2を占めている。

【図表3】地域別、国別の露光装置の出荷割合
 
出所:筆者作成
【図表4】露光装置の販売台数
出所:筆者作成

2021年は最先端のEUV露光装置の出荷が42台と前年比で11台増加した。ただし、増えているのは最先端だけではない。ArF液浸(ArFi)も81台と2020年より13台増えた。また汎用品の製造においてi線(I-Line)からKrFへの移行が進んでいるため、KrFの出荷も大きく伸びている。

ASMLによると、受注は引き続き好調で、顧客からは早期の納入が求められているという。客先に納入した後に最終検査を実施するなどして納期の短縮を図っている。特にEUV露光装置の出荷台数は今期(2022年12月期)55台を見込んでおり、さらなる能力拡張により、来期(2023年12月期)には60台を超える見通しで、増加傾向はまだ続くとしている。

【図表5】EUV露光装置の出荷台数
出所:筆者作成

今期のガイダンスを確認しておこう。2022年12月期第1四半期(2022年1-3月期)の会社側ガイダンスでは、売上高が33~35億ユーロ(前年比19.8~24.4%減)、営業利益6.50~7.50億ユーロ(同52.0~58.4%減)と大幅な減収減益となる見込みだ。

前述の通り、顧客の求めに応じてEUV露光装置の出荷を早めているため、検収の遅れが生じ、出荷と売上の計上時期にズレが起きているためである。

EUV露光装置への旺盛な需要を踏まえ、会社側は2022年通年の売上高としては前年比約20%増と2桁成長が続くと予想している。 

デバイスメーカーによる巨額投資の追い風

米インテル(INTC)が日本円にして2兆円を超える新たな設備投資計画を打ち出した。1月21日、200億ドル(約2兆3000億円)を投じて、中西部オハイオ州に先端半導体の新工場を建設すると発表した。インテルが米国内の新たな地域に生産拠点を設けるのは約40年ぶり。稼働は2025年の見通しで、自社製品の製造を行うほか、受託生産を担うという。

驚くべきは今後の総投資額だ。このオハイオ州の拠点では将来的に8つの工場が建設可能だとしており、今後10年の総投資額は1000億ドル規模、日本円にして11兆円を超える見通しだ。インテルは既に2021年、アリゾナ州の拠点でも200億ドル規模の新工場への投資を表明している。

ASMLの業績が好調に推移している背景にあるのはこうした大手デバイスメーカーによる巨額の設備投資計画だ。半導体の需給逼迫を背景に、インテルだけではない、TSMC(TSM)、サムスンもこぞって新たな設備投資計画を打ち出している。

【図表6】大手デバイスメーカーによる米国での設備投資計画
出所:筆者作成

TSMCは1月13日、2022年の設備投資額が最大440億ドル(約5兆円)に達すると明らかにした。これは5年前(2017年)に比べて4倍、昨年(2021年)に比べて4割強増え、過去最高額となる。現在の最先端品より、さらに2世代先の技術の新工場を台湾で着工するなど、他社を一気に突き放しにかかる狙いが透けて見える。

半導体製造装置と半導体材料、それらに付帯するサービスを提供する企業の国際的な業界団体であるSEMI(国際半導体製造装置材料協会)が2021年12月に発表したところによると、2022年の世界の半導体製造装置(新品)の販売額は1140億ドルと連続して前年を上回り、過去最高を更新する見通しだ。

半導体製造装置の世界販売額は、過去最高だった2020年の710億ドルから2021年には44.7%増加し1030億ドルと新記録を更新。さらに2022年は連続で記録を更新することが見込まれている。

SEMIは「半導体製造装置全体の販売額が1000億ドルを超えたことは、全世界の半導体産業が旺盛な需要に応えるべく、協調して異例の生産能力拡大を進めたことを反映している。デジタルインフラの構築や、多様な最終製品市場にまたがる長期的トレンドの中で、今後も投資を継続すると見込んでいる」としている。

【図表7】セグメント別半導体製造装置の販売額の推移(2021年以降は予測値)
出所:SEMI半導体製造装置市場統計レポート

コロナ禍で経済が停滞した後遺症によりサプライチェーンにおける混乱は続いている。その一方で、5G、AI、メタバースなど、新たなデジタル技術の湧き起こりとともにチップの需要は急増し続けている。各社による大型設備投資が順調に稼働し始めるのは、2024年以降となるため、供給不足はしばらく続きそうだ。ASMLはデバイス各社による積極的な設備投資の恩恵を受ける企業の代表格である。

エクスポネンシャル・テクノロジーを支えるASML

ASMLは1990年代にオランダの電機大手フィリップスからスピンオフ(分離・独立)した企業で、オランダ南部フェルトホーフェンのとうもろこし畑の隣に本社を構えている。世界でEUV露光装置を生産する唯一の企業で、主要デバイスメーカー全てがASMLの装置を使用している。

半導体の能力向上を語る上で欠かせないのが「ムーアの法則」である。「ムーアの法則」はインテルの共同創業者の1人であるゴードン・ムーア氏が1965年に発表した半導体技術の進歩についての経験則である。すなわち、半導体回路の集積密度は1年半~2年で2倍となるという法則だ。

これまで驚異的な性能進歩を遂げてきたが、そのサイクルは頭打ちになりつつあり、現代のコンピューティング性能向上を支えてきたこの「ムーアの法則」にいよいよ終止符が打たれる可能性があるとの警戒感も高まっている。世界の半導体業界はチップの大きさを変えずにいかに性能を上げるかという難しい課題に直面している。

半導体の小型化、高性能化を推進してきたのが、半導体回路の線幅の微細化である。その微細化の最先端を走っているのがASMLだ。ASMLはリソグラフィーと呼ばれる半導体製造のプロセスにおいて、紫外線を使用し、マイクロチップの基礎となる回路を焼き付けていく過程を担う装置を手がけている。

最近業界を騒がせた出来事があった。インテルがASMLの次世代型半導体製造機器を他社に先駆けて発注したと明らかにしたことだ。インテルが今回発注した「EXE:5200」という機器は2024年に納品され、2025年に運用が開始される予定だ。インテルが自社の技術力の挽回を誇示するために、ASMLの装置を発注したことを公開したとの指摘もあるほどだ。

他社に先駆け最新鋭の装備を導入したとは言え、そのことだけでインテルの成功が保証されるわけでは決してない。現在、最先端の微細化を実現するために使われるEUV(極端紫外線)の露光装置は1台100〜200億円規模と高額だ。しかし、このように高額な装置を半導体各社がこぞって導入し、また導入したことがプレゼンス向上にもつながっている。それはどうしてなのか。

なぜなら、半導体業界が「ムーアの法則」を維持するためには、ASMLの先端半導体製造装置がカギになるからだ。ウォール・ストリート・ジャーナルの2016年10月3日付の記事「ASMLの半導体技術、『ムーアの法則』維持できるか」は次のように記している。

人間の髪の毛1本の幅は約7万5000ナノメーター。業界標準の半導体製造装置でレーザー光を使って作れる溝の幅は38ナノメーター。一方、ASMLの「遠紫外線リソグラフィー(EUV)」という技術を使えば、16ナノメーターの幅の溝を作ることが可能だ。
(中略)
トランジスタをたくさん集積することが出来れば、処理のスピードを向上させたり、メモリの記憶容量を増やしたりできる。ASMLの新技術によってムーアの法則が保てる可能性があるのだ。

ASMLは、ムーアの法則は継続すると自信を持っており、技術的困難も克服したため「次の10年は容易だ」と述べている。

エクスポネンシャルな(指数関数的に成長する)技術、つまり「ムーアの法則」を実現するために必要なのが、ASMLが製造する最先端露光装置である。この最先端露光装置はASMLが独占している。デジタルの世界がこれまで指数関数的に成長してきた背景には半導体の存在があるが、その半導体のさらなる微細化の背景にはASMLの存在がある。ASMLは「ムーアの法則」を支えるど真ん中の企業なのだ。

石原順の注目5銘柄

ASMLホールディング(ASML)
出所:トレードステーション
アプライド・マテリアルズ(AMAT)
出所:トレードステーション
TSMC(TSM)
出所:トレードステーション
エヌビディア(NVDA)
出所:トレードステーション
インテル(INTC)
出所:トレードステーション